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登場人物紹介、試し読み、番外編

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マガジンのタイトルどおり。現在、番外編も連載中。
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#境内ではお静かに

番外編の番外編「兄貴はどこかで名探偵」(後編)

前編はこちら 番外編本当の本当に最終話。超絶書きたい放題に書いた話です。(今回の文章量:文庫見開き強) 「世界観?」  意味がわからず復唱する俺には答えず、兄貴は問う。 「あの一族を襲った惨劇以外で、僕が解決した事件の内容は聞いた?」  フレイム事件は、女性の死体を燃やす連続殺人鬼の奇妙すぎる動機を解き明かした事件。ステルス事件は、透明人間になれるスーツをつくっている研究所に乗り込み、殺人を繰り返す犯人を捕まえた事件──という聞いたとおりの内容を話すと、兄貴は頷いた

番外編の番外編「兄貴はどこかで名探偵」(前編)

番外編の本当に最終話。あまりに作品世界にそぐわないのでボツにした話をせっかくなので公開します。(今回の文章量:文庫見開き強)  祝日ということもあり、今日は朝から参拝者が多くて忙しい。しかも、兄貴が近隣神社の会合で夜まで戻らないので、人手が足りない。  というわけで、ようやくの昼休み。疲れ果てた俺は、倒れ込むように応接間の畳に腰を下ろした。社務所内にあるこの部屋は、お客さんがいないときは、俺たち職員の休憩室になっている。  雫もこの時間帯から昼休みだが、顔を洗ってくると

番外編9「最終章」第4話(全4話)

第1話はこちら 第2話はこちら 第3話はこちら とりあえず最終回なので、それらしいラストにしてみました。(今回の文章量:文庫見開き強)  ワンレンさんと茶髪さんがいなくなって俺と二人きりになるなり、雫は表情を一変させる。 「どうしてしまったんでしょう。壮馬さんはなにも言ってないから、わたしがお気に障ることを……」 「気にすることないと思いますよ」  俺が慰めても、雫は釈然としないままだ。 「壮馬さんに、心当たりはありませんか」 「あるわけないです。なにか用事を思い出

番外編9「最終章」第3話(全4話)

第1話はこちら 第2話はこちら このノリの話もあと2回で終わりかと思うと、ちょっとさみしい。(今回の文章量:文庫見開き)  お待ちなさい──こんなドラマみたいな言葉を言われたのは、生まれて初めてだ。  そもそも、かけられた人の方が少ないんじゃないか?  雫は箒を社殿に立てかけると、戸惑う俺の袖を引いて歩き出した。俺は、されるがままに連行される。雫の足がとまったのは、楠の木陰、ワンレンさんと茶髪さんからは見えない位置だった。雫が俺を見上げる。  その顔を見た瞬間、俺の戸

番外編9「最終章」第2話(全4話)

第1話はこちら 壮馬と栄達は目許が似ているらしいけれど、番外編なので本編とは無関係ということで←作者とは思えないアバウトっぷり。(今回の文章量:文庫見開き強)  壮馬くん推し──耳慣れない単語に戸惑いながら、俺は問う。 「宮司のファンはやめたんですか?」 「そんなはずないでしょ。いまも栄達さんは、私たちのアイドルよ。スマホの待ち受けにもしているわ」 「アタシなんて、今日も栄達さんの夢を見たよ。夢の中とはいえ、あんなことを言ってくれるなんて。マジすてき」 「断っておきます

番外編9「最終章」第1話(全4話)

壮馬くん、番外編最終章にしてモテ期到来。(今回の文章量:文庫ほぼ見開き)  外回りの営業マンだろうか、参拝を終えた男性が、社殿の方から歩いてきた。雫は箒を動かす手をとめると、愛らしい笑みを浮かべる。 「ようこそお参りでした」  雫に笑みを返した男性が鳥居に続く階段を下りていき、辺りに参拝者がいなくなる。その途端、雫は一瞬にして氷の無表情に戻った。いつものことながら、愛嬌を振り撒くのは参拝者限定だ。劇的すぎる表情変化に、さすがにあきれ顔になってしまう。  雫は俺を見上げ

番外編8「手水舎にて」第5話(全5話)

第1話はこちら 第2話はこちら 第3話はこちら 第4話はこちら 番外編最長のお話完結編。ここ数話の壮馬の行動種明かし。(今回の文章量:文庫見開きよりちょっと多め) 「……し、雫さんを一人にするなんて発想、抱いたことすらないです……よ」  たどたどしく言っているうちに、自然と苦笑が浮かんだ。  ここにいても、俺にはどうせなにもできない。  できることは、手水舎の動画を見せることだけ。  もちろん、スマホを取りにいっている間、雫を一人にしなくてはならないことに抵抗はあっ

番外編8「手水舎にて」第4話(全5話)

第1話はこちら 第2話はこちら 第3話はこちら 壮馬くん、地味に雫を助けるの巻。(今回の文章量:文庫ほぼ見開き) 「これを見てください!」  どうせ言葉が通じないのだから日本語で叫び、俺は指差した。  右手に握りしめた「それ」──スマホを。  スマホは、奉務中は授与所の奥にある事務室に置いたままにしている。断腸の思いで雫を一人残した俺は、これを取りにいっていたのだ。  眉間にしわを寄せたままの三人組に、俺はスマホを突きつける。  ディスプレイに映っているのは、手水舎

番外編8「手水舎にて」第3話(全5話)

第1話はこちら 第2話はこちら 番外編史上最高に危機感が高まってます。(今回の文章量:文庫ほぼ見開き) 「ご遠慮なく授与所へどうぞ」  絞り出すように言った俺とは対照的に、雫の口調は淡々としていた。酔っ払った三人組は、いまにも雫の胸ぐらをつかまんばかりの勢いなのに。  参拝者たちは、見て見ぬふりをして通りすぎていく。階段を上って境内に足を踏み入れるなり、踵を返す人もいた。  雫は完全に、孤立無援だ。  身長が150センチ前後しかない雫に対して、三人組はそろって大きい

番外編8「手水舎にて」第2話(全5話)

第1話はこちら タイトルとは裏腹に、手水舎が一切出てこないな……。(今回の文章量:文庫見開き弱)  一人が強い口調で言ったのを皮切りに、ほかの二人も、勢いよくなにか捲し立て始めた。俺は慌てて授与所を飛び出し、雫の傍に駆け寄る。 「どうしたんですか?」 「わたしが話した英語の意味を誤解して、怒っているようです」  参拝者向けの愛くるしい笑顔のまま答えられたので、言葉の意味を理解するのが一拍以上遅れたが。 「まずいじゃないですか!」 「そうですね。勉強中でまだ手探りなの

番外編8「手水舎にて」第1話(全5話)

手水舎の蘊蓄回。(今回の文章量:文庫見開き弱)  今日は朝から風が強い。境内に生えた背の高い樹々の枝は大きくしなり、葉がざわざわ音を立てている。  そんな中、雫は一本に束ねた黒髪を左手で押さえながら、いつものように愛くるしい笑顔を浮かべて手水舎【ちょうずや】の傍にいた。  小柄な雫を見下ろすように立っているのは、プロレスラーのように隆々とした体格の、大柄な白人男性三人。 「手水舎の傍で外国人と話す雫」は、この神社でよく目にする光景だ。  手水舎というのは、鳥居から社殿

番外編7「本編第三帖のボツシーン」

第三帖の冒頭、「白峰に雫をあきらめるように言われる壮馬」のボツシーンです。『ジャーロ』掲載原稿をもとに書きました。ボツの理由は最後に。 ※本編のネタバレをしているので、未読の方は注意! 【ここからボツシーン】 「早く嬢ちゃんに告白して、振られちまったらどうだ。ちゃんと自分の気持ちを打ち明けないと、この先、何年も後悔することになるぞ」 「雫さんに、そういう感情は抱いてませんから」  平静を装って言うと、白峰さんは背伸びして顔を近づけてきた。 「そういう感情を抱きかけてる

番外編6「100円玉がない」第4話(全4話)

第1話はこちら 第2話はこちら 第3話はこちら 100円玉をさがすだけの話、完結編。(今回の文章量:文庫見開き強) 「壮馬さんは、先にあがってください。わたしは100円を見つけるまで休むわけにはいきません。それがわたしの責任であり、義務です」  この子は本気で言っている。  一緒に夕飯を食べるためには、気づかれないよう速やかに木箱に100円玉を戻し、もう一度数え直すしかない!  幸い、雫はしゃがみ込んだまま歩き回り、床に視線を固定させている。  一つ唾を飲み込んだ俺

番外編6「100円玉がない」第3話(全4話)

第1話はこちら 第2話はこちら 本編に描かれていないところで、壮馬は兄貴夫婦に苦労させられていることが判明。(今回の文章量:文庫ほぼ見開き) 「わたしは壮馬さんの教育係として、今日一日、参拝者さまとのお金のやり取りをきちんと見ていました。受け渡しのミスはなかったはず。わたしだって、そんなミスをするはずがない。やはり、どこかに落ちているとしか考えられません」  雫はそう言うと、しゃがみこんで100円玉をさがし始めた。大きな瞳は、食い入るように床を見つめている。  でも「