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「Hypoxyphilia」
少し顎を上げる。目線はあなたの瞳。優しい人。
美しい指先が、私の首を掴む。モノのように、確実に。
力が込められ、思わず目を閉じてしまう。
見ていたいのに、無駄にできる瞬間なんてないのに。
こめかみが張り詰める。脳が破裂しそうな圧迫感。
緊急事態は誤報となり、たちまち幸福へと導かれる。
快感が押し寄せ、多幸感は最高潮。
ここまでは知っている。自分ではここまで。
その先に触れたくても、望んではいけない
「代わりのない性玩具」
私を誘ったあなた。
あの時の姿は、もうない。
回数を重ねる毎にエスカレーションする私たちの行為は、あなたを人ではないモノへと堕とした。
私を抱き寄せた大きな手は、今じゃ私を悦ばせる道具のひとつでしかなくなった。
追いかけるように絡めた舌は、私の体液を一滴残さず味わうために機能する。
熱く見つめたその目は、今じゃ私の何を見てるかわからない。
こうして時々寂しさが私の心をざわつかせる。
もうあの
「黙って声聞いてて」
もう限界だった。
『今電話できる?』
『できますよ』
―――
「もしもし? どうしたんですか?」
「今から一人でするから、黙って聞いてて」
「え? あまねさん?」
「いいから、すぐ終わる」
携帯を耳に当てたまま、右手を下着の中に滑り込ませる。帰宅しそのままベッドへ直行した私の手は、氷のように冷たかった。
「…あまねさん」
「ん…黙って」
「はい…」
服の上から撫でることもなく、好きでも
「セックスはいいや」
今日、彼氏だった人とのセックスを拒否した。
もうずっと嫌だった。
お決まりの流れで進む愛撫。ほどなくして“舐めて”の合図。濡れる前に告げられる『あ、イく』。
今夜もいつものように帰りの車内で「今日泊まれる?」と聞かれ、私は「セックスしたくないから帰ります」と答えた。気持ちの悪い静かな口論。おかげさまで別れることになりました。
一人での帰り道。今夜は風が気持ちよかった。
コンビニで缶ビールを買い、
「もっと、来てくださいよ」
屈服なんて、したことない。
本当に負けた気になったことがない。
引っ叩かれて、絞められて。
我慢できずに顔を歪ませ声をあげるけど。
目が合えば涙で崩れたアイメイクのまま「もっと来いよ」とにっこり微笑む。
泣いても喚いても終わらない加虐に意識が朦朧としてくるが、「でも濡れてんじゃん」の一言で現実へと引き戻される。
乱れた吐息が酷い叫声に変わる頃、私という人間が、次第に一つの塊へと変化していく。