人生デザイン講座(8)夢の仕事をデザインする



【行き詰まり思考】→  夢の仕事がどこかで待ってるはず。

【こう考え直そう】→  夢の仕事とは、積極的に追い求め、ほかのひとびとと一緒につくり上げていくことより、デザインするもの。







●就活に全滅した学生が引く手あまたになったわけ【仕事のオファーが舞い込む脅威のアプローチ】




では、あなたの夢があなたを待ち受けていないとしたら、どこを探せばいいのだろう?

まず、ひとつだけははっきりさせておこう。夢の仕事なんてものははじめから存在しない。

ユニコーン(成長してるベンチャー)もタダ飯も。面白い仕事ならたくさんある。誠実に仕事をしようとしている真面目で勤勉な社員たちが、そういう価値ある組織を築いている。

実際、よい職場、よい同僚に恵まれたよい仕事と言うものはある。そんな仕事を、あなたが心から好きになれる完璧に近い仕事に変えることができるだろう。私たちが探すお手伝いをできるのはそういう意味での「夢の仕事」だが、その仕事のほとんどは隠れた求人市場の中にあり、今のあなたには見えないのだ。


前章で説明した通り、ネット就活はお勧めしない。アメリカでは全仕事の20%しかネットなどに公開されない。つまり、空きがある仕事の日に8割は、職探しの標準モデルでは見つからないわけだ。これはものすごい数字だ。多くの人が職探しで失望味わい、拒絶された気分になるのも不思議はない。


では、この隠れた求人市場に忍び込むには?実は、不可能だ。


「隠れた求人市場に忍び込む」と言うこと自体がありえないのだ。隠れた求人市場とは、既にその業界の職業ネットワークに属している人々にしか聞かれていない求人市場だからだ。いわばインサイダーの市場であり、一般の求職者としてそのネットワークに入り込むのはほとんど不可能なのだ。

ただし、業界に心から興味を持つ人間。仕事を探しているのではなく、ただ話を聞きに行きたがっている人間としてネットワークに潜り込む事ならできる。第⑥章で、あなたの追求すべき仕事を見つけだす最善の手段として、「ライフスタイルインタビュー」を紹介した。一旦興味のある分野が見つかったら、今度はその分野の隠れた求人市場に忍び込む最善の(唯一ではないにせよ)手段として、私のライフデザインインタビューが役立つ


第⑦章で登場したカートを思い出してほしい。これはイエール大学とスタンフォード大学の博士号を持ち、38社に応募しながらも全敗した。これは従来の就活のやり方でうまくいかず、落胆した。彼はデザイン思考を就活に生かすべきだと気づき、求人に応募するのをやめ、ライフデザインインタビューを実施し始めた。

彼は自分が心から会いたいと思った人々と56回の正真正銘のライフデザインインタビューを重ねた結果、7つの素晴らしい仕事のオファーをもらい、現実的な意味での夢の仕事を手に入れた。

現在、彼は環境的に持続可能なデザインの分野で、ある企業の正社員として働き、柔軟な勤務時間、短時間通勤、なかなかの給料、やりがいのある仕事と言う4拍子も揃ったキャリアを送っている。そして、

思い出してほしいのだが、このインタビューの目的は、特定の仕事や役職について学び、将来的に自分でその仕事を試してみたいかどうかを知ることだ。

なので、インタビュー中は仕事を求めたりはせず、話を聞くことに専念する。「ちょっと待った。確かカードは56回のインタビューで7つのオファーをもらったはずでは?一体どうやって?どうして話を聞いてるだけで仕事がもらえるのか?」

いい質問だ。そして重要な質問だ。ただ、答えは驚くほどシンプルだ。ほとんどの場合、話を聞かせてくれる人々は人助けモードになっている。

「カート、家の仕事にかなり興味があるようだね。それに、君の今までの話を聞いていると、家の戦力にもなってくれそうだ。どうだい、うちみたいな職場で働こうと思った事はないかな?」

私たちがお勧めしているアプローチが仕事のオファーにつながるケースでは、半数以上が向こうからオファーを切り出す。あなたは何もしなくて良い。向こうが切り出さなければ、会話を相手の話から仕事の話と切り替える質問を1つだけしてみよう。


「御社の話を聞き、ここの人たちと会うにつれて、どんどん興味が湧いてきました。私のような人間がこの組織に入ろうと思ったら、どういうステップが必要なのでしょうか?」


それだけだ。この質問をされると、相手はすぐさまギアを切り替え、あなたを候補者として客観的に捉え始める。そう、彼は脳を「評価」モードに切り替え始めるのだ。でも、それでオッケー。いつかはそういう瞬間がやってくるので、タイミングを見計らって切り出してみよう。

ただし、「うわー、最高の職場ですね!求人はありませんか?」などと言ってもだめだ。

先ほど述べた理由で、答えはおそらく「ノー」だろう。「どういうステップが必要なのでしょうか?」という質問は、イエスかノーかの質問ではないので可能性ははるかに膨らむ。

現在求人があるかどうかは関係がないのだ。そして、すでに関係を築き、一定の信頼を勝ちとって相手にこの質問することで、率直ながらも協力的な回答が期待できる。

場合によっては、こんなふうに答えてくれるかもしれない。「うちでは近いうちに求人の予定はないが、パートナー企業の1つに、君にぴったりだと思う会社がある。「グリーンスペース」と言う会社なんだけど、誰かと会った事は?君が好きそうな会社なんだ」

こういう事は起きる。しょっちゅう。

ちなみに、カードがオファーをもらった7件のうちの6社は、彼から仕事についてきりだったわけではなかった。彼はインタビュー相手の話を聞いていただけ。そのうち向こうが切り出してきたのだ。


彼が受け取ったのは、1つを除いてみな非公開の求人【隠れた求人市場の一部】だった。



●人脈はもう一つのワールドワイドウェブ


後はインタビューに本腰を入れ始めた時、会うべき人々への「紹介」を得るため、あらゆるタイプの人々に連絡する必要があった。

そのために必要なのが「人脈づくり」だった。彼は知り合いやその知り合い、ときにはオンラインで見つけた赤の他人にも連絡した。

そして、彼は片っ端から尋ねていた。「アトランタ地域の持続可能建築について詳しく知るには、誰の話を聞けばいいでしょう?」大変な作業だった。カートの好きな作業ではなかったが(誰でもそうだろう)、結局は功を奏した。そして、これこそが絶対に必要なプロセスなのだ。

人脈づくり」と言う言葉を聞くと、反射的に嫌悪感を抱く人が多い

他人を操って漁夫の利を得ようとする自己中心的で口の上手い人や、別の人に近づく道具にしようと誰かにするよるペテン師をイメージするからだ。

こうした悪いイメージを強烈で、映画や小説の登場人物や、私たちがあったり聞いたりした実在の人々によって強められている。こうしたステレオタイプの人間は実在しないわけではないが、幸いにもかなりの少数派だ。人脈作りの見方を変えれば、悪いイメージを払拭できるかもしれない。


【行き詰まり思考】→人脈づくりは人間を利用しようとするずるい手段。

【人生デザイン思考】→人脈づくりは「道を訊ねる」のと同じこと。


街を歩いていて、見知らぬ人に呼び止められた経験は?その人が見るからに困った顔している。あなたならどうする?

ほとんどの人は道を教え、相手を助けるだろう。

さて、あなたの道案内と情報を持って去った相手について、どう感じるだろう?「まんまと利用された」と思うだろうか?次の日にお礼の電話が来ないとか、あなたの都合などお構いなしに最寄りのカフェにたどり着くことばかり考えている事について、イラっとくるだろうか?

もちろんそんなわけは無い。むしろ、人助けができて嬉しいと思うだろう。この点は数々の研究で実証されている。ほとんどの人は人助けが好きなのだ。人助けは人間のDNAに刻み込まれている。人間は社会的な生き物で、人助けは私たちを最高の気分にしてくれる。


カートはアトランタの持続可能建築と言う業界について右も左もわからずにいた。あなたは、香港のナノテクノロジー業界、ウィチタのクラフトビール業界、シアトルの救急救命室の看護師組合についてわからずにいるかもしれない。

どうすればいいか?現地の人に道を尋ねれば良い。

話を聞くべき人を紹介してもらうのは、道を尋ねることの職業版に過ぎない。だから、思い切って道を訊ねよう。簡単なことだ。

人脈づくりの目的は、ネットワークを「作る」こと自体ではなく、そのネットワークに参加すること。

簡単に言えば、特定の会話(例えば持続可能な建築についての会話)が行われているコミュニティーに入り込むことなのだ

人間の活動は、どんな分野であれ、生身の人間同士の関係のネットワークによってつなぎとめられている

このネットワークこそが、社会のその部分を根底から支え、包み込み、つなぎとめている骨組みなのだ。私たちが属しているスタンフォード大学の「ネットワーク」は、サンフォード大学をつなぎとめているし、シリコンバレーの「ネットワーク」は、テクノロジー起業を成功に導く西海岸の人々のゆるいコミュニティーと言える。

成功に導く西海岸の人々の売り込みについて言える。

ほとんどの人は職業的ネットワーク(同僚)と個人的なネットワーク(友人や家族)の両方を持っている

職業的ネットワークに入り込む最も一般的な方法は、個人的ネットワークによる紹介だ。これはえこひいきではなく社会的な行動だ。

個人的ネットワークや職業的ネットワークを利用して、新たな人々をコミュニティー内の会話へと迎え入れるのは良いことだ。ネットワークは仕事を成し遂げる人々のコミュニティーを維持するためにあるし、優れた求人市場にアクセスする唯一の手段でもある。


インターネットが職探しを一変させる可能性があるとすれば、それは人脈づくりに関してだ。


インターネットオンライン求人情報の検索手段としてではなく、話を聞きたい相手を探し、連絡する手段として利用するわけだ。


先日、数年前に卒業したベラと言う私たちの教え子が、このアプローチのおかげで幸せに暮らしていると連絡をくれた。彼女は発展途上国への投資に影響与えると言う目標見つけ、その分野で3つのすばらしいオファーをもらい、聞いたこともない投資専門会社のオファーを受け入れた。かかった費用はたった200回の会話だけ。わずか半年で200回。本当だ。

ベラの話によると、その200人のうちの100人以上は、GoogleとLinkedInを見つけて連絡することができた。

もちろん、ベラは個人や組織についてじっくりと下調べをし、できるだけ個人的の紹介を得られるよう人脈作りに励んだが、インターネットツールを賢く利用したのが大きかった。

LinkedInは探している人々を見つけ出すのに大助かりだ。こうしたツールの使い方のコツについては、多くの書籍やオンライン講座が出回っている(LinkedIn自体も提供している)。ぜひ利用しよう。LinkedInやGoogleの達人になれば、インターネットは無数の応募書類を吸い込むブラックホールから、魔法の道具へと早変わりするのだ。


●仕事ではなくオファーに注目する

1956年設立の非営利組織「全米大学、雇用者協会」は、毎年、新卒生と雇用に関するデータをまとめている。最近の卒業生の平均給与は?雇用主が求めているスキルの上位は?新卒生が仕事に1番求めるものは?ためしに、2014年の卒業生が就活で重視することの一位を当ててみて欲しい。正解は…

仕事の性質だ。

二位が給与、三位が職場の雰囲気。これで、全くあてにならない就活生の希望条件のトップ3が完成だ。

この希望条件のどこが問題なのか?

問題は、就職が決まる直前まで、その「仕事の性質」がホントにはわからない。知り得ない。と言うことだ。職務記述書(求人票)の多くは無意味で不正確だし、ほとんどの人は応募しないうちから、自分に「行かない」と思う仕事を除外してしまう(その仕事が実際にどういうものかも理解していないのに…)。この「卵が先か鶏が先か)と言う厄介な問題は、あなたの潜在的な機会を大幅に狭めてしまう。だからこそ、キャリアデザインでは大きな視点の切り替えが必要だ。あなたが目を向けるべきなのは、仕事ではなくオファーの方なのだ。


【行き詰まり思考】→  私が探しているのは私に合う仕事。

【人生デザイン思考】→  私が探すべきなのは何通りかの仕事のオファー。


一見すると、大した違いでは無いように思えるが、実はとても重要だ。こう考えると、


・どの仕事を検討するか?

・どういうカバーレターや履歴書を作るか?

・どう面接に臨むか?

・どう採用までこぎつけ、最終的に自分の求めている機会を手に入れるか?


など、何もかもが変わる。1番変わるのはマインドセットだ

目の前の仕事。しかも全く内容がわからない仕事。を引き受けるかどうかを受け身で判断するだけの人間から、その組織の中でどういう興味深いオファーを得られるかを模索する人間へと変わる。

そして、「評価」から「探求」「自動的」から「能動的」へと視点が180度ひっくり返る。大違いだ。


仕事を探そうとすると、目の前の仕事だけに意識が固定され、あなたの行動は採用担当者の説得だけに特化してしまう。


「ぜひ私を採用してください」

「ぜひ私を採用してください」

「この仕事は私の究極の転職です」

「この職務記述書(求人)を私にぴったりです」

「私とこの仕事は運命のペアです。別々に生きるなんて考えられません」


と言うように。


実際の仕事の性質についてはあまりよくわからないので、採用してもらうには熱意を装うしかない

そう、嘘をつくか応募しないかの二者択一になってしまうのだ。そして、嘘が好きな人はいない。しかし、仕事ではなくオファーを探せば、全てが変わる。たった1つの仕事を手に入れることから、なるべく多くの仕事のオファーを得ることへと目的が変わるのだ。もう嘘をつく必要もないし、目の前の仕事に心から興味が持てる。「オファーについて検討させてください」と言うのは紛れもなくほんとのことだからだ。


これは言葉上の問題ではなくて。本音かどうかの問題だ。

仕事探しからオファー探しへと視点を転換すれば、正直に、生き生きと、粘り強く、遊び心を持って次の役職や機会を探せる。そして皮肉にも、その方がむしろオファーを受けやすくなる。人々は履歴書を雇うわけではない。自分の好きな人間、興味のある人間を雇うのだ。

では、わたしたち1番興味を持つ人間とはどういう人間だろうか?もうおわかりだろう。


デートの相手であれ、職場の同僚であれ、自分に1番興味を持ってくれている人間だ。


となると、話はめぐりめぐって「好奇心」へと戻る。好奇心は、ライフデザインで最も重要なマインドセットの1つだ。はじめて就職しようとしているのであれ、転職を検討しているのであれ、第二のキャリアを選ぼうとしているのであれば、大事なのは心からの好奇心を持つこと。様々な可能性に心を開き、好奇心を持つと言う点こそ、ライフデザインインタビューやプロトタイプ体験の大切なポイントだ。

私たちはこうした可能性のことを「隠れる素晴らしさ」と呼んでいる

「この組織のどこかで、私にとって興味深いことが行われている可能性は20%あるだろうか? 10%ならどうか?」答えがイエスなら、探してみたくは無いだろうか?それを探してみたいと言う気持ちが、本心からの好奇心を生み、その組織の「隠れる素晴らしさ」を探そうと言う熱意へとつながる。

あなたはそういう組織を、「自分には合わない」と決めつけて早々に見きってしまってはいないだろうか?

詳しく調べてみるまで、オファーを求めてみるまでは、その仕事の性質なんてわからない。欠陥だらけの職務記述書(求人表)からもわからない。原因は、その仕事やその企業に対する先入観にある。


実際にオファーを受け取るまでは、その仕事についてよくわからないことがほとんどだ。だから、なるべく多くのオファーを求めよ。あなたに必要なのは、その中の1つが自分に合っているかもしれないと言う「可能性」だけ。可能性さえあればいい。


いつの日か、全米大学、雇用協会の毎年恒例の調査で、大学生が仕事に求めるものの一位が「仕事の性質」ではなくなる時が来るかもしれない。その時にはきっと、組織の「隠れる素晴らしさ」、

先入観ではなく「可能性」に目が向けられるようになるだろう。


●夢の仕事なんてない

カートはいろいろな人と正真正銘の会話をし、素晴らしい仕事を見つけ、理想の仕事と作り替えて行った。同じ事はきっとあなたにもできる。確かに簡単ではない。相当な努力がいるし、怖気付くこともある。それでも、驚くほど楽しいし、隠れた求人市場に入り込む唯一の手段でもある。ある程度までは数字のゲームとも言える。関係を築けば気づいただけ、プロトタイプを試せば試しただけ、得られるオファーも多くなる。

比べてみてほしい。

38回の応募で全くオファーなし。56回の会話で7つのオファーと貴重な職業ネットワーク。

どちらのやり方がいいか?あなた次第だ。

デザイン思考を用いれば、初の仕事を手に入れたり、現在の仕事を一変させたり、次の仕事デザインしたり、仕事観と人生観が一致するキャリアを築いたりすることは十分にできる。そして、そうするようお勧めする。「魅惑の仕事」があなたを助けにやってくるなんて事は無いからだ。あなたにとって夢の仕事が完成した形で存在し、あなたに見つけられるのを待っていると言う考えは、おとぎ話に過ぎないのだ。


では、「驚くほど理想に近い最高の仕事」をデザインするには?



やり方は人生をデザインする時と同じだ。デザイナーの考え方を身に付け、選択肢を見出し、プロトタイプを作り、なるべく最善の選択をする。そして、その選択に従って生きていく術を学ぶのだ。




それが次章のテーマだ。

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