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ゴキブリに負けて家に穴が開いた話


昨年7月某日、我々は未知なる妖精ゴキブリとの接触に成功した。

激闘の末にゴキブリは退治され、世界には安寧が戻ったかに思われた…

月日は経ち、秋が訪れた。
くらしのマーケットから教わったゴキブリ予防のライフハックも守りながら、奴の存在も半ば忘れかけていた時のことだった。

風呂に入ろうと脱衣場を開けた時。
いるはずのない奴の姿がそこにあった。


ゴキブリである。


思わず脱衣場の扉を閉める。
何故だ。
アイツはもうこの世から消したはずだ。

ゴキブリ一派も一枚岩ではないからな(このネタ通じる人どのくらいいるんだ)

前回の戦いで私はもうこの地球上の全てのゴキブリを消し去った気でいたので、奴と戦う術を何一つ持っていなかった。
私は部屋着のまま車を飛ばして(法定速度)ドラッグストアへ向かった。

ゴキブリ退治スターターパック

会計をしながら、確実に店員に(コイツんちリアルタイムでゴキブリいるんだな)と思われているのがヒシヒシと伝わった。
そして聞かれてもいないのにうっかり「出たんすよ…奴がね」と説明してしまい「…ッス」みたいな反応をされ、これは別に言わなくても良かったなと帰り道で少し後悔した。

意を決して脱衣場の扉を開ける。

なんと奴がいないのだ。

扉は確かに閉めて外出した。
壁を叩いても、洗濯機をひっくり返してみても、どこにもいない。

ふと床に目を落とすと、扉と床の間に微妙にゴキブリ1枚ほどの隙間が開いている。
確実に奴はそこから逃げていた。とんだ欠陥住宅である。
私が武器を買い揃えている間、奴は勝手にバトルフィールドを移してしまっていた。

そして重大なミスに気付いたのだが、私の買った武器では目前のゴキブリを倒すことが出来なかった。
もうキンチョールしかない。
そう思い1階に降り、再び階段を登ろうとしたその時…奴は現れたのである。

イメージ図
(ゴキブリのステッカーがあまりに気持ち悪かったため妖精で代用しています)

奴は階段の一番上から私を見下ろしていた。
逃げも隠れもしないその佇まいからはエヴァに乗れという碇ゲンドウの風格すら感じられた。
ふざけやがって、誰が家主か分からせてやる
そう思い階段を駆け上がった瞬間


落ちた



びっくりするくらい転げ落ちた。
壁は凹んだ。

いえのあな確定

最上段にゴキブリ、最下段には死んだセミのようにひっくり返っている自分という構図を俯瞰から見ながら私は、生物としての“敗北”を感じていた。オークに負けた女騎士はこんな気持ちだったんだな。
どうしようもない。負けだ。家主はお前だ。残りのローンはお前が払えよな。


しばらくして少し前にゴキブリの話を聞いた友人が駆けつけてくれた。
「ゴキブリに負けたので家を明け渡すことにしました」と言う私を一喝し、最強の武器とやらを渡してくれた。ラスボス手前で出てくる意味深な長老にも見えた。

パーツクリーナー

ご存知だろうか。
私はご存知ではなかった。
文字通りパーツをクリーナーするためのスプレーで、車やバイクを弄る人にとってはおなじみのアイテムらしい。
なんとこのパーツクリーナーがゴキブリに効くという話なのだ。

ゴキブリ綺麗にしてどうすんだよという気持ちもあったが、今の私はゴキブリ以下なので大人しく人間に従うことにした。 

先程ド派手な転落を見たにも関わらず、ゴキブリはなんとまだ階段にいた。
家を乗っ取ったので逃げも隠れもしないスタンスなのだろう。そう思うと元家主としてはやっぱり腹が立ったので、私はパーツクリーナーを奴に吹き掛けた。

死んだ。


思っていた6倍くらいあっさり死んだ。
ゴム、機械、ブレーキ、ベアリングに効くと書かれているが、それらを略してゴキブリにも効くのかな、とアイドルのブログを縦読みして深読みする厄介オタクみたいなことを考えていた。
家の壁と私の後頭部という犠牲は払ったものの、今回もなんとかゴキブリには勝利し、人間としての威厳を保つことができた。
対戦ありがとうございました。

パーツクリーナーはゴキブリにとても効いたものの、当たり前だが製造元はそんな意図では作っていないので、真似する際は自己責任で噴射してください。


余談だが、勢い余って購入したブラックキャップを勿体ないので家中に張り巡らせてみたのだが

これが寝ぼけて見ると思った以上にゴキブリと見間違い、慣れるまでまた情けない声を上げてしまったので、道端に健気に咲くタンポポだか何かのフォルムにしてほしいと思った。

おしまい

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