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ゴキブリを妖精だと思っていた話


私が趣味で作っている動画には、よくゴキブリが登場する。


私は生まれてこのかたゴキブリという生物を見たことがなく、フィクションの登場人物がワーキャー言ってくれる話のスパイスくらいに思っていた。
なんならテケテケかくねくねくらいのオカルトだと思っていたし、なんJ等でよく見る「【悲報】ワイの部屋ゴキブリ出現」みたいなスレはきさらぎ駅のような都市伝説、異世界の妖精くらいのノリで見ていたのである。


名誉のために言うと我が家は毎日掃除しており、もちろん生ごみも放置していない。
ゴキブリなど出るはずもない。
そう、ゴキブリエアプの私はゴキブリ=台所という固定観念に囚われていたのだ。


風呂場でゴキブリを見たあの時までは…



邂逅

それは風呂場に置いてあるクレンジングを取ろうとした時のことだった。


そこに奴はいた。


フィクションの中でしか見たことのない生ゴキブリがそこにいたのである。想像よりもだいぶ茶色で、最初はアーモンドチョコレートでも落としたのかと思った。
大体この手のシチュエーションでゴキブリと邂逅した者は悲鳴を上げるのが定石となっている。
しかし現実で口から出た言葉は違ったのだ。 


「なるほど…」


何がなるほどなのかまったく分からないが、なるほどという言葉が池上彰くらいのトーンで口から出た。
このなるほどという言葉、私が会話中で内容がよく分かっていない時に使う口癖である。

とりあえず脱衣所に大正義キンチョールが置いてあるのでそれを取り、冷静に振り返る。


この間約3秒、奴が消えた。



なぜかゴキブリは忽然と姿を消したのだ。
見間違いか…?
私の中のIKKOさんが幻だと囁く。
排水溝の蓋を開ける。いない。


水陸両用型か?そんな馬鹿な…
前日には親の仇のようにパイプユニッシュをぶち込んでいる。
あの数秒で天井の換気扇に入る可能性も低い。

ではどこに…?
この時はまだ、私の中でゴキブリ空想上の妖精説はまだ生きていた。
まぁヒットしないだろうという思いを持ちながら「風呂場 ゴキブリ」というワードで検索をする。



浴槽エプロン


その部分の名称を初めて知ったのだ。
エプロンという単語につく枕詞なんて、裸くらいしかないと思っていた。
実家の風呂にはそんなパーツはなかったこともあり、そもそもその部分が外れるという事実を初めて知った。
ゴキブリはそこに隠れたのだ。

なんとゴキブリめらは生ごみだけでなく、髪の毛や石鹸カスも食べるらしいのだ。
さらに湿気があるところを好むため、この季節は許可なく風呂に住み着くらしい。


これまでも姿が見えなかっただけで、もしかしたら「ゴキブリがいるかもしれない風呂」だったのかもしれない。
しかし、私が視認してしまったことで「ゴキブリがどこかにいる風呂」へ変わってしまったのである。あーあ、箱の中の猫死んじゃった…
そもそも台所ならまだしも、風呂場というこの世でいちばん人間が無防備になる場所でゴキブリがどこからともなく現れる恐怖に耐えながら髪を洗うなどできない。奴らはやり方が卑劣すぎた。

封印された風呂場



別れ

風呂場を封印した3日後、ゴリエでおなじみのくらしのマーケットに依頼し、風呂場を徹底的に掃除して頂いた。
掃除中に私は離れていたのだが、業者の方は浴槽エプロンに隠れていたゴキブリをあっさり退治して外に捨ててくれた。
さらに「たまたま入ってきて住み着いただけので、繁殖はしていないので安心していいてですよ」というお言葉まで頂いた。顧客のメンタルケアまでしてくれるらしい。

私はくらしのマーケットの回し者でもなんでもないが、辺境のド田舎まで出張して頂き、ゴキブリを処理し、換気扇から床のカビまで徹底的に掃除して13000円はかなり安いと思う。
お礼に飲み物でも渡したかったのだが、嫌がらせのように死ぬほどすっぱいレモン炭酸水しかなく、3回くらい「つまらないものなんですが…」と言いながら渡した。

生まれ変わった風呂場


その2日後、家の前でゴキブリの死体をせっせと運ぶアリと遭遇した。
「命は巡るんだな…」と主人公みたいな台詞を呟きながら、私のゴキブリとの死闘は終わりを告げたのである。

これは業者の方から聞いたライフハックなのだが、風呂上がりに窓を開けて換気をするのはカビ菌を招き入れるため実はよろしくなくて、50度くらいのお湯を風呂場全体にかけるのがいいそうだ。


私は今日もゴキブリへの怨念を込めながら、風呂場に熱湯を散布している。


皆さんも浴槽エプロンには気をつけてほしい。

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