HERO FOR VICTORY

エピソード0

ある日、ヨーロッパに火の手が上がる。
秘密結社アトラス、龍人とドラゴンを使役し世界を我が手にしようとする者たちの仕業だった。
アトラスは全世界に向けて無条件降伏を命令した。
自由を主張したフランスは一晩で陥落、
ヨーロッパはかの手に落ちた。
次の標的はアメリカ、自由の国だ。
ドラゴンは鱗を持ち、銃が効かない。
おまけに火を吐き出す。
無差別な爆発。
イタリアは死体、建物すら残らず廃に帰った。
誰もが受け入れるしかない。
そう思っていた。
ヒーローが、現れるまでは……

うるさいサイレンが鳴り響く。
何があったんだろう。
まあ、そんなことはどうでもいい。
私に自由はない。
毎日、死ぬ寸前まで血を抜かれるだけの人生。
私を作った奴はどんな奴だろう。
親の顔を見てみたいよ。
そんなことを考えていた時……

爆音が響いた。

壁が粉々になっている。
理解しがたい、理解できない。
厚さ10センチの鉄の壁を粉々なんて。
そんなことドラゴンには出来ない。
龍人?
いや、よもや、よもや三銃……

「誰だ貴様は!」
「構わん、やれ!」

また響く爆音。
それをかき消した轟音。

煙の中から誰かが歩いてくる。
そいつはヘルメットを被った、おかしな奴だった。
漆黒のコートをひらめかせ、こちらに歩いてくる。
嗚呼そうか、この組織が終わったんだ。
裏切り者が出たんだろう。
今、全てのデータを破壊しているのだろう。
そしてニュートロンシーラムの要である私を殺しにきたんだ。
……諦めきれなかった。
外の世界をデータでなく、見てみたかった。
でもこんな願いも、悩みも今、廃になる。
「助けてよ、ヒーロー……」

「……私が、私が君のヒーローだ!」
目を見開く。
「少し待っていてくれ」
カプセルが開く。
地面に触れた、重力を感じた。
……そんな感動をよそに体は体重を支えれずにバランスを崩す。
ヘルメット野郎に抱き抱えられた。
人生初のお姫様抱っこだ。
「遅くなってすまない」
こいつは組織の裏切り者で合っているはずだ。
現に組織はこいつを殺そうとしたし、こいつも龍人を殺した。
でも今、私を大事そうに抱えている。
「時間がない、今は逃げよう」
走り出すヘルメット。
考えろ、今一番可能性のある人物とその目的。
裏切り者、私のヒーロー。
まさか……
「……あなたがシャルル博士?」
「……そうだ」
そうか、この人が私の父親。
いや厳密には設計者か。
私はホムンクルス。
核に適合できる、唯一の血液型の人間。
「どうしてここへ帰ってきたの?おめおめとアメリカに逃げたくせに」
「……君の存在を知ってしまったからだよ」
ふん、設計者が何を言う。
「何それ、お前のせいで世界も、私もこんな目に遭っているのによくそんなことを!」
彼が研究資料を全て廃棄したのは知っている。
あらかじめアトスがそれを盗んでいて、偽物とすり替えていたことも知っている。
私を創り出したのも、彼ではなくアトスだ。
それでも、負の感情が止まらなかった。
そんな思考を遮るように後ろに追っ手が迫ってくる。
ドラゴンから火の手が上がる。
ヘルメット博士はコートを羽に変化させ私を守る。
そのまま彼が口から火を吐き、追っ手は廃になった。
……この尋常じゃない火力、まさかオリジナルを自身に⁉︎
どうやって生きているの?
……適合したってこと?
いや、自然に生まれて、ニュートロンシーラムに完全に適合出来る存在が居るはずがない。
それとも今も副作用に耐えているの?
「君がこんな目に合っているのは、私のヒーローになりたいなんて馬鹿げた夢のせいだ」
自分と最後に縋る概念が一緒だったことに少し嫌気がさす。
「……どうやってなるのよ、そんな定義があやふやな者に?」
「昔ね、仲間と手を合わせて誓ったんだ。私たちの研究で、大いなる力によって世界から争い、貧困、不平等、不幸をなくそうって」
……馬鹿げたことを。
「それが私とドラゴンってこと?」
「そう、数に勝る圧倒的な力、それがあれば支配できる。支配は平等だ、等しく不平等だ。私のような迫害の人生を送る人間を無くしたかった」
なるほど、筋は通っている。
なら何故今、あなたは私を抱えているの?
「ヒーロー、諦めたの?」
「嗚呼、組織の連中も、今に世界の人々も、誰も笑っていない。その時思い出したんだ。僕はヒーローになりたいんじゃない、自分のような笑えない、泣けない、そんな誰かを笑顔にしたかったんだって」
笑顔、私の知らない感情表現。
私の出来ない感情表現。
彼のオリジンは分かった。
ならもう諦めれる。
諦める理由が出来た。
「アトスは、今もあなたが魅せた夢を叶えようとしている。もう彼は誰にも止められない。なら私をサッサと殺して仕舞えばいいじゃない。」
「……確かに君の言うとおりだ。でも、自分の子供を救えずに世界なんて救えない。君にも笑っていて欲しいんだ。鮮やかな笑顔の咲いた世界で」
……子供?
私が?
……

「ぷっぷはははは!」
嗚呼、おかしい。
この人おかしいわ、私が子供なんて。
ただのホムンクルス、ただ人の形をしただけのバケモノが自分の子供で幸せにしたいなんて。
「なっ何だよ、父親気取りがおかしかったか?」
「ふふふふ、嗚呼本当に馬鹿で素直な人なのね」
「わっ笑わなくたっていいだろ!」
……笑う?
私が……笑っている?
この感情表現はなんだろう?
この感情はなんだろう?
嗚呼でも……
「あなたの目指した夢、少し分かったかもしれない。笑顔って素敵ね」
少しあなたの存在が愛おしい。
口角が緩んでいる。
これが笑うか。
「ありがとう、君に出会えたことだけはアトスに感謝しなければ」
「おい!」
コンニャロ……
「すまない、嗚呼、そろそろ外だ」
彼が天井を溶かす。
私を羽根で守りながら。
空に出た。
眩しい、これが月の光。
でも暖かくて、とても綺麗。
海と月が幻想的に輝いていた。
これが外の世界なのね。
また少し、口角が緩んでいる。
シャルルがこちらを見つめてくる。
こいつは多分、今ニヤニヤしながら見ている。
それこそ想像だが。
「こっこれからアメリカのラボに向かう!世界で一番安全なはずだ。良いよな⁉︎」
図星だろう。
コンニャロ……
データによると私はこいつの理想の女性らしい。
それをアトスは気づかず、そのまま利用したらしいが。
まあ尺ではあるが、身寄りも国籍もない存在だ。
答えは一つだった。
「ええ、私をアメリカに連れて行って!」
「……嗚呼!もちろんだとも!」
少し、嬉しかった。
「そうだ、君の名前、何にしようか。アメリカに行くわけだし、君には自由に生きて欲しい。そうだ、君に世界の自由と勝利を捧げよう。ヴィクトリー、ヴィクトリアにしよう!」
呑気な人ね。
「じゃああなたのヒーローの名前もつけてあげる。あなたの好きな英雄にちなんでダルタニャンにニア、近づく意味を込めてダルタニアなんてどう?」
「ダルタニア…嗚呼、今日から私はヒーローダルタニアだ!」
嬉しそうな声だった。
「ふふっ私を守ってね、ダルタニア」
私はあなたに、静かに微笑んだ。


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