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小説『窓』no,3

妹尾錠治(せのうじょうじ)私の名前である。
倉崎からの電話が、私の携帯モバイルを リビング テーブルの上で振動音を出しながら踊(おど)らした。

『ジョージ』
『起きているか…、そっち、大変な騒ぎに成ってるだろ!』

慌てた声で倉崎聖士が、私の思案中の頭を取り上げた。

『あぁ、分かってる』
『マンションの前が人垣で歩道が見えないくらいに成ってて、様子を見ようにも、マンションから出られない状況で部屋に籠(こ)もっている状況だよ』

携帯電話の向こうで倉崎が肯(うなず)いている様子が頭に浮かんだ。

『そうだっかぁ…』

倉崎が何か混乱しているような感じで、溜め息の様な声を出した。

『ジョージ…』
『実は…俺の知り合いかも知れないんだ…』

『はぁ、何だって…』

対策中の上で倉崎からの電話に出ての私の頭の混乱状態が、倉崎から放った一言で更に動揺したのか…私は彼に聞き直した…

『だから、飛び降り自殺したってニュースに出ている、その男だよ!』

『はぁ、まじかよ!』

『あぁ、そうなんだ!』
倉崎の声が少し大きくなった。

『ジョージ、悪いが…これから確認したい事があるから、俺はしばらく会社に行けないけど…連絡は取れる様にするから、佐倉井と二人で会社の方(を)お願いして良(い)いかぁ…、』

携帯電話の向こうで倉崎の息が荒く成ってるのが分かった。

『何だよ!何か困った事でもあるのかぁ…』

『いや、まだ 良く分かんないだが…ちょっと気になる事があるんだ…』

倉崎の声が少し弱くなったのに、気づく…

それ以上、聞いても答えない倉崎の様子を察して…
『分かったょ、でも必ず連絡はしてくれよ!』『とにかく、こちらから電話したら必ず電話に出てくれ!』
私が話すと…倉崎は『じゃあ、たのむなぁ』と言って通話を閉ざす様に電話を切ってしまった。

私は心の中で…『まったく、次から次へと…、俺は未だ仕事を始めて、たった三ヶ月だってのに…なんで、こんなに いろいろ忙しくなっちゃうんだ』って…思わず心の声が言葉と成って出てしまった。

私の住むマンションビルは出入口は正面玄関の一つしか無いので、結局、この状況が続いたならば…群衆をかき分けてでも『強行突破』して会社へ向かうしかないのである。

『ピンポン…』
マンションの部屋で『呼び出し音』が鳴る。

部屋の中で外部からのインターホンを取ると…
『済みません、堺署(の者)ですが、少し話を聞かせて貰えませんか…』

『えぇ、何でだろ…』って心の中で思いながら、私は二つの玄関扉を開けて3階のエレベーターから続く通路に出ると、既に私服警官(刑事)らしい人物が二人並んで立っていた。
私は『どうしたんですか…』と、突然の彼らの訪問に少し動揺しながら聞くと…

二人の警官(刑事)の若い方の一人が…
『実は昨夜の11時過ぎに、こちらのマンションの幾つかの部屋に灯りがついていたとの情報がありましたので…、出来れば、その頃に何か変わった事など目にしたりしていないか…お聞きしたくて伺いました。』と静かめの低い声で私に聞いて来たのである…。

『えぇ…、起きて録画してたドラマを見てましたが…』
と話すと…さらに、その刑事は向かい合って立ってる私の肩越しに、私の部屋のベランダのようなエントランスを見ながら…
『少し、中に入らせて貰っても良いですか…』と言い出したのだ…

私は少し躊躇(ためら)いながら『えぇ、良いですが…もう少ししたら会社に出社したいのでが…』と言うと、

二人の警官(刑事)のもう一人が、私の困惑している状況を察して『今、外に出るのは大変でしょうから…、少し中で待ちますから、その間、ちょっとだけ入らせて貰って一緒に外に出ましょう…』と言い終えると同時ぐらいに、強引に入って来てベランダから向かいのマンションビルの方へ身を乗り出す様に視線を向けて…、何か納得した様な素振りの相槌(あいづち)を、二人警官(刑事)が…お互いの顔を向き合って肯(うなず)きながら、その直後に『あの避難階段だなぁ』と呟いた。

私は二人の刑事の遣り取りする会話には興味はあったが…
会社に行くには、このチャンスを逃してはと…少し急ぎながら着替える事に集中する事にしたのである。

そして、私が着替え終わるのを確認した警官(刑事)の一人が…
『じゃぁ、出ましょうか…』
と私の顔を覗き込む様に言って来たのである。

私は…その時、何とも言えない異様な不安を感じたが…
『よろしく御願いします。』と言って鍵を持って、上から下まで硝子窓の様な玄関ドアを閉めて、二人の警官(刑事)を追うようにマンションの通路に出て、二つ目の無機質なドアの鍵を閉めて、二人の警察官(刑事)が扉を開けて待つエレベーターの中に滑り込んだ。

…………………………………つづく……

前回までの内容は下記へ…





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