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天空の白アグー豚(「くれないの?豚」~第3ブー~)

※~このお話は、makihide00氏とだら子氏の掛け合いから生まれた「くれないの?豚」シリーズの3作目(勝手に続けてみた)です~


「すみません、無駄足でしたね……」
「いえ、いいんですよ」

私、新聞記者のモモエと富田林さんは、それぞれ大切な人の足取りを掴むために、情報を交換し合っている。

今回は、私たちの共通のキーワードである『空飛ぶ豚』について情報を掴んだという富田林さんからの連絡を受け、二人でとある沖縄料理店へと足を運んでいた。

しかし、話を聞けば、何のことはない。
単にこの店が、一番のウリであるアグー豚を「空輸している」というだけのことだったのだ。

「富田林さん、気を落とさないでください。ほら、産地直送なだけあって、どれも美味しいですよ、豚肉料理」
「ええ……ありがとうございます。今度は、もう少し確かな情報を聞き分けるべく、ミミガーを澄ませてみますね……なんちゃって」

歯ごたえのあるミミガーを噛んでいたのに、思わず脱力してしまう。
あなた、本当に反省してるんですか?

んー、でも、嬉しい気持ちもある。
こうして何回か会っているうちに、だいぶ打ち解けて、二人の距離が縮まってきた気がするから。

もしかしたら、富田林さんも?
なかばガセネタとわかっていながら、私と美味しい沖縄料理を一緒に食べにくるための口実にしたんじゃ――

いけないいけない、モモエ。
自分に都合のいいストーリーを思い描くのは、ソーキ、じゃなくって、早計よ。
人間、どうしても、自分が考えていることに寄せて考えてしまうものなんだから。

そう、私は、迷っている。
もしかしたら重要な手がかりになるかもしれない「あのこと」を、富田林さんに打ち明けるかどうかを。
富田林さんは、「あのこと」について、何か思い当たることがあるかもしれない。そんな気がしている。

「――何か、言いましたか?」
「あっ、いえ、なんでもないですよ?」

急に話しかけられたので、思わず、ごまかしてしまった。

そう、『空飛ぶ豚』の謎を解き明かしてしまったら、たまに二人きりで会っておしゃべりするこの時間は、もう、なくなってしまうかもしれない。

もちろん、長年の謎を解明したい気持ちもあるけれど。
今のこの時間も、もう少し続いたらなと思ってしまう自分もいる。

「じゃあ、また」
「ええ、お疲れさまでした」

そう逡巡しているうちに、今日もまた、お別れの時間だ。
うん、話してみるかどうかは、また次の機会までに考えることにしよう。

それにしても今日の沖縄料理、美味しかったな――
家までの帰り道、そんなことを考えながらを歩いていると、

「新聞記者の、胸肩(むなかた)モモエさんですね」

顔を上げると、そこに黒づくめの男が立っていた。

「ちょっとお話を伺いたいのですが――『天空の白アグー豚』のことについて、ね」


 ★


一方その頃。
富田林が家に帰ってみると、知らないオバさんが勝手にテーブルに座って、作り置きの酢豚を食べ尽くす勢いでかきこんでいたのだった。

「……ちょっと、誰ですか? 警察呼びますよ!」
「ふん。警察があたしら『ラード一家』を捕まえられるもんかい」
「一家って、一人しかいないじゃないですか」

突っ込むと、ラードというらしいオバさんはふてぶてしくにやりと笑った。

「あんた、『天空の白アグー豚』を探してるんだって?」
「……いや、僕が探しているのはそんなんじゃなく、『空飛ぶ豚』であってですね」
「ふん。『空飛ぶ豚』を探して沖縄料理屋へ行って、『天空の白アグー豚』を知らないなんて、そんな話が通るのかい。現に、あんたと一緒だったお嬢ちゃんは、すでに特務機関に接触されたみたいだがね」
「えっ、胸肩さんが?」

帰り際、何か伝えようかどうしようか迷っているように見えた、あの姿が脳裏に浮かぶ。

「どういうことですか! その『天空の白アグー豚』って、なんなんですか?」
「あんた、本当に知らないのかい。当てが外れたね」

ラードと名乗るパワフルなおば様は、仕方ないね、と話し始めた。

「……アグー豚は、黒豚だ。もし白いアグー豚が存在するとしたら、それだけでも希少価値が高い。お宝に違いないって、あたしの鼻が鳴ってんのさ。何しろ、あのウスタ率いる特務機関が出張ってくるくらいなんだからね」

わかるような、わからないような。
『空飛ぶ豚』にも関係がありそうな気もするが、こちらは想像以上に大きな力が動くような話らしい。

「あんた、あの子を助け出したいってんなら、あたしに協力しな。人手は多いほうがいいからね。どうする?」

そう、胸肩さん――モモエさんが、心配だ。すでに大変なことに巻き込まれて、怖い思いをしているのかもしれない。
なら、やるしかない。

「一緒に、行かせてください!」
「よし、40秒で支度しな!」
「それは無理です」


 ★

……ついに動き出した、黒ずくめの男!
果たして、モモエは無事なのか?
『天空の白アグー豚』とは一体何なのか?
黒ずくめの男こと特務機関の「ウスタ」が、「ムスカ」のパロディだってことが読者に伝わっているのか?(一番悩んだポイント)
謎が謎を呼ぶ、謎でしかない謎展開!
次回、『もつなべ姫』に続く!(かどうかはわからない)

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