アラサー、着物着るってよ

突然、着物を着たいと思った。

恐らく突然ではなく、ちゃんと伏線はあったのだけれど、「着物を着たい」という気持ちが燃え上がるのは驚くほどに突然だった。
和服なんて七五三、成人式、卒業式、浴衣くらいしか触れて来なかったけれど、どれも他人と被りたくなくて色を変えたり工夫をしていた。
元々、10代の頃はヴィジュアル系バンドのファンで、ロリータファッションに身を包むこともあったから、着物を着て出歩いて目立って嫌だな、とは考えなかった。母親が独身時代は着物を着て歩いていた話を聞いていたのもあって、着ようと思えば着られる場所にいたのも「着物を着たい」と思うスイッチが入りやすかったのかもしれない。

仕事着=普段着でもあるけれど、地味な印象を持たれることが多いと思う。所謂事務職だから、あまり華美な格好はしないけれど、膝丈の黒のフレアスカートにブラウス、グレーのカーディガンが制服のようなものだ。勿論、黒のパンツだったり白いセーターを着ることもあるけれど、着回しがしやすいものを無意識に選ぶことが多い。休日だって、カーディガンがパーカーに変わるとか、スカートがデニムに変わるくらいで色合いも余り変わらない。就職をする少し前から、そんな味気ないクローゼットになった。

本当は、赤いエナメルの靴が好きだし、ロッキンホースバレリーナだってまだ持っている。学生時代に頑張って買ったライダースだって、ある。だけど、それらを身につけるには今の服じゃ申し訳ないと思ってしまう。
好きな格好をしたときに、大好きなアイテムをプラスすることが最高に心踊ることを知っているからだ。
学生時代に読んでいたファッション雑誌は、KERAやゴスロリバイブルに始まりFRUiTS装苑FADGEと変遷してきた。その中にkimono姫も勿論あって、「こんな風に着物着てみたいな」という憧れが心の奥底で火種となった。

その火種に薪をくべたのは、腹立たしいことに短期間の間に複数回、変質者に遭遇するというものだ。
彼らは全身ユニクロだろうが浴衣だろうがワンピースだろうがスカジャンだろうが気にしなかった。知人に、自信なさげに俯いて歩いているのは餌食だと言われた。自信なんてねーよ、ふざけんな。なんで最寄のコンビニに飲み物を買いに行くだけで怖い思いをしなくちゃいけないんだ。
どんな格好しても怖い思いをするなら、TPOは守って好きな格好したほうが得じゃないか、と思い始めた。仕事着は制服だと割り切って、私服は私服と割り切って。

そんな苛立ちという薪を燃え立たせる最後の一手は、仕事のストレスで死にたい辞めたいと落ち込んでいたとき、友人に言われた「やりたいようにやったほうが楽だよ」という言葉だった。同時期に、数少ない友人達からも同様のことを言われたのは、あるはずもないもので雁字搦めで身動きが出来ずにいる様を見られていたのかもしれない。

楽になるには、やりたいことをやる必要がある。
私が今やりたいことはなんだろう、と考えて一番現実的だったのは「着物を着る」という選択肢だった。
本当はやりたいものなんて何もないのかもしれないけれど、着物を着たらやりたいことが少しでもわかるかもしれない。そんな縋る気持ちがないわけではなかった。
やりたいことがわかるわけなんてないけれど、気分を変えるだけでも大きな変化だと思えた。

それから、行動は自分でも驚くくらい速度があった。
ネットでkimono姫のようなコーディネートを肯定してくれそうなアンティーク着物の店を探し一式を見繕い、小物セットを買い、着物を着る用事を作った。着付けはネットで調べた。時期が年末だったので、正月に着ることを実家の母親にも伝えて着物を着た。

やりたいことをやっているうちは青春なんだと、昔好きだったアーティストが言っていた。
やりたいことを探しているうちは、青い春もまだ来そうにない冬なのかもしれない。
私が着物を着たいと思い、着物を着始めたのは雪解けの始まりであると良いなと思う。

アラサー、着物着るってよ。

#日記 #着物 #アンティーク着物 #ファッション #コラム

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