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宇宙に暮らす猫とロボと『猫の地球儀』

争いの果てに、結局人類は滅んでしまったようです。さておき宇宙の猫たちは猫らしく気ままに 遺物のロボットを相棒に スペースコロニー「トルク」で暮らしていました。

ほのぼのとしたSFを思わせる表紙と舞台設定、イメージは読めば覆されます。そこには人間も辿った歴史とかロマンとか、負けたくないとか分かってほしいとか。どうしようもなく熱いやつがあるので。
秋山瑞人『猫の地球儀』です。


そこに青く地球が見えるなら、人ではなくても行ってみたいと思うのは よくわかりますよね。当然憧れます。

けれどそこは“地球儀”で、彼岸で、浄土だと 信仰されていたのでした。
猫には猫の歴史や信仰があり、まるで人間社会のように決まりごとや確執があり、一線を越える自由は思想さえ許されない。

何でだよ、と思ってしまうわけです。


人が地球から月へ行ったように、猫だって研究して計算と実験を重ね重ねてそこへ行く方法を模索します。自分の代で足りないのなら、いつかの後に継ぐ猫へと、命懸けで残して。

三十七番目の猫は稀代の天才で、物語の果てに成し遂げます。
本物のスカイウォークの、大気圏突破を疾走する描写は秋山先生の真骨頂といいますか、印象深く残りますね。群青色が見えます。ほんとです。

地球へ行きたい一匹の猫が、死にものぐるいで願いを成す過程であの子が、猫たちが、一体どんな道理があって命を落としていったのか。


ただ 地球へ行きたいと願うことがなぜこうも許されないのか、わかっていないままに読んでいました。
何でしっかりと読んでいないのか。うろたえていたんだと思います。

年寄り猫の御坊がきちんと、わかるように諭しています。
手前勝手も大概にしろと。
一匹の猫の見た夢で済むものかと。

これが縦糸で全2巻の後編「幽の章」です。
そして横糸となる前編「焔の章」があり、もう一匹の主人公猫がいて、そこにも抗えないどうしようもない生き方があります。


迷いがなく、潔い。勝つか負けるか、負ければ地球儀に征くだけ。闘いに身を置く対に立つ主人公。粗にして野だが卑ではない、そんな風です。
芯だけが似通った者同士の、相容れない対話が幾度もあります。

その2匹の間を跳ね回り、時には橋渡しをする…茶色の子猫の無邪気さが、活き活きとかわいい。主人公の2匹が翻弄される様は緩急がついて良いですね。
表紙の可愛らしさとは裏腹に 容赦無い地獄絵図が描写されるSFなので…息を入れるコメディ的なシーンに救われます。ここはイラスト通り、賑やかです。

人間の女の子みたいなロボットのクリスマス。口走るのは天気予報で、不思議な意思疎通。
並んで勇ましい 日光と月光。ポンコツ気味で 健気な震電。ロボット同士のじゃんけんブームが微笑ましいです。

いつも猫たちの隣にいて、自分で思考し行動もできる相棒のロボットたち。未来の技術で人間味がある表情を度々みせてくれるのがうれしいです。滅法強くて頼れる、大切な相棒。
秋山先生の同時期の作品でもこういった要素は色濃いのでとてもおすすめ。

終末世界のSFは いつまでも未来の話なのがいいですね。
読み返したいし、おすすめしたくなります。

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