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りんごはなんでウサギなのか


なんでりんごはウサギでなければいけないのか。

ゴリラではいけないのか。

ネズミではいけないのか。


私が幼い頃、ギリギリ明治に滑り込みセーフで生まれた祖母が切ってくれるりんごもウサギの形だった。

色白でお耳が赤いウサギ。

祖父が富山の生まれだったせいか、我が家で購入するりんごの品種は、断然ふじが多かった。


今から20年近く前。

友人と初めて富山へ旅行した時、確か「金太郎温泉」に向かおうと乗り込んだタクシーの運転手さんが、私たちが旅行者だと知って親切にりんご畑の近くを通って教えてくれた。

「あれがふじりんごの木ですよ」

タクシーの窓から見えるそれらは思っていたよりもとても低い木で、確かに赤い実が沢山生っていた。

その時の風景は、いくらか私の頭の中でジブリの映画的に美化されているのかもしれないが、今も美しくきらきらと思い出すことが出来る。

思い返せば富山で出会った方々は、みなさりげなくとても親切だった。


二日目、雨が降る中なにもわからない都会者の私達は、あるローカルなコンビニに入って、ガイドブックで調べた港までの道のりを尋ねた。

店主はこの天候でしかもあの港まで行くのはねえ的なことを言い、ちょっと待ってください近くのどことかまで送って行きますからみたいなことを言って、車を出してくれた。

若くて人を疑うことすらまだ知らない世間知らずの私達は、素直にその白い車に乗せていただいた。

その車中で聞いた話には、近くでちょうど「カニフェス」的なことをしており、そこなら屋内なので雨でも楽しめるだろうとのこと。

「関西からですよね。僕も西宮からこちらに来たので言葉ですぐにわかりました」

関西弁への郷愁か、私達が美しくはなくとも若くておぼこい女子だったからか、いずれにせよ店をほったらかして「カニフェス」の会場まで送ってくれたその男性は、地味で物静かでとても親切だった。

帰りの道のりをざっくりと教えてくれて降ろされたそこは、広めの体育館のような場所で、いろいろなイベントが行われていたと思うのだが、唯一覚えているのは大きな発砲スチロールのお碗に入れてもらった、カニのお味噌汁のことだけだ。

熱くて美味しくて、湯気の向こうで笑う今はもう会うことのない友達の笑顔がありありと思い出されるのだ。


もう何の話をしているのかよくわからなくなってしまったが、私が生まれて初めて覚えた歌は「富士山」である。

「あーたまーをくーもぉのーうーえにーだぁしー」

私が歌うと祖父は「あきちゃんはもうおぼえたんか」と驚きながら喜んでくれた。

二階のお仏壇と神棚がある祖父の部屋で、壁に掛けられた赤富士の額を眺めながら何度も歌った記憶。

こうして日々を過ごしているとすっかり忘れてしまいがちだが、私はとてもとても愛されていたのだろう。


結論としては、

私にとってのりんごはふじ。

ふじは富山が有名。

私が最初に覚えた歌は富士山。


よって、りんごはウサギ。

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