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No.12 スフェーン

12.スフェーン

スフェーンというのは宝石としての流通名で正式な鉱物名は「チタナイト」というのだが、現在ではスフェーンという名の方がメジャーな上、響きもカッコいいのでここでは「スフェーン」という名で扱う事にする。
スフェーンは鉱物名から想像がつく通り、チタンを含んだ鉱物である。硬度が低く靭性も低いので割れやすく傷つきやすい。そのためあまりアクセサリーには向かない鉱物なのだが、ダイアモンドをしのぐ分散光を放つためゴージャズな輝きがあり、宝石としてとても人気が高い。
このスフェーンはくっきりとした傷があるが、透明感があるのでしっかりとした分散光を確認できる。色が明るいカーキ色をしているのでその輝きは花火のようだ。
実はこれ、私が初めて買ったルースである。このルースのおかげで私は二つの縁を手に入れることができた。
2018年の夏。この頃まで私はバリバリの原石派でルースには全く興味がなかったのだが、鉱物の知識が溜まるにつれ「鉱物の輝きやカラーチェンジなどの特性はルースの方がわかりやすいのでは?」と思うようになってきた。
そんな時期に「ルース欲しいなぁ」とネットサーフィンしていると、偶然にも欠け宝石を再利用するというプロジェクトを発見した。
私としては欠けていようが傷があろうが形が悪かろうが鉱物としての特性がわかりやすく観察できればそれでよかったし、しかもそれが安く手に入るなら渡りに船であった。なので私はすぐにそのプロジェクトが行っていたクラウドファンディングを支援し、そこが運営している宝石のコミュニティーに潜り込んだ。
このコミュニティーでは大体週一のペースで欠け宝石等の通販をしている。初めて参加した通販企画の際、私はライトオパールと共に今回のスフェーンを購入した。もともとスフェーンのルースは憧れだったので、その当初は嬉しくて「早く見たい!」とわくわくしていたのだが、しばらくしてある重大な問題に気が付いた。
あれ?ルース来るのにルースケースなくね?
正直パニックになった。大手のチェーン系なジュエリー店ではルース単体で売っていることが少ない。当然ルースケースも売っていないだろう。かといって通販では間に合わないし、数個単位で売っていない上送料等がついて高くなってしまう。
悩みに悩んだ末、私は前々から気になっていた職場近くのの宝石店に行くことにした。
そこは本店が別の場所にあり、職場近くにあるのは支店という立ち位置になるのだが、地域密着型の小規模な経営を行っている宝石店で、アクセサリーのほかにルースも多く扱っている。ずっと前から気になっていた店なのだが。今まで立ち寄らなかったのには個人的な理由がある。
なんか、入りにくかったのだ。
どうも店内は品が良く高級感がある感じがして、庶民丸出しの私が入っていい所なのかと迷いがあったのだ。
だが背に腹は代えられないと思い、勇気を出して「すみません、ルースケースありますか?」と恐る恐る店内突入した。
幸い、ルースケースは手に入れることができたのだが、やはりルースケースだけを買うお客さんは珍しかったようで近くで対応してくれた女性店員さんから「どうしたの」と聞かれた。正直まだびくびくとした気持だったが、まあ隠すことでもなかったので「初めてルースを通販で買ったけど、ルースケースがないんです」といったことを話したら、今度は奥にいた中年の男性店員さんから「何買ったの?」と聞かれた。これに対しても素直に「オパールとスフェーンです」と答えると、「スフェーンってなかなか初心者が手を出すものじゃないよね?」とさらに珍しがられた。
そのあとはその男性店員さんと鉱物談議に華が咲き、店を出る時には「次はルース買ってよ!」と和やかに送り出してもらえた。私も店に対するイメージが変わり「今度何かルース買おうかな」と好印象を抱きつつ帰宅した。
帰宅後。その店について改めて検索してみたら、私は衝撃の事実を知ってしまった。
実は私と鉱物の話で白熱していたあの男性店員さんは、なんとあの宝石店とその本店を経営する社長本人だったのだ。
これにはさすがにビビったが、後日ルースを買いに来た時も親切にしていただき、おまけに「まだ君を入れて5人にしか見せてないんだよね」と言ってレアストーンであるポードレッタイトのルースまで見せてもらえた。どうやら社長の方も私のことを好印象に思っているらしい。
今でもこの宝石店と前半に話したコミュニティーとは付き合いがあり、たまにルースを買わせていただいている。
そのすべての始まりであるこのスフェーンは、私にとって特別な一品なのだ。

【補足】
①硬度
硬さの度合い。一般的には「モース硬度」という尺度を使う。
この数値が高ければ高いほど傷がつきにくい。
②靭性
衝撃に対する耐性の強さ。
特にこれといった尺度はないが、靭性が強ければ強いほど欠けたり割れたりしにくい。
③分散光
プリズムの原理で得られるような、虹色の輝きのこと


【参考書籍】

「価値がわかる宝石図鑑」
諏訪恭一 著
ナツメ社  2016年

「ネイチャーガイド・シリーズ 宝石」
ロナウド・ルイス・ボネヴィッツ 文
伊藤伸子 訳   化学同人  2015年


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