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読書感想文|本好きに読んでほしい一冊。(村田沙耶香 『信仰』)

本日 (10/24) 20時にnoteフェスが開催されました。
フェスでは、書評家の三宅香帆さんによる「伝わる文章のコツ」を学ぶ文章講座が行われました。
さらに、イベントの後半では、僕が以前書いたnote記事『日常に潜む 「現実」と「幻想」』が取り上げられ、三宅さんに講評を頂きました。
文章のカイゼン点を教えて頂いたので、記事のタイトルと文章の加筆修正を行い、改めて投稿します!!

 僕たちは「幻想」を抱えながら生きている。
本当は鬼なんていないのに節分の日に豆まきをしたり、雷が出てきたらおへそを取られないように隠したり、幼い子が体をぶつけたら「痛いの痛いの飛んでいけー」と慰めてみたり、とにかく冷静に考えたら可笑おかしな言動を取っている。

 もちろん、それが悪いと言いたいわけではない。それらは文化の中に溶け込んでいるし、たとえそうでなくても、人々にとって「幻想」は必要なものだと僕は思う。

村田沙耶香  『信仰』

 最近、村田沙耶香さんの『信仰』という短編小説を読んだとき、「幻想」と「現実」について考えさせられた。

   『信仰』の主人公である永岡は、「現実」を信仰している女性だ。

 友達がブランドのバッグを持っていると、永岡は「ぼったくられてない?」と言って、友達を「現実」へ「勧誘」していた。それは、友達に騙されてほしくなくて、善意から出た言葉だった。

 けれど友達からすると、自分たちの「幻想」を尊重せず、「現実」を押し付けてくる永岡に嫌気がさしていた。永岡の「現実」的なささやきは、まわりを幻滅させる悪魔の言葉と化していた。

 だから、友達から嫌われないためにも、永岡は「幻想」を信仰しようと努力するようになった。友達の勧めで鼻の穴のホワイトニングの治療を受けることに決めた。

 けれど、完全に「幻想」への信仰を受け入れたわけではなかった。

 そんなある日、永岡は中学の同級生だった石毛からカルトの誘いを受ける。

「なあ、永岡、俺と、新しくカルト始めない?」
 駅前のショッピングモールの中にあるサイゼリヤで、石下からそう切り出されたのは、家族連れで賑わう日曜日の午後のことだった。

村田沙耶香『信仰』p6より引用

二つの信仰

 世の中には、「幻想」と「現実」の2つの信仰がある。おそらく、2つの内どちらかが欠けてもだめで、両方の軸をバランスよく保つことが人間にとって大切なのだと思う。

 もちろん僕は詐欺が正しいと言いたいわけではない。人を騙してお金を搾取するのは犯罪なのは、言語道断だ。

 けれど、人は盲目的に何かを「信仰」しているし、「現実」的に考えたら間違っている場合もある。『信仰』に出てくる永岡の友達だって、原価の何十倍もするようなコーヒーを飲んだり、効果があるかも分からない化粧水を付けたりしている。

 彼女達にとって、たとえそれが「現実」的に考えたら可笑おかしなことでも、それを信じることで自分たちは幸せに暮らせていると感じているのだと思う。

 これは、『信仰』に出てくる登場人物だけの話ではない。もし、「幻想」という「信仰」がすっかり消えて無くなってしまったら、僕たちは生きづらくなると思う。

 だから、すべてを「現実」的に捉えたり、「幻想」的なことばかりにこだわるのではなくて、2つの信仰をバランスよく信じていることが幸せなのかもしれない。

「幻想」という名の物語

 「幻想」というのは、別の言葉で言い表すと「物語」なのかもしれない。僕たちは日常生活のなかで、意識しているかどうかは別として、何かしらの物語を創っていると思う。

 例えば、「宝くじが当たったら、何を買おうかなぁ」と妄想したり、ドラマに出てきたあの俳優(女優)と結婚できたらいいのに、みたいにありもしないことを想像したりする。

 これは、「幻想」の信仰者としての証である。

 小説という物語は、「幻想」の信仰者の読み物だと思う。実際に自分の身に起こったことでないのに、「物語」というフィルターを通して追体験をしながら、「幻想」を感じることができる。

 そして、小説を読んで得られる「幻想」の多くは、「それって、〇〇ですよね」と一言で片付けることのできないテーマであったりする。だから、小説に登場した様々な文章を反芻はんすうしていくうちに、新しい考え方に出合うことができるのだと思う。


 今日は、十五夜の月が見える日だ。

 空を見上げると、うさぎが餅つきをしているかもしれない。もし、あなたが「現実」的な人でも、たまには「幻想」を信仰して、こんな風に想像するのも悪くはないと思う。

昨日のnote

小説を書くことについて語りました。
読んでくれると嬉しいです。

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