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超短編小説|あいさつ運動

短い物語(ショートショート)を書きました。
1分くらいで読めると思います。

 あいさつを返されなかったのは、商店街の裏通りにある和菓子屋さんの前を過ぎたときだった。そんなことは、初めてだった。わたしは怒りを抑えきれずにいた。

  「あなた達は、なんであいさつを返さないの?」

 わたしは不機嫌そうに質問をすると、彼らは一言も発さず、不思議そうな目つきでわたしの顔を覗き込んだ。

 わたしは戸惑ってしまい、皮肉まじりに「ねぇ、あいさつって知ってますか?」と訊いた。すると彼らの一人が少し考え込んでから、「あいさつって何ですか?」と返した。あきれた。

  「人に会ったら、“こんにち“って言うのよ。少し頭を下げながら。目的は、その人と仲良くなるためよ。あいさつが無かったら、仲良くなるきっかけが作れないわ。それから……」

 わたしはあいさつについて一通り説明すると、彼らのひとりが言った。

  「僕たちの世界じゃ、あいさつはしないんです」

 わたしは雷を打たれたような衝撃を受けた。身動きができなくなり、言葉を失った。おそらくとても短い間だったと思うが、わたしにはそれが何時間にも感じられた。

✳︎✳︎✳︎

 久しぶりに商店街の裏通りにある和菓子屋の前を通ったとき、ふたたび彼らを見かけた。彼らは一列に並んで、通り過ぎる人々に声を掛けていた。

 何をしているの、とわたしは訊くと、彼らは不思議そうな目つきでわたしの顔を覗き込んだ。

  「あ、こんにちは。あいさつ運動ですよ。最近、みんなで始めたんです。仲良くなるためとかではないです。挨拶を交わすと、気分がいいんです」

 彼らは当たり前のように答えた。
わたしは笑みを浮かべ、その場を後にした。

〈了〉

 雨宮 大和あまみや やまとです。
最後まで文章を読んでくださり、ありがとうございます。

さて、挨拶って本当に大切ですよね。
人と仲良くなるきっかけになるし、返答の仕方でその日の相手のテンションが分かるし、挨拶を交わすと気分が良いし、とにかく良いことずくめです。

そんなわけで、今日の[ミニ小説]が良かったら、右下のスキ を押してくれると嬉しいです。
では、また明日!!

昨日のnote

ある日、学校に非常ベルが鳴りました。
火事が起こったのです。
1分半くらいで読める物語です。

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1分くらいで読めると思います。

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