登山で見た景色 #エッセイ
前回から始まった『しりとり散文集』。
第2回にしてかなり苦戦している。もっとスラスラと書きたいテーマが思いつくと踏んでいたのだが、そう簡単ではないらしい。
前回の記事の最後に、「次回は3日後かもしれないし、1週間後かもしれない」と保険を入れておいて本当に良かった。おかげでゆっくり考えることができそうだ。
さて、前回のタイトルが「あまみや やまと」だったので、今回のタイトルは「と」から始まる。実際、「と」から始まる言葉なんて山ほどあるが、興味をそそられるタイトルに僕は出逢わない。
だから、とりあえず片っ端から「と」で始まる言葉を挙げていくことにする。
「トマト、トンネル、トンカチ、トレンド」
全然ないなぁ。
「時をかける少女、時計仕掛けの摩天楼、東海道中膝栗毛」
あぁ、書けそうなのにない。
「戸口、土佐、都内、虎、灯台、時計台、登山」
登山?
これは中々いいんじゃないかと思って、登山の思い出を振り返ってみる。うん、これなら書けそうだ。
でも登山だと、「ん」で終わってしまう。
しりとりの終焉。
第2回にして新しい企画が幕を閉じてしまうのは、本当にもったいない。だから、今回のタイトルは「登山で見た景色」にしたいと思う。
僕の登山の思い出といえば、中3のときに友達と3人で行ったあの「登山」だと思う。ただし、ここで言う「登山」とは、普通の人が思い浮かべる登山とは全く性質の異なるものだ。
普通の人が思い浮かべる登山は、登頂という一つの目的に向かって仲間とその達成感を味わうものだと思う。そのために何日も前から準備をする。登山用のシューズを揃えて、タオルや水筒を入れたリュックを背負う。コンパスや地図はもちろんのこと、雨に備えてレインコートを準備したり、怪我に備えて薬類も用意しておく。他にも、本格的な山登りをする際には、トレッキングポールと呼ばれる登山用の杖を持っていく場合もあるらしい。僕は本格的な山登りをしたことがないので、詳しいことは分からないが、普通の人が思い浮かべる登山はそんなイメージだと思う。
だから、僕らの「登山」を語れば「そんなものは登山ではない」と登山愛好家たちに一蹴されてしまいそうである。僕らの「登山」は、無計画で無鉄砲で思慮の浅いものだった。
「登山」が行われる2日前の昼休み。
同じクラスの友達が僕の机の前にやってきた。
「明後日、山に登らないか?」
あまりにも話が唐突だったので、初めは驚いた顔をしていたと思う。けれど、その日は暇だったし(たしか、春休みだった)、山に登るのが初めてだったこともあって、最終的には首を縦に振った。
目の前にいる友達は無邪気そのもので、目をキラキラと輝かせていた。彼はまるで金銀財宝を目当てに航海をする海賊のようだった。
友達はいくつか登れる山の目星をつけていたようで、このくらいの標高がちょうど良いのではないかと話してくれた。僕は山のことはさっぱり分からないので、「この山いいね、あの山もいいね」とか言いながら、てきとうに話を合わせていた。
すると、近くでその話を聞いていた別の友達が「オレも山に登りたい」と言い出した。
そんなわけで、3人で「登山」をすることになったのだ。
「登山」当日の朝。
僕は自転車で集合場所に向かった。集合場所は市内にあるとても大きな総合病院の前だった。僕が着いた時には、二人はもうすでに待っていた。彼らはほとんど手ぶらといった格好で、自転車のカゴにはコンビニで買ったスナック菓子が入っていた。僕は一応小さなショルダーバッグを持ってきてはいたが、登山の人の格好とはとても言えなかった。
後から登山のメンバーに加わった方の友達が遠くにある山を指さして、「あの山の頂上まで行こう」と僕に言った。もう一人の友達も「いいね、いいね」と盛り上がっている。どうやら僕が来るまでに二人で打ち合わせをしていたらしい。
その山は事前に決めていたそれとは違っていた。けれど、「登山ってそういうものかな」って思った。
無知っておそろしい。
自転車で坂道を登っていく。
道は、だんだんと険しくなっていく。しだいに細くなっていく。ほの暗くなっていく。もう限界っていうところまで来ると、僕らは自転車から降りた。近くにある大きな木の側に自転車を停めて、とぼとぼと歩くことにした。
山の中では、鳥たちのさえずりが聞こえてきた。木と木の間から眩しい光が差し込んできた。木漏れ日だ。僕たちは自然を満喫しながら、スナック菓子を食べて談笑した。学校での些細な出来事や取るに足らないことについて話した。静寂な山の中で僕たちの笑い声が大きく響いていた。
友達は袋から好きなだけポテトチップスを手に取って、口に放り込む。袋を僕に渡す。僕も好きなだけ取って、ムシャムシャと食べる。袋をもう一人の友達に渡す。ポテトチップスが無くなるまで、袋をみんなで回していく。最後は水筒を滝飲みする時みたいに、袋の底の粉々になったカケラを口に放り込んでいった。
お菓子ばかり食べていると喉が渇いてくる。僕はバッグから用意していたスポーツドリンクを取り出して、ごくごくと飲んだ。新鮮な空気に包まれた山で飲むドリンクはひと味もふた味も違うような気がした。
やがて、頂上らしき場所に着いた。
僕らは「ヤッホー」と叫ぶ。すると「ヤッホー」とすぐに返ってくる。
登山といえば、やまびこなのだ。
やまびこといえば、登山なのだ。
頂上はとても見晴らしの良い場所だった。住んでいる家とか学校とかがとても小さく見えた。なんだか、王様になった気分だ。
僕たちは近くにあった岩に腰を据えて、夕陽が沈むまで談笑した。その時友達と何を話したかなんて、今思い返すと全く覚えていない。おそらく、話題の中心は本当にどうでも良いことだったと思う。
けれど、あの日登山をした山の雰囲気や頂上で見た景色は今でも鮮明に覚えている。
「何千メートルの山に登ったぞ」みたいに、誰かに自慢できる話ではないけれど、仲の良い友達と山の頂上を目指したことは、今でもいい思い出だ。
▶︎前回のエッセイ
サポートして頂いたお金で、好きなコーヒー豆を買います。応援があれば、日々の創作のやる気が出ます。