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店主は言った。 「お客さん、この包丁は切れ味がいいですぞ。なんでもサクサク切れる。ほら」 店主はトマトだって、ごぼうだって、玉ねぎだって、何でもサクサク切っていった。世界でいちばん硬いとされる鰹節でさえ、手を添えるだけでいとも簡単に切っていく。 「どうだい、おねえさん? 気に入ったかい?」 店主は目を輝かせている。わたしは、彼の瞳の奥にいる少年が話しかけているような純粋無垢な気持ちになる。即座に「買います」と店主に言い、わたしは店を出た。 家に帰り、さっ
僕が見えない糸に気づいたのは、引っ越してから3日日の朝だった。その日はひどく疲れていて、体がものすごく重かった。それなのに、ベットから即座に起き上がり、部屋を軽やかに動き回って、家事をこなしていた。まるで上から見えない糸を吊るされて、操り人形になったみたいだ。 掃除や洗濯を終わらせてソファに腰を下ろすと、全ての疲労感が僕を襲った。見えない誰かに体を操られ、労働を強制させられたようなものなのだから、それも無理はない。 僕はサイドテーブルに目をやると、見慣れない本が置か