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失敗こそが復興の過程~地獄温泉青風荘に学ぶ“ライジングエナジー”~

古くから湯治場として栄え、二百年以上にわたり人々に愛され続けた熊本県阿蘇五岳の一つ「地獄温泉青風荘」

しかしそんな地獄温泉を熊本地震、そして九州豪雨が立て続けに襲いました。

明治時代からの佇まいを備えた建物をはじめ8割が壊滅的な被害をうけ、一度は完全に時計の針が止まってしまった温泉郷。

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あれから4年、そんな絶望的な状況から果たして青風荘は一体どうやって立ち上がることができたのか。

きっとここには天ヶ瀬温泉の未来にも活かせることが多々あるはず。

今日はあらゆる困難を乗り越え続けてきた河津誠さんの復興哲学を紐解きます。

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▼何も見えないからこそ見えてきたもの

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〝3年間、すべてを飲み込む圧倒的な川をただただ眺めているしかなかった〟


━━━そう語るのは地獄温泉青風荘の4代目を継いだ河津誠社長。

今から4年前の2016年4月、九州地方を襲った熊本地震直後の土石流で熊本県南阿蘇村の地獄温泉「青風荘」は壊滅的な被害を受けました。

さらに同年6月には地震後の大雨によって源泉を囲む山々一帯で大規模な土石流災害が発生。わずかな期間で二度の災害が降り注ぎ、一個人の規模ではもはやどうすることもできないという状況に。

そんな時、何も見えないからこそ初めて見えてきたものがあったと河津さんは言います。

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「すべてをあきらめかけていた時、古い建物の底から昔の人達の軌跡を見つけました。パワーショベルもsnsもクラウドファンディングも何も無い時代にこれだけのものを造り上げ、ずっとこの自然と向き合ってきた。それに比べたら現代の自分たちなんてへでもない。先人たちが紡いできた想いをここで絶やすわけにはいかない」

━━━心の底からわき出す太陽のような熱い気持ち、河津さんはこれを“Rising Energy”と名付けました。

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大地の熱量が湯となり
地の底から湧き上がる唯一無二の場所

ここでは自身の内側から自ずとエネルギーが湧き上がる

温泉なんてもとはただのお湯。そこに人が入ってはじめて“温泉”になる

━━━長い歴史を背負った唯一無二の湯治場をこの先も守り抜く…河津さんは改めてそう決意したのです。

▼やるもチャンス、やらぬもチャンス

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〝被災したということは、言い換えればこの上ないチャンスなんです〟

━━━今回の視察で河津さんが何度も口にしていたのがこの“チャンス”という言葉。

これまで「大変だな」と思ってきた数々のことがどれだけ喜びだったか

被災して初めて気づかされたこの想いをカタチにして人々に届けてゆく…それこそが長い目で見た「価値」となってゆく。

これは被災前の平常時では決してできなかったこと。

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そして同時に河津さんはこうも言います。

「これは同時に“辞めるチャンス”でもあるんです。震災を言い訳に辞めることを決意しても誰も責めはしない。だから、もはや辞めたっていいんです。やるもチャンス、やらぬもチャンス、いずれにせよこの機を逃したらもう二度と“チャンス”は来ないんです」

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やらぬは楽、やるはいばらの道

しかし、すべてを懸ける覚悟があったからこそ、河津さんは今日まで前進し続けることができたのでしょう。

▼「責任は俺が取る」という覚悟

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〝覚悟を決める自信がないなら今すぐにでも引退して席を譲った方が良い〟

「行政が…」「業者が…」「古い慣習が…」「コンサルタントが…」

復興にはあらゆる言い訳が伴う

従業員だって必ずしも全員が全員戻ってきてくれるかもわからない

銀行との死闘のやり取りはまさしく半沢直樹

「支援します!」という甘い言葉で近づいてきては、用が済んだら(もしくは思った通りに計画が進まなかったら)何事も無かったかのようにさっと消え去る。そんなことはざらに起きる。

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そんな中で最後に責任を取れるのは他でもなく自分自身でしかない

新しい挑戦には必ずと言っていい程「失敗」が付きまとう

それらの責任をすべて引き受けるという覚悟を持つこと

それこそが復興におけるリーダーの条件なのだと河津さんはおっしゃいます。

▼“本当にやりたいこと”は何か

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〝覚悟を決めた自分自身が本当に心の底からやりたいことは何なのか〟

━━━すべてを壊されて、閉ざされて、一度どん底まで落とされた河津さんは、何も身動きができない3年の間、ひたすら「自分が本当にやりたいことは何なのだろうか」と自問自答し続けたのだそう。

そこには「行政」も「業者」も「コンサルタント」も「古い慣習」も「周囲の反対意見」も関係ない

他の誰でもない河津さん自身が本当に心の底からやりたいこと

それが河津さんにとっての「Rising Energy」であり、現在の地獄温泉青風荘を形作ることとなったのです。

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できることがないなら、やりたいことをひたすらに考える

この先何世紀にも渡って何を残し何を伝えてゆきたいのか

その命題と本気で向き合う時間こそが価値であり、復興の第一歩なのだと河津さんはおっしゃいます。

▼『失敗』こそが復興の過程

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河津さんの心が折れかけた時、もう一度魂を咲かせるきっかけをつくったもの、それが東日本大震災から立ち上がる東北の人々の存在でした。

復旧工事が止まっている間、河津さんは友人の勧めで東北の地へ。

そこで目にしたものは、決してきれいな美談などではなく、むしろ失敗を重ね続けながらも何度も立ち上がり前に進む人々のがむしゃらな姿。

そこで河津さんは気づくのです

今自分が直面している状況は決して“失敗”なんかではなく、むしろ長い目で見たら立派な「復興のプロセス」なんだ、と。

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どんなに困難が立ちふさがっても、何度でも立ち上がるその力強い姿

自分たちの被災したこの体験を次の世代に繋いで見せるという想い

そしてその根幹にある河津さんの持つ「ライジングエナジー」

それはまさに、失敗を“復興”と捉えるその視点に秘められていたのです。

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そしてこれは、決して河津さんや被災した人たちだけに限ったことではありません。

できる限りのリスクを避け、“失敗”というものを極度に恐れる現代の風潮

そんな私たちにとっても、この河津さんの復興哲学は学ぶ点が多いのではないのでしょうか

「失敗」というものはすればするほど人の役に立つ

なぜなら、失敗とは復興の過程なのだから———

I have not failed. I’ve just found 10,000 ways that won’t work.
(私は失敗したことがない。ただ、1万通りのうまく行かない方法を見つけただけだ)
~ Thomas Alva Edison ~

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~Written by 桶の旅人~


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