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君も貧乏姉妹で花見をしよう【貧乏姉妹物語】

注意
※このnoteにはアニメ映像のスクショ画像が大量に掲載されています
※アニメ『貧乏姉妹物語』のネタバレを一部含みます



黄金

母は、あすが生まれた年に天国へ行ってしまった。
父は、ギャンブルで借金を作って蒸発。

そして、私たちは取り残された。

築四十年、風呂無し1kのボロアパート。
これが私たちの住む家。
でも、春になると――――――

この世で最も悲しい冒頭ナレーションをご存知だろうか?今見てきたナレーションの読み手がまだ年端もいかない中学生と小学生の姉妹だと知ってしまえば、どうだろう。
『貧乏姉妹物語』では、たった2人の姉妹が風呂無し1kのボロアパートに肌を寄せ合って生活している様子が描かれる。


このアニメ、黄金である。


1話の段階では石ころだった。それが見続けていくうちにいつしか鉛へと変わり、7話で黄金となった。どれだけ業火で焼かれようと、決して溶けることのない黄金。「山田きょう」「山田あす」姉妹は、黄金による永遠を手にした。


きょうとあす

『貧乏姉妹物語』には主人公が2人いる。中学3年生の姉「山田きょう」小学3年生の妹「山田あす」だ。


https://www.toei-anim.co.jp/tv/binboushimai/char/index.html

われわれは東映アニメーションの掲げる両人の人物紹介文に注目しなければならない。

きょうの紹介文には「あすの作ってくれる唐揚げが大好物。」と記されており、あすの紹介文には「おねえちゃんと一緒に行く銭湯が楽しみ。」と記されている。


これ即ち姉妹百合。このアニメの神髄は姉妹百合を"見せつける"ことにある。


"見せつける"とはどういうことか、それを説明するためにはきょうとあすという人間の話から始めなければならない。


世界最悲しいナレでも言っているように、山田姉妹は母親に先立たれ、父親にも蒸発され2人で生きていくことを余儀なくされている。2人が住んでいるのは東京都に佇む風呂無し1kのボロアパート。まだ学生の身分である2人は当然学校に通わなければならず、生活の大部分を学業に捧げることを義務付けられているが、しかし生きるために稼がねばならない。姉「山田きょう」は早朝の新聞配達を欠かさずこなし、妹「山田あす」は料理洗濯などの家事を一手に担うことで、ギリギリのところで生存を可能にしているのだ。

さて、主人公の境遇がわかったところでさぞ悲惨な生活を送っているだろうことが推察できるが、実際のところそうではない。なぜなら、春になるとアパートには桜が咲き、そして春にならずとも、2人の間には年がら年中桜が咲いているからだ。


貧乏姉妹は見せつける

年がら年中桜が咲いているとはどういうことか。物語の舞台が初音島ではないのならば説明を求められるだろう。

『貧乏姉妹物語』の1話は、地元の花火大会を楽しむ約束を交わしていた山田姉妹の、花火大会当日の模様が描かれている。

1話冒頭で、新聞配達に勤しむためにあすよりも早く起きたきょうは、枕元に手紙を残して勤務先へと向かう。

『貧乏姉妹物語』1話

おはようあす♡
今日の花火大会
楽しみだね!
   ♡きょう

『貧乏姉妹物語』1話

シンプルだがわずか4行の中に2回もハートマークが散りばめられた手紙を読んだあすに






『貧乏姉妹物語』1話


桜が咲いた!




これからわずか4分後の出来事である。

花火大会のために貯めたお金を集めた貯金箱を手にするあす。近い将来訪れるであろう姉とのささやかな幸福を想像し期待に胸を膨らませる。そんなあすの背後には



『貧乏姉妹物語』1話


またも満開の桜が!!


1話なのでに特別に散らせている可能性を否定できないので2話を見てみよう。2話では彼女たちの住まうアパートの大家が入院したと聞きつけ、大家「源三」のお見舞いに向かうも、源三から迷惑がられ、意気消沈する山田姉妹の物語が紡がれる。

https://www.toei-anim.co.jp/tv/binboushimai/char/index.html

しかし、源三は本作のメインヒロインであり、メインヒロインが主人公のことを嫌うというのは物語の道理に反しているため、2話後半でこのツンデレ激萌えじじいはしっかりと山田姉妹の好意を受けとっていたことが判明する。

『貧乏姉妹物語』2話

「毎日お見舞いに行こう」と提案したせいであすまで源三に嫌われたのではないかと心配していたきょうは、誤解が解けた喜びを(必要以上に露骨なスキンシップで)分かち合う。

姉妹が抱き合う時、たとえそこが雨漏りの激しいボロアパートの一室であったとしても


『貧乏姉妹物語』2話
『貧乏姉妹物語』2話


花見が可能となる!!!


もうおわかりであろう。このアニメは、貧乏姉妹の百合を感知することで咲きほこる桜の花見をするためのアニメなのだ。


わかってしまえばなるほど、貧乏姉妹の『貧乏』というステータスは、花見を行うためのギミックとして機能していることが明らかとなる。
加えて『貧乏姉妹物語』には花見のためのギミックが他にも用意されている。


続く3話。スーパーで「大根1本10円」セールが行われることを嗅ぎつけたあすは、冒頭で大根尽くしとなった今晩の食卓を姉と囲む姿を想像する。

『貧乏姉妹物語』3話

さっそく百合を感知して咲き乱れる桜が猛威を奮っているがこれは本筋と関係ないので先に進む。


スーパーに向かい山田姉妹は大根争奪戦に果敢に挑むも、最後の1本となった大根を謎の金髪姉妹に奪われることになる。

『貧乏姉妹物語』3話

2人で大根を囲む食卓に胸を膨らませていただけに落胆するが、直後に明日は豚もも肉100g88円のセールが行われることを知り、新たに現れた姉妹で囲む食卓の可能性に桜が舞い散る。

『貧乏姉妹物語』3話


「豚もも肉100g88円!」と発しながら学業を終えるあすだったが、大根争奪戦の勝者である金髪姉妹の片割れが隣のクラスの学生であったことを知る。

『貧乏姉妹物語』3話

その後、当然のようにスーパーに金髪少女が現れ、あすと豚もも肉争奪戦を繰り広げる。

この金髪少女、姓を「越後屋」名を「銀子」と発し、名前の示す通り金持ちである。金持ちである銀子がなぜスーパーの特売品を狙う必要があるのか、それは彼女の姉「金子」の庶民趣味に付き合い、姉に愛されるためであった。銀子は姉に愛されるために、最後の1個となった豚もも肉に手をかけ、あすを恫喝し、それが有効ではないとわかるや否や泣き落としにかかる。結果的に第三者に豚もも肉を奪われた銀子は、豚もも肉を手にできなかった以上、家には帰れないと言い出し、家に帰れないのだからあんた(あす)の家に泊めろととんでもないことを言い出す。

家に帰ると豚もも肉を楽しみに待つきょうが居る。姉に対する罪悪感を抱えながら帰路につくあすだったが、なんときょうはこんなこともあろうかと事前に学校帰りにスーパーで豚もも肉を手にしていたのだった。

『貧乏姉妹物語』3話

きょうのファインプレーにこれにはたまらず桜もハート型になる有様でもはや桜でもなんでもないのだがいきなり押し掛けたクラスメイトの家でいきなり姉妹百合を見せつけられた銀子は茫然とする

茫然とする銀子を見てあすは「銀子に豚もも肉を譲ること」を提案し、きょうは悩むことなくこれを受け入れる。

プライドの高い銀子は反発し、なぜよくも知らないわたしのために妹の言うことを素直に受け入れるのかと抵抗する。

きょうは、あすがそういうのだからきっとこの子(銀子)にはのっぴきならない事情があるのだろうと、それを当然のこととして考え、

『貧乏姉妹物語』3話

見せつける。


納得できない銀子はあすに対して「自分のお姉さんが買ってきたものを他人に譲れなんて簡単に言うのよ。叱られたらどうしようって思わないの!」と問い詰める。その結果、お肉じゃなくても2人で食べる夕飯はとっても美味しいと

『貧乏姉妹物語』3話

見せつけられる。


おわかりいただけただろうか。金持ちでありながら姉との絆を感じられない銀子は、貧乏でありながら姉妹で助け合って幸福な毎日を送る山田姉妹の百合のためにあてがわれている。そして銀子は徹底的に貧乏姉妹の百合を見せつけられ、その様を我々は見せつけられる。なんだこれは、たまげたなぁ…


銀子のあてがわれはこれにとどまらない。

6話ではあまりにも姉妹百合を見せつけられた銀子が苛立ちのあまりわざわざ山田姉妹の住まうボロアパートの近くに建設された高層マンションに移住してくる。必死になって山田姉妹に対して金持ち自慢をしてみせるが

『貧乏姉妹物語』6話

ガン無視された上に見せつけられる。

これにはさすがの銀子も学校に向かって走りながら「なんなのよあの2人…」と漏らす始末。さすがにこれは銀子の言う通りだわ。


常軌を逸して仲の良い山田姉妹を「あの2人、いつもああなのかしら…」と訝しむ銀子。そしてついに彼女は







『貧乏姉妹物語』6話
『貧乏姉妹物語』6話


盗聴する



もう全然盗聴とかする。羨ましすぎてな、あすのことが。羨ましすぎてもう全然盗聴する。なんなら盗撮もしてる。使用人に「あまり…余所の家をご覧になるのは…」と注意されるまでやり続ける。


貧乏姉妹の見せつけは一人の女児を取り返しのつかないところまで狂わせることになったが、姉妹百合はとどまるところを知らず、さらに加速していく。


見せつけの向こう側へ

7話はあすがバレンタインのチョコレートを作るところから始まる。当然相手はおねえちゃんである。

しかし悲しい事件が起こってしまう。

まるで異性の想い人にチョコを渡すときみたく「どうやってチョコを渡すか」シチュエーションに悩むあす。悩んだ末にきょうの通う中学校まで出向き、いきなりプレゼントするサプライズをしかけることにする。なかなか校門に出てこないきょうに耐え兼ねて、敷地内に侵入するあすだったが、そこで、異性に対してチョコレートを渡すきょうの姿を目撃してしまう。

『貧乏姉妹物語』7話

今まで一度も意識してこなかった姉の男女関係に打ちひしがれたあすは

『貧乏姉妹物語』7話

「どうしよう…このチョコレート…」と悩んだ末にきょうへあげることなく手作りのバレンタインチョコレートを戸棚へ隠す。




越えたね、明確に。越えちゃいけない一線。


「いや、あげろよ」すぎて凄いんだよな。もう。全然あげろよでしかない。小3やで?小3が姉の想い人に嫉妬で狂ってチョコレートを封印する話なに?越えたね、完全に。見せつけの向こう側に。


「もう、渡せないよね…」とバレンタインのプレゼントを諦めたあすだったが、それで嫉妬がかき消されたわけではなかった。「お姉ちゃんが好きになった相手」、それがいったいどれほどのもんなのか。遂にあすは



『貧乏姉妹物語』7話


ストーキングする


もうストーキングとか全然する。全然やる。愛する姉のためと自分を正当化して全然恋敵をストーキングする。

ここに来て銀子の「なんなのよあの2人…」ともらした感想が効いてクる。ほんとになんなんだよ。


結局、すべてはあすの思い違いだったのが(このアニメでは姉妹百合が絶対正義であり姉妹百合を否定するものはそれがなんであれ悪である)物語終盤、2人でブランコを漕ぎながらきょうはあすに語りかける。

ねぇあす、もしまた同じようなことが心配になったら、思い出して。
お姉ちゃんは、あすを置いてったりしないから。
絶対!

『貧乏姉妹物語』7話

姉の言葉を受けてあすは一人考える

たとえば、誰かのことを想って、あったかい上着を持ってきてくれたり。一緒に食べたいって、安い肉まんを探したり。
いつかお姉ちゃんは、他の人のためにそうするのかなって思ったら、なんだか少し寂しくなってしまいました。

お姉ちゃんは、その時もきっと、わたしを1人になんかしないって言うと思うんです。だけど、それに「うん」と答えていいんですか?
もし、その時がきたら…

『貧乏姉妹物語』7話


あすが戸棚に隠したチョコレートを発見していたきょう。「このチョコレートは誰にあげるんでしょう~」と茶化すきょうに対して「一番好きな人!」とあすは満面の笑みでこたえる。

『貧乏姉妹物語』7話


成ったね。黄金に。


決して潰えない姉妹の絆。どれほどの業火で焼かれても溶けて消えないたった一つのもの、黄金に。


なったね


まとめ

『貧乏姉妹物語』は徹底的な姉妹百合の見せつけによって開花する桜の花見をするためのアニメでした。すっかり夏になってしまい、新緑の眩しい時期ですが、枯れていった桜のことを思い出しながら、決して消えない黄金となって輝き続ける山田姉妹の絆に思いを馳せるのも良いのではないでしょうか。


あと源三のメインヒロイン力に慄け。


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