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佐々涼子『ミケと寝損とスパゲティ童貞 サクラの国の日本語学校』(万来舎 2009.12)を読んでみました。

★日本語教師だった著者が日本語学校で出会った人について綴った本


著者の佐々涼子さんは、ノンフィクションライターとして、有名な方です。

遺体などをその方の本国へ送る仕事を扱った『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社 2012.11 のち2014に文庫化)で、「第10回開高健ノンフィクション賞」(2012)を獲り、(http://gakugei.shueisha.co.jp/kaikosho/list.html)(なお、『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』にヒントを得た、Amazonの配信ドラマが作られたそうです。)

終末期医療を扱った『エンド・オブ・ライフ』(集英社インターナショナル 2020.2)で、「第3回Yahoo!ニュース|本屋大賞 2020年 ノンフィクション本大賞」を獲り、(https://www.hontai.or.jp/history/index_nonfic.html)

そして、最近、日本の入管・難民問題を扱った『ボーダー 移民と難民』(集英社インターナショナル 2022.11)を出版し、これまた話題になりました。

それを取りあげたインタビュー記事なども目にしました(「週刊読書人」3468号〈2022年12月9日号〉)が、そこで、入管の状況が「ここまで酷いとは思っていなかった」と佐々さんはおっしゃっていました。

文章を書く人の中でも、ノンフィクションライターは、現在、特に日があたらない(というか本が売れない)状況にあるわけですね。

世の中のいろいろな事象を掘り下げて見ていくという点から、ノンフィクションライターの方は、ものすごく大きな仕事をなさっています。

それなのに、そのことを多くの人が知らない、あるいは(そのことに)気付いていないというのを、私は残念に思っているのです。(ということで、ノンフィクションについては、いつかまた書こうと思います。このような情報を目にして、少しでも多くの方がノンフィクションに目を向けていただければ、と思うしだいです。)

さて、前置きが長くなったのですが、佐々涼子さんは、ノンフィクションライターになる前は、日本語の先生をしていたのだそうです。

それで、「そのとき出会った学生さんや先生などにこんな人がいた!」というノリで、『ミケと寝損(ネルソン)とスパゲティ童貞 サクラの国の日本語学校』という本を書いたというわけです。

もしかすると、今となっては、著者の佐々さんも、この本については、あまり気に入っていないのかもしれません。

日本語教育能力検定試験に行ってみたら受かって、それなら先生になれるだろうと日本語学校に願書を出したら採用になって、どうしていいのかわからないので、日本語学校に入ってきたばかりの学生さんを前に、自分がしゃべり続けてしまった、などという失敗エピソードから始まりますが、真面目な日本語の先生なら、こういう部分を見て、眉をひそめるかもしれません。

しかし、私はおそらく謙遜や脚色があるのだと思います。(とにかく読んでもらいたいという気持ちから、サービス過剰になっている部分があるのではないでしょうか。)

だから、真面目な方はここで怒らないで、世の中に向かって「私を見つけてください」と言っている、著者の当時の声を聞いていただければいいと思います。

まあ、日本語の学生さんなどとのあれこれを紹介するというのは、発想としてはよくあるパターンで、昔からありますし、日本語学校という点に絞っても、井上純一『月(ゆえ)とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(アスキー・メディアワークス 2013.2)など、類書はあります。

でも、佐々さんは、文章がいいのですね。

もちろん、今となっては書き直したい部分がないわけではないと思いますが、なんというか、要所要所でいいなあと思わされる部分があるわけです。

ツッコミを入れて笑わせたり、しみじみとした感慨を催すようにさせたり、著者はそのとき、試行錯誤してこの作品を作り上げ、その後には、ある程度文章をコントロールすることができるようになったと思っただろうと思います。

この本に関するいくつかの書評も見たのですが、エピソードを紹介してあっても、読んだ人どうしがそれを見て共感し合うというような観点から書かれたものが多く、内容について具体的に紹介すると、どうしてもそういう意味合いになっていくような気がするので、内容にはあまり立ち入りませんでした。

このまま多くの方がこの本を知らないままでいるのは惜しいと思って、ここに紹介しました。

興味があれば、読んでみてください。

(追加記述:佐々涼子さんは現在闘病中だとのことですが、その体験を行かした次回作を見たいと思っています。)

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