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(422字)チャリンチャリン太郎



家路へ向かう人、目的地に向かう人、この時間の駅は吸い込む量と吐き出す人の量が同じだけある。
みな向かうべき場所に足を進めている。
広島駅の改札を出ると、側に海に続く川が流れている。
空の色が青とピンクと雲の混ざり具合で濃い紫に見える部分や淡い紫に見える部分があり、まさに息を飲むほど美しく影になった低いビル郡と空と、空色が反射されている川とが一枚の絵画として充分に成立している。


1756分。
干潮になると、漸く小石が浸る程の水位を保った川を自転車立ち乗りでハアハアと鼻息を荒げて川を逆走してくる男が見えてくる。
髪色からスニーカーまで赤色のその男は、この美しい景観を実に損なっている。
信号に足止めされる事なく辿り着いたであろう川沿いの遊歩道に、自転車を乗り捨てる勢いで停めて、4分後に始まるナイターの為に今度は自身の足を全力で稼働させて、緩やかな坂を登って行ってしまった。
本名を石川光太郎と言い、カープファンの間ではチャリンコウタロウと親しまれている。

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