最近摂取した娯楽作品(2020年1月編)

散文の練習のため、何か摂取するたびに更新していきます。


息吹 (小説/テッド・チャン)

初っ端から昨年読んだ作品で申し訳ないんだけど、どうしても言及しておきたかった。なんで神様は物事を冷徹に観察する知性と、情緒的な表現力と、端整な文章力と、一人の人間に集めてしまったんだろう。人類の英知の結晶としか呼べない作品集だし、たぶん100年後も読まれ続けていると思う。

面白いとか面白くないだとか、そういう尺度で語ることすら烏滸がましいような気はするのだけど、収録作の中でも「オムファロス」を読んだ時は特に込み上げてくるものを感じた。私自身、学生の頃、生物の肉体であまりにも精緻な化学反応が起こっていることを知り、創造主が存在するのかもしれない、と考えたことがあるからだ。キリスト教が信仰されているアメリカでは、日本とまったく違った受け止められ方をしていそうだし、海外の人の感想も読んでみたい。英語の勉強をしなければ。


超動く家 (小説/宮内悠介)

ギャグよりの短編集。昨年、同著者の「夜は短し歩けよ乙女」を読んで以来、手当たり次第に読んでいる。イスラム圏やプログラミング等の日本の作家としては珍しい分野への造詣が深い人物のため、節々に目新しい要素が光のが魅力的。「スペース金融道」を読んだ時にも思ったんだけど、フィールドを短編に限ると、宮内悠介はギャグを書いてる時の方が生き生きしてるように思う。スナック菓子みたいにサクサク楽しく読めた。


ポリス・ストーリー (実写映画/ジャッキー・チェン)

いわゆるジャッキー映画。同居人から「ジャッキー映画を見てないから人格形成に難があるんだ」という趣旨のことを言われたため視聴。カンフー映画と比較すると現代の警察が舞台のため見やすいらしい。基本的にアクションにはあまり思い入れが無いのだけど、「この時代ってCG無くなかった?」「えっこのセット壊しちゃうの?」「ねえワイヤーが映ってない気がするんだけどこのアクションどうやってるの?身体能力でゴリ押し?」みたいな圧巻の映像描写が続いて目が回るかと思った。

シナリオはヒーローがいてヒロインがいて、ミステリアスなゲストがいて、最終的に悪い奴がとっちめられるというテンプレ作品なのだけど、映像表現や音楽・俳優の演技などで魅力を補えるのが映画という表現媒体の面白いところだ。ソシャゲをポチポチやりながら気楽に楽しめるかんじが大変ありがたかったので他の作品も見てみよう。


ビロウな話で恐縮です日記 (エッセイ/三浦しをん)

まあいつもどおりの三浦しをんだな、という感じ。同じような話が多い気もするけれど、同じ作家のエッセイを何本も読むような人間は「お決まりの形式」を愛していることが多いので、これで問題ないのだと思う。個人的には好き。


呪術廻戦 8巻 9巻 (漫画/芥見下々)

なんといっても第64話。虎杖のちょっとした非行をしちゃう俗っぽいところから、物語の主人公らしい特異的な性格まで余すことなく描かれている圧巻の構成力。ゲストキャラの「でも私は私が嫌いな人達と 同じ尺度で生きている」という台詞は、キャラクターの欠点を表現しながらも説教臭さがまったくない。すごい。メイン三人組の距離感も最高。というかラブコメとしてめちゃめちゃ面白かったから、こういう小話どんどん挟んで欲しい。

8巻と9巻は過去編がほとんどを占めているから、同時に刊行したんだろうな。ここで刊行が空いてたら「主人公たちの話が進まないから退屈」って離れちゃう人もいたかもしれない。よく考えられていると思う。最近は本誌を読んでるので、最新話の展開を知っているのだけど、夏油の哀れさが堪えるなあ。天才によって屈折した秀才キャラが大好物なので、すごく刺さった。


プロジェクトA (映画/ジャッキー・チェン)

二本目のジャッキー映画。香港ってなんでこんなに運動神経の良い役者さんが多いんろう。 サモ・ハン・キンポーがぽよぽよした輪郭からは想像も出来ないくらいキレキレの動きをしてて笑ってしまった。

中盤のジャッキーが時計塔から落ちるシーン、1回映して同じテイクをもう1回スローで……と見せかけて、まったく別のテイクの映像を使ってて笑ってしまった。というか1回目は完全に首から落ちてた気がするけど、あれは大丈夫だったんだろうか? NGテイクも併せてジャッキーは計3回以上、あの高さからワイヤーもクッションも無しで飛び降りてると思うんだけど、いったい何を考えてるんだろう。危ないとかそういうレベルじゃない。

自転車は武器だし、椅子は勢いよくぶっ壊れていくし、人体は無重力で撮影してんのか!?ってくらい景気よくふっとんでいくし、すごいジャンルだなあ。この世界観にどっぷりはまってしまう人が居るのも分かる気がした。


ポケットモンスター ソード (ゲーム/ゲームフリーク)

昨年末からやってたのがようやく殿堂入り。まともにポケモンを遊ぶのは、ルビーサファイア以来だったと思うので、10年ぶり以上。とにかくキャンプが楽しくて、ずっとカレーを作ってた。あと、記憶と比較すると、各段に快適に遊べるようになっていたと思う。

TVで遊んでいるときは何回も通常マップでカメラの方向を回転させようとしたのに、携帯機モードで遊んでいる時は一回もやらなかった。自分の脳内では「こういうハードならこういうことが出来るはず」という風にハードとシステムが結びついているのだと思う。これは今まで意識したことが無かったので面白かった。

あと、ムービーシーンをこれだけ流すなら、いっそキャラクターにボイスを実装して欲しい。アレルギー反応を起こす人も多そうだから、任意でON/OFFできる感じで。


メンインブラックⅡ (映画/バリー・ソネンフェルド)

1と3は見てたのに、2だけ見てなかったやつ。1・3と同様に軽妙なジョークが多くて、英語字幕と翻訳字幕の対訳を見てみたいなあと思った。西尾維新が英訳されるって話を聞いた時にも思ったけど、言葉遊びの多い作品の海外展開はほんとうに大変そう。

昨今のマーベル映画とかと比べると、K役のトミー・リー・ジョーンズのアクションが、最強のエージェントにしては妙にもったりしてるんだけど、それが作品のとぼけた感じと合わさってなんともいえない味になってるのが面白かった。記憶が消えている間と、戻ってからの表情の差とかはさすが名優って感じだったけど。

そして結局、娘なのか娘じゃないのかどっちなんでしょうね。


森見登美彦リクエスト! 美女と竹林のアンソロジー (小説/たくさん)

 同時発行した宮内悠介と対談してるのをwebで読んで以来、ずっと読みたかった一冊。森見登美彦が自分で参加者を選んだアンソロジー。「美女と竹林」みたいな意味不明なお題で、よくこれだけ豪華な面子が集まったよなあとびっくり。全員悪戦苦闘しながら、お題をなんとか消化しようとしてたのが面白かったし、京極夏彦と有栖川有栖のネタが微妙に被ってたりしてふふってなった。恩田陸はほんと……大変だったね……って感じだった。

 話が良く纏まってるなあと思ったのは、阿川せんりと伊坂幸太郎。阿川せんりは美女と竹林という意味不明なテーマを、変人な主人公を使いながら綺麗に消化していた。伊坂幸太郎は美女+竹林=かぐや姫という図式を一番軽妙に使い切っていたと思う。


 マイ・ブロークン・マリコ (漫画/平庫ワカ)

 Twitterで1話を見かけたときから、単行本にならないかなあと楽しみにしていた作品。こういう作品は冒頭は良いけど、最後の方は尻すぼみになることが多いからなあと内心思っていたけど、オチまで見事だった。適度に荒っぽい絵柄から、人の心をえぐるような描写がえぐい。

 大変個人的な話なんだけど、創作で不本意に亡くなった友人を弔う話を書こうとしていたから、そういう意味でも打ちのめされた。


オーシャンズ11 (映画/スティーブン・ソダーバーグ)

 そういえば見てなかったなシリーズ第2弾。人を覚えるの苦手なんだけど、一回見ただけで、大体の登場人物を覚えてしまえたからよく出来ているなあと思う。全般としてワクワクドキドキしながら楽しく見られたんだけど、ベネディクトがテスを手離すと答えたシーン、あれをテスに見せたのはちょっと酷くないかと思う。滅茶苦茶傷ついただろうな……。

 終始、ブラッド・ピットとジョージ・クルーニーの美貌にくらくらしていたんだけど、今日になってTwitterで「ブラッド・ピットは美しさゆえに俳優として過小評価されてきた」という記事を見て反省した。顔だけじゃなくて演技もちゃんと見るようにしよう。


ファイアーエムブレム風花雪月 (ゲーム/任天堂)

 青獅子ルートクリア。個別記事を書きました。


ドキュメント:電王戦 その時、人は何を考えていたのか 

(ノンフィクション/著者多数)

 1月に摂取した書籍の中では、ずば抜けて良かったです。2014年に開催された人工知能vs人間の関係者インタビューやエッセイを纏めた本。現在は人工知能の方に大きな分があるけれど、2014年の頃はまだ互角に戦えていたんですね……。技術の進歩は恐ろしい……。絶対にこの時に纏めてないと読めなかった意見が沢山あるし、今になってこの本を読めることは本当に幸運だなあと思う。

 とりわけ印象に残っているのが鈴木大介八段へのインタビュー

ーーそれは将棋の「完全解」を見つけたいということにもつながってくるようにも思えますが。

鈴木:そうです。見つけたいですよね。「将棋というゲームのすべては解明されました。これで完結」いいですよね。

 自分の人生のすべてを賭けている(であろう)競技のことを、結論が出て欲しいなんて言えるのすごくないですか? どんな気持ちで将棋を指しているんだろう……。


マチネの終わりに (小説/平野啓一郎)

そういえば読んでいなかった本。「性癖が技術に捻じ伏せられる」という稀有な経験をしてしまった。

 マジで主役二人のこと好きになれなくて、そんな二人の惚れた腫れたが繰り返されるシナリオには微塵も興味が持てなかったんだけど、そんなのどうでも良くなるくらい、テキストのすべてが素晴らしかったです。えー、なんでこんな綺麗な日本語が書けるんだ。ただ綺麗なだけじゃなくて、書いてある必要な情報を適切に読者に伝える力も持っている……すごい……神業だ……。適切な描写を作り上げるために、どれだけの資料を読み込んだんだろう……。というか調べたことをしっかり作品に活かすことができてるのがもうすごい……。すごい……今後のお手本にします。


ハイキュー 41巻 (漫画/古舘春一) 

 ハイキューは本当にすごい作品だなあと改めて思った巻。ここまで40巻以上の描写を積んできたからこそ、この展開に納得できるというか。ジャンプを定期購読しているから、この後の展開も知っているんだけど、少年誌でこの展開ができるの、本当にすごい。作品に対する信頼感がないと読み続けることが出来なかったと思う。

「君の体はこれから大きくなるでしょう

けれど

ネットという高い壁越しに行う競技で

190㎝が「小柄」と言われるバレーボールの世界では

きっと君はこれからもずっと「小さい」

他人よりもチャンスが少ないと

真に心得なさい

そしてその少ないチャンス

ひとつも取りこぼすことがないよう掴むんです」

このセリフが、今、このタイミングで改めて主人公に突き付けられるの、本当にすごくないですか????スポーツに対しても、言葉に対してもあまりにも誠実。

ジャンプらしい派手な必殺技とかは登場しないけど、努力するとはどういう意味なのかを読者にちゃんと教えてくれる、少年たちに読ませたい作品ですよね……。学校の学級文庫に置きたい……。

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