ペンのインク切れ
あっ。
手元の字よりも脳内の字に意識を寄せていた私は、数秒遅れてペンのインクが切れたことに気づく。紙にはインクが乗るはずだった凹凸がある。
すぐにインクを買いに行かなければと椅子から離れようとしたが、このご時世、どの文房具屋も開いてないだろうということに気づく。あぁ。ペンを握り直すとさっきよりペンが軽くなった気がする。しばらくこのペンは使えないだろう。
僕が常に愛用しているペン。基本このペン以外は使わないし、使えないのだ。紙には書きかけの文章。しょうがない、と引き出しから違うペンを取り出す。いつもと違う感触に少し苛立ちを覚えながら、続きを書く。
みんなが不自由を抱えている。そう、みんなが。その不自由から生まれる憂鬱を晴らしてあげたいと動いている人がいる。今までの日常とは違う中で。手段は限られている。制限がたくさんある。
僕も残されたペンで書いていくしかない。
「僕も誰かの力になりたい」
気づけば、そう紙に書いていた。