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記憶

「クラスで満点はあなただけだわ、よく頑張りました。」

重要語句100問テスト。先生は満点防止のためにマニアックな問題も出すから、満点を取れる人が出るのは珍しい。勉強した甲斐があったな、と胸を撫で下ろす。

雑多な雑音が響く電車の中で、今日もまたいつものように単語帳をめくる。そんなとき、ふとこんな疑問が湧いた。

「こんなたくさんのことを覚えるメモリはどこに生まれたのだ?脳の容量はどうなっているんだ?」

僕は焦った。この単語帳をめくればめくるほど、小さい頃の記憶が失われていくのでは。今ある楽しい記憶も全て失われ、僕の頭は教科書になるのでは。

ひと通り考えを巡らせ、少し落ち着いた。そんなわけないじゃないか。頭が教科書のやつなんてみたことあるか。

でも…小さい頃の記憶は僕が成長すればするほど薄らいでいる。歴史は積み重なるほど大雑把になっていく。

僕の小さい頃の記憶は生きる上で必要ないということだろうか。今、勉強していることの方が大事だということだろうか。

そんなことない、少なくとも僕の気持ちはそうだ。

忘れたいのに忘れられない記憶。忘れたくないのに忘れてしまう記憶。こんな酷いことがあるだろうか。僕の頭に残る記憶は僕の手で選べないのだろうか。