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音楽留学から得たもの② ピアノ習いたい or 習わされてる?

„幼少の頃よりピアノを...“  という言葉を色々な人のプロフィールでよく見かける。

ピアノは自分で音を創るヴァイオリンのような弦楽器と違って、音質はともかく鳴らせば誰でも音が出る。その手軽さゆえに、今や多くの人が習い事として嗜んでいる。筆者もその一人で幼少期によく歌っていたことから、音楽とは無縁の家庭に育ちながらも両親が習わせてくれた。   

やがて物心がつき自身にはっきりと「音楽を続けたい」という自我が芽生えその道に進んだ。いつしか海外の大学で音楽と向き合いつつ、ピアノ教師としてレッスンをするようになる。そこで私はある事に気付く。

”自らがピアノを習いたいのではなく、親の意向で無理矢理ピアノに向かわされている生徒がいる” 

ということに。

ピアノと向き合っている当の本人はその気がないのに、親は子供に楽譜が読めて色々な曲が弾けることを望んでいる。 

“ピアノの先生として、どちらの意向に従えばよいのだろうか...?” 

遠い異郷の地で私はサンドイッチのハムやチーズのような気分になった。

“板挟みというのはこういうことか!”

一人心の中で呟いた。そしてしばらく様子を見ながら、私はどちらの希望にも沿えるようになろう!と決めた。


2017年秋。ところはオーストリア•ザルツブルク。生徒の名前はエマ。出会った当時は7歳のまだあどけない少女だった。半年間ほどモーツァルテウム大学の演奏系教育学専攻のオーストリア人の女子学生に習っていた。先生がウィーン国立音大への進学を機に引っ越してしまうので後任の先生を探していたところ、私のもとに依頼がきた。

先任の先生が学ぶ学科名は、ドイツ語で „Instrumental- und Gesangspädagogik“。通称IGP(イーゲーペー)と呼ばれ、楽器(Instrument)もしくは声楽(Gesang)を教える(Pädagogik)者を養成するところだ。
この学科は、受験の際に専攻(Hauptfach)を決めなければならず、彼女はピアノ専攻だった。一方私は音楽とダンス教育研究科の院生で、音楽の予備知識がない人、もしくはある人に対して幅広く音楽を教えられるような教育者になることを目指している。ドイツ語の解説はややこしくなるので割愛する。当然、読んで字の如くピアノ専攻ではない。

一通りの引継ぎ事項を先任の先生から電話で聞く。彼女は引っ越し準備等で忙しいらしく、端的に説明はするけれどそれほど詳しく教えてくれない。

“あとは行けばわかる。” 

と。
     
彼女から聞いたことは、「初歩から教えた。音符は読めるし両手でも弾けるが、飽きっぽいのでレッスン後半は私のピアノに合わせてエマが歌うのが習慣になっている。」とのことだ。

レッスンに向け、とりあえずこの辺りのレベルだろうと思われる子供用の楽譜、音符が読めると聞いていたが念の為の復習用にと自身が作成した簡単なソルフェージュの学習プリントを数枚用意した。

”ピアノ専攻、しかも教育課程の学生から引き継いだのだから基礎的なことは話の通りできるだろう。さて、何の曲から始めようかな。”

と思いながら。

そしてレッスン当日。


引継ぎで聞かされていた内容とのあまりの違いに、私は愕然とした。


(次回につづく)



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