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短編小説

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今までのお話をまとめました。隙間時間に寄り道がてら、読んでいってください。
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#子供

私はあの子にはなれない。あの子も私にはなれない。

 幼なじみ。幼少期からの顔なじみで、腐れ縁の一生ものの友達。世間一般ではきっとそんなイメージ。一見聞こえはいいが、私にとってはあまり心地のいいものではなかった。むしろそれが、幼なじみの存在が、コンプレックスの原因だった。  出会いは幼稚園まで遡る。怜菜とはマンションが隣同士。もちろん学区も同じだったため、幼稚園から中学校までずっと一緒。何度も同じクラスになった。香奈と怜菜で奈菜コンビ、なんて幼稚園の先生たちから呼ばれたこともあった。何をするにもいつも一緒。断片的な記憶の中で

長い長い片想いの終わりに:後編

 すっかり通い慣れた家の扉を開く。温かく迎え入れてくれるおじさんとおばさんに、いつも安心する。一時間ほど経ってから、あなたが帰って来る音。聞き慣れた大好きなただいまの声に続いて、初めて聞くお邪魔しますの声。あなたの後ろからひょこっと顔を出したその子は、リビングに入って来てからもう一度お邪魔しますと呟いた。顔が引きつるのが自分でもわかった。おばさんに手土産を渡しながら、自己紹介をするその子の隣で、あなたは初めて見る顔をしていた。この人こんな風に笑うんだ。こんな顔もするんだ。私の

長い長い片想いの終わりに:中編

 新しい消しゴムに好きな人の名前を書いて、使い切ると恋が叶う。中学生の頃一時期流行ったそんなジンクスを純粋に信じて、消しゴムの端に小さく名前を書いた。はやく使い切りたくて、わざとノートに落書きしては、無駄に丁寧に消していた。あの消しゴム、どうなったんだっけ。確か半分ほど使った頃に失くしてしまって、結局使い切れなかったような。子供ながら、いっちょ前に恋占いなんかもやってみちゃったりして。毎朝放送される情報番組の占いコーナーでは、真っ先に恋愛運をチェックした。良さげな結果が出たら

長い長い片想いの終わりに:前編

「妹ができたみたいだ。」 照れくさそうに、ちょっと嬉しそうに、あなたはそう言ったね。私はあなたのことお兄ちゃんだなんて思ったことはなかったよ。出会ってから今まで一度だって。そう思おうとしてもできなかったよ。 「俺四人兄弟の末っ子だからさ、昔から家だといつも子供扱いで。だから下に兄弟欲しかったんだよね。」 お兄ちゃんと呼ぶと嬉しそうにするあなたを、私はたかにいと呼んだ。貴裕くんって呼ぶよりそのほうが嬉しそうだったから。望み通り妹を演じて、兄として慕うふりをしながら、いつだ