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せんだごの分岐点を探しています。 【#天草の郷土料理】

おはようございます。
天草ふるさと住民の木下です。初夏に入り、草刈りオンシーズンを迎えました。お借りしている畑 の手入れや企画の仕事、実家の滞在などで、月に10日〜20日くらいは熊本ー天草を行ったり来たりしています。

海遊びも楽しい季節。天草はいわゆるオンシーズンを迎えていますが、移動時間やルートをずらすだけで渋滞知らず。ときには、牛深や鬼池、新和、富岡、前島などから、海の道(フェリーや高速船)も使います。海沿いで日の出や日の入りに出会えたときの優越感ったらありません。

天草宝島観光協会のイラストマップ
⇒詳細はこちら(https://www.t-island.jp/wp-content/uploads/2020/03/ill_map.pdf)

運転が続く日はカンフル剤として、「蜂楽饅頭」や「まるきんのたい焼きと赤い月珈琲」を携えたり、「道の駅有明のデコポンソフト」をほおばったり。ちょうど中間地点にあたる大矢野あたりで「ミスターバーガー」のハンバーガーや、「天慎」の三代巻などをテイクアウトすることも。「麻こころ茶屋」の24時間OKの自販機でカラフルなドーナツを買い、その日一番ピンときた風景でコーヒーや自作の発酵茶を淹れて味わうのも最近のマイブーム。迂回路のないエリアが多い天草路は、「よりみちみちくさまわりみち」すればするほど、移動が旅にかわります。
と、note.09の渡邉さんの行き方ネタを受けて、すっかり前置きが長くなりました(苦笑)

今日の本題は、「せんだごマイノリティ事件」です。


せんだごの不一致。わが家はマイノリティなのか?

実家に帰ると、旬の魚介や野菜などをいただくことがよくあります。先日は玄関先に袋いっぱいのジャガイモが届いていました。そういえば春になると「せんだご汁」が食卓にのぼっていたっけ。そんなことを思いながら今年も、祖母&母直伝のせんだご汁をつくりました。

わが家のせんだご汁はシンプルなすまし仕立て。ジャガイモだけでつくる団子を浮かべます

熱々の汁をすすりながら思い出したのは、おととしのこと。地元テレビ局の方から「せんだごについて取材したい」と連絡をいただき、せっかくならば一般の方でもすぐ食べられる場所がいいかな?と「ブルーガーデン」(天草町下田)の永田さんに「ご家庭で召し上がるせんだご汁の作り方を教えてください」と協力を仰ぎました。

日本三大ちゃんぽんのひとつ「天草ちゃんぽん」の名人としても知られる永田さん

迎えた撮影当日。つくりかた手順を撮影するテーブルの上に並んでいたのは、ほっかほかのサツマイモ。「え?ジャガイモじゃないんですか!?」と驚く私に、永田さんは「なーん、せんだご汁はサツマイモよ」と言いながら、手際良くせんだご汁を仕上げてくれました。

やわらかくなるまで蒸したサツマイモをマッシャーで潰す、この光景にびっくり

ブルーガーデンではスイーツメニューとして、ステンドグラスをイメージしたきなこ&黒蜜かけのアレンジせんだご(カボチャ や豆、紫芋などで着色)を提供しているのは知っていましたが、まさか、「せんだご汁」になってもサツマイモが使われるなんて!私の知ってるせんだごはこれじゃない・・・と驚いていると、「下田も福連木もサツマイモが普通よ」と永田さん。ということは、わが家がマイノリティなの!?と愕然としました。

そういえば、10数年ほど前に﨑津・小島のちゃんぽん屋さんで定食に添えられていたせんだごはジャガイモだったはず。どうやら、この沿岸域のどこかで、サツマイモとジャガイモのせんだご汁が入り混じっているのかもしれない。モヤモヤした気持ちのまま、気づけば2年が経ちました。

そもそも「せんだご汁」って!?

「せんだご汁」とは、小麦粉や米粉の代わりにイモのお団子を浮かべた天草の郷土料理です。イモを洗って取り出したデンプンを“せん”と呼ぶという説や、キリスト教の布教に訪れた外国人宣教師によって伝えられたから、という説もあるそうです。

ブルーガーデンの永田さんが教えてくれたせんだご汁は、蒸したサツマイモをペースト状にし、「せんだごの素」と呼ばれるサツマイモのデンプンを加えて練り混ぜ、棒状にして一口大にカットしていきます。

これを、たっぷりと野菜を入れたすまし仕立ての汁に浮かべて加熱し、できあがりです。私もこのとき、試食させていただきましたが、ジャガイモをはるかに上回るもっちり食感に驚きました。サツマイモ由来のやさしい甘みは汁にも広がっていて、これはこれで美味!でした。

取材用につくってくださったサツマイモのせんだご汁(ブルーガーデンで提供されていません)
ブルーガーデン(天草町下田)で味わえるせんだごは、黒蜜ときなこで味わうアレンジスイーツ


せんだご分布図とシマノタネ的考察

思えば、せんだご汁も、各地のだご汁やお雑煮、そのほかの料理も、家庭の料理ってたいてい口伝えの目分量。材料だって、その土地やその年の収穫、家族の構成や好みや体調などに応じて少しずつ、わが家ナイズされていくものです。そう思えば、郷土料理なんて、マイノリティだらけなのかもしれませんね。

(研究家の方など気分を害される方がいたら、ごめんなさい)

と、おおらかに構えてみても、やっぱり気になる。せんだごの素材として用いるジャガイモとサツマイモの分岐点が知りたくなって、個人的にリサーチしてみました。データ数は少ないので、もっとしっかり調べる必要がありそうですが、2022年6月1日現在の分布は以下の通りです。

苓北町・天草町・河浦町﨑津と、どうやら天草下島の西側だけに伝わる料理のよう

マップに落とし込んでみて驚きました。「せんだご汁」は天草の郷土料理だとばかり思っていましたが、なんと、こんなにも限定されたエリアの郷土料理だったんですね!?

上島はおろか、同じ下島でも五和や本渡・新和・牛深などの人に聞いてみても、「押し包丁はつくるよ」「だご汁なら知ってるけど、せんだご汁ってどんなもの?」と言われること多数。こうなると、ジャガイモを使った「せんだご汁」がというよりも「せんだご汁」自体が、天草の中でもマイノリティ!?う、うそでしょ。。。


同じ集落のなかでも、ジャガイモとサツマイモをミックスする家、季節によって使い分ける家などもありました。河浦町にいたっては、﨑津集落はジャガイモオンリーのせんだごだけど、宮野河内や一町田あたりではほとんど作られず。崇圓寺界隈の浄土宗のお宅では、精進料理にだごも入らない具沢山の汁物を「つぼ汁」として召し上がるという話も聞かれました。しかもその汁物、特徴を聞けば聞くほど、人吉球磨の郷土料理「つぼん汁」とそっくりなのです。
球磨にはかつて、天草からも多くの人が移住したと聞いたことがあり、食文化の近いところもあるのだろうなとも予想はしていましたが、これには驚きました。

地図をよく見ると、天草西海岸の沿岸部に集中している様子。いずれも比較的、平地の少ないエリアで、米の代わりにイモを主食にした時代も長かったのだろうと推測できます。天草町と﨑津エリアについては、島原・天草一揆に出兵しておらず、もともとの住民がそのまま残ったから一揆以前の食文化が受け継がれやすかったのか?などとも想像したりもしました。


たった一杯のせんだご汁で、いろんなことがうかがえる。
やっぱり「食は文化」ですね。

番外 わが家のせんだご汁のつくりかた

せっかくなので、わが家のせんだご汁のつくりかたをこちらにご紹介しておきます。小麦粉や米粉を使わず、ジャガイモだけで形づくるお団子は、お吸い物に浮かべるとふわふわとマリモのような形に。もちもちっとした独特の食感がくせになります。


<わが家のせんだご汁>
1. 皮をむいたジャガイモをまるごとすりおろす

すりおろしたジャガイモは汁ごと使います


2. 布巾などで水気をしぼり、ボウルにうつす(絞り汁は別にとっておく)

布巾で包んで水気をしっかりとるのがポイント
水気をしぼりとった固形はこちら

3. (2)の絞り汁を10分ほどおいておく。白いデンプン質が底に沈んだら、上澄みを捨てる

しぼった汁をしばらく置いておくと、デンプンが沈殿してきます。このデンプンがつなぎの役割に


4. (3)を(2)に加え、よくこね混ぜたら一口サイズのおだんごを作る

デンプンを混ぜるとパサつきがなくなり、まとまってくるのが実験みたいでおもしろい


5. いりこと干し椎茸で出汁をとり、タマネギなどを加えて加熱し、醤油で味付け

6. 煮立った(5)のなかに(4)を入れ、だんごが浮いてきたら完成   

具材はその日、台所にあるものを。いりこと椎茸のほか、雑節で出汁をとることもあります

がぜん興味が湧いてきたので、せんだご汁やそれ以外の郷土料理についても、聞き書きを進めていきたいと思います。「せんだごマップ、ちょっと違うよ!」とか、「郷土料理教えてあげる!」「この人のこの郷土料理が絶品だよ!」などという情報も教えていただけるとうれしいです。

今回も長々とご覧いただきありがとうございました。

text&photo by 木下真弓
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