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パパ活の記録 妻から離婚調停を申し立てられているパパの話【前編】

地方都市在住、平日昼間は正社員として真面目に働いていますが、
訳あって30代前半を超えてからパパ活を始めました。
好きな言葉は「事実は小説より奇なり」、
ここではパパ活で出会った印象に残っている男性のことを書き記していきます。


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そのパパは私がパパ活をやり始めて最初に会った男性だった。
ここでは彼の名前をKさんと呼ぶことにする。
たしか彼もパパ活を始めたばかりと言っていた。アラフォー大手勤務の男性で、見た目は年齢より少し下に見えるくらい、いかにも仕事ができて根回しが上手そう、洗練された真面目な草食系サラリーマンという雰囲気の人だった。第一印象は、こんな普通の人もパパ活をやるんだと思ったことを覚えている。

これまでに2回会っていて、1回目はKさんが出張帰りで食事をしてホテルに行き、2回目もまた彼は出張帰りで食事をして、その後に私の家にやってきた。
一人暮らしの女性の家にパパを招き入れるのは安全性に疑問視が持たれるところだが、彼は信用できると思ったし、少し惹かれる何かがあったのだろうか、自分の内側を見せてもいいと思えたから招き入れた。

お恥ずかしい話、実はKさんが家に来た時に初めて彼が既婚者であることを知った。というのも、彼が私の手を握った時に、ふと彼の左手を見たら薬指に指輪の跡があったのだ。どうやら指輪は会う直前に外したようだ。

「ねえ、この指浮腫みすぎじゃない?そういうことなの?」
と思わず笑ってしまった。
「実は結婚しているんだ」と彼は白状した。
「そうだったんだね。お子さんはいるの?」
「うん、男の子が一人、幼稚園に通ってる」
「かわいい年ごろだね」
そうか、この人は父親だったのか。
だから出張帰りにこうやって家族の目を盗んで女性と会っていたんだなと、納得した。

ただこの2回目を後に、Kさんからしばらく連絡が途絶えていた。
なんせパパをするには金銭的な余裕が必要だし、これからお子さんにお金もかかってくる。いろいろあって気持ちが変わったのかなぐらいに考えていて私も深追いはしないでいた。

しかし数か月経ったある日、Kさんから久しぶりに食事のお誘いメッセージが届いた。
待ち合わせのお店の前にやってきた彼は、少し雰囲気が変わっていた。
髪の毛が少し伸びただろうか。いや、それだけではないような以前は感じたぎらつきのようなものが息をひそめているようだった。

注文した料理がやって来るのを待ちながら「久しぶりだね、元気だった?」と私は声をかけた。彼は最近ランニングをしていることや、この前食べた無印良品のパスタソースが美味しかったことを教えてくれて、お互い軽い世間話をしながら近況報告をした。
お酒も進んで中盤に差し掛かったころ、
彼から「積もる話があるんだ」と話題を持ちかけてきた。
「実はこの活動のこととは直接関係がないんだけど、離婚することになったんだ」

「え、どうしたの?」
「前回ちゃんちちゃんと会った日に家に帰ったらさ、やけに家の中がすっきりしているなと思ったら置手紙が置いてあって、妻が子どもを連れていなくなっていたんだ。離婚してほしいと、後は代理人弁護士を通じてやりとりをしてほしいと。それで今日は家庭裁判所で1回目の話し合いをしてきたところなんだ」

あまりにもな急展開に驚いた。
そこからは当日の状況であったり、彼の今の心境をいろいろと聞いてしまった。
彼の話によると、その後も奥様とは連絡がつかず、義実家に問い合わせても奥様の行方は教えてもらえないそうだ。そんな奥様との出会いはお互いの大学生時代で、彼にとって初めての彼女が奥様だったらしい。20代の間もずっと関係は続き、半同棲生活を経てそのまま結婚したそうだ。今回、彼は初めて大切な人と別れるという経験をして、世の中にあふれる別れの音楽や歌詞に共感を覚え涙する日々を送っていたらしい。そしてまた一人の時間やり過ごすために、ランニングや家事をしていたということで、前半の話題の伏線を回収した。どうりで、そりゃ雰囲気も変わるはずだ。

「俺、家族だから何でも言っていいと思っていたんだけど、それが間違いだったんだと思う」
彼が自らを省みてぼそりとつぶやいた。
「家族とはいえ所詮他人だからね、気遣いは必要だよ」

「家具や家電はそのままだったの?」
「うん、自分の荷物だけ持って行って、電子レンジとかはそのまま」
「家電を持って出て行く人もいるらしいよ。Kさんはそのまま生活を続けられている訳だし奥様はまだ良心的だね」
「確かにそうだね」と彼は笑っていた。

冗談を言って場を和ませてみたものの、しかしそれは言い換えると、奥様にとって家具家電なんてどうでもよかったんじゃないだろうか。実際は実家に帰っていて家電なんていらないのかもしれないが、ただわかることは、彼の知らないところで奥様は着実に離婚への計画を練っていて、彼の出張に合わせてそれを決行したということ。今の生活をすべて捨ててしまうほどに限界を越えてしまったということ。そして彼にやり直しのチャンスさえ与えなかったということだ。

食事もほどほどにして、私たちは店を出た。
この後どうしようかということで、彼から「俺の家に来る?」と誘われたけれど、数か月前まで家庭があった家になんか行きたくない。
そこまで無神経にもなれない。
コンビニでお酒を買い足して、私の家へと向かった。



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