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パパ活の記録 妻から離婚調停を申し立てられているパパの話【後編】

地方都市在住、平日昼間は正社員として真面目に働いていますが、
訳あって30代前半を超えてからパパ活を始めました。
好きな言葉は「事実は小説より奇なり」、
ここではパパ活で出会った印象に残っている男性のことを書き記していきます。


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コンビニでお酒を買い足して、狭いワンルームの家にKさんを招き入れた。
そこからはお互いリラックスしてざっくばらんにいろんな話をして、
彼が少しずつ内面の弱いところを吐露し始めた。

「Kさんはさ、なんでこの活動を始めようと思ったの?」
「俺さ、何をやってもいいと思っていたんだ。仕事でこんなに頑張って結果を出していて、だから結果を出すためには何をしても許されると思っていたんだ」

「今まで社内では結婚生活が上手くいっているロールモデルだったけど、今じゃ俺の言葉なんて誰にも響かないよな」と弱気なことまで言っていたっけ。
酔いもほどよく回ってきたのを合図に、向かい合って座っていた位置関係を変えて、私はKさんの隣に座りなおした。
すると彼が私の手を取り「本当にきれいな手だよね」と囁いた。
知っているよ。どの男性も、私をその先へ導くためにまずは手を握って反応を確かめていることを。
私もKさんの手を握り返す。彼の左手薬指にはまだうっすらと指輪の跡が残っていた。
「ずっと着けていたから、外してだいぶ経つのに跡が消えないんだ。もう消えないんじゃないかな」
前回会った時の浮腫んでいた指とは大違いだ。
まるでそれが自分への戒めの烙印であるかのようにKさんは寂しそうにつぶやいた。そしてどちらからともなくキスをしてそのままベッドに雪崩れ込んだ。

この日私は生理だったのでできないということは伝えていた。
代わりにキスをして抱き合いながら眠りについた。
眠りに落ちる間際、Kさんが私の手を恋人繋ぎで握ってきた。
ああ、彼は今、昔奥様とこうやって狭いベッドで落ちないように肩を寄せ合い、眠りに落ちた幸せだった日のことを思い出しているのだろうか、そんな想像が頭をよぎった。


カーテンの隙間から外の明るい光が入ってきた。
朝はもう近いらしい。お互い今日は仕事だから、あと数時間しか一緒にいれない。
一度歯磨きをしてから、またKさんとベッドに潜り抱き合ってキスをした。
彼が私の胸に顔をうずめた時に、私は彼の頭を優しく撫でた。
「よしよし、Kさんはがんばっているよ。えらいよ」
彼が欲しているだろう言葉をかける。
彼にとって居心地の良い環境を作るのが私の役目だ。

大学生の頃からずっと一人の相手と付き合い続けて結婚するなんて私には想像できない。初めてキスをして、初めてセックスをして、初めてクリスマスを一緒に過ごしたり、旅行に行ったり、男女が行うあれこれのすべて、その傍らには必ず奥様がいた。奥様と過ごした年月はおよそ人生の半分くらい、もはやKさんの歴史であり、アイデンティの一部である。
そして一人になった彼は今、奥様以外の女性に抱きしめられながら何を思うのだろうか。
その後も時間いっぱいまでベッドの上で過ごして、「また連絡する」と言い残してKさんは帰っていった。

人生何があるかわからない。
奥様が出て行った日と、家庭裁判所の一回目の審議の日と、
図らずともそういった節目のタイミングに居合わせてしまい、
思わぬところでKさんの人生の脇役になってしまった。
Kさんのことはまた何かあれば続きを書くかもしれないし、書かないかもしれないし、まだ未定です。

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