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2分落語『頭山ン火事』

「おや、はっつぁんじゃないか、まぁこっちへお上がり」
「へい……」
「さ、お布団をお当て」
「有難うございやす。ご隠居、今日はちょっと聞いて欲しいお話がありまして」
「おいおい、何だい、柄にもなく改まって」

######

 頭の中の不燃物、頭蓋の際まで山積みの山積み。あっしの頭ン中はゴミ屋敷。苦情もなく孤独な頭に住まう。

 隣近所でもない女登場!
 世間を厭い逃げ込んだ頭ン中で、二人の対話――女、鼻を摘まみながら、ゴミの山にケチをつけ始める。
 あっしはゴミを垂直に蹴上げ、リフティングしながら――
「ほっといてくれよ。俺ンちのゴミだ」
 女、のたまわく――
「飛べないゴミはただのゴミでありんす」
「は?」
「違った。燃えないゴミは不燃ごみ」
「燃えるよきっと、でも燃やさない。だってここは俺ン頭の中だぜ」
「恋って燃えるの?」
「燃えないと思われ」
「燃やしてみ?」
「燃やすぐらいなら捨てる」
「じゃあ捨てりゃんせ」
「捨てる曜日を探してるんだ」
「八番目の曜日?」
「じゃあおめぇが火を着けてくれるのかい?」
 女は、カッと目を開いて火を吐くかくし芸の瞬間、その顔はキングギドラの左にそっくり(ただし本人は登場しません)
「よぐぅわぁふぁいやーーー」
「え?」
「あ、訛ってた?ヨガファイヤーでありんす」
「Wham!いきなり何しやがんday?」
 燃える・・・燃えている
 不燃物だったはずの心のビン、カンな部分が、いともたやすく燃えている。
「頭ン中、火事だ」
「you! 謝っちゃいなヨ?」
「誰に?火に?人事みたいに言うし」
「炎上を収めるには謝罪しかないでありんす」
「勘弁しておくれよ。じきにサザエさんの再放送が始まっちまう。今日はチョキって、朝から決めてたのによぉ」

 食用に適さない海産物を燃やしたような臭いが、苦い煙と共に充満し、頭頂部からもっくもくです。

「ほけほ」

 白煙一筋となる頃、火力は安定。あっしはチラチラ燃える下心を発見し驚く――そんな感情がどうして?でもここぞとばかりに、抜かりなく焼き芋をセットする。
 炎に照らされる女の勇姿がシルエットロマンス。あっしの頭は出木杉イレイザーヘッドってな具合だぁ。
「恋って燃えるのね」
「あんな火力じゃあなんでも燃えちまうよ」
 女は焼き芋を盗んでしゃもしゃも食べている。あっしはそんな姿にめっきりホニャララだ。

炎を避け女に近づく。

「素敵な頭髪ね・・・しゃもしゃも」
「・・・ありがとう、でもそれ俺っちの芋だから」

 いつしか二人
 芋の味を挟んでいる
 緑紫アーク溶接
 唇二つ溶かし
「涙では消えそうもないな」
 炎に包まれピクニック気分
 避難をボイコット

 このままこの頭ン中、炎に包まれながら一緒に暮らさないか?
 どうせあっしは、てめぇの頭ン中でしか生きていけねぇ人間だし、きっとおめぇもそうだろう?だってそんなに美味しそうに芋食ってやがる。
 
「だが断る!」
「え?」

 嘘よ。だってあちきは貴方だもの。蛸が足食うように、あちきを愛すればいい。
 それができないのならいっそ――

 この燃え盛る頭の中の炎に二人
 飛び込んでしまわない

「反対の賛成」
「どっち?」
「愛している」
「だからどっち?」
「愛してる以外の答えは、さっきすべて燃えちまったんだ」 
 
 ######

「――ってな訳なんす」
「なるほどねぇ、で?その話をあたしに聞かせて、どうしろっての?」
「いえ、どうこうして欲しいとかそういうことでもないんですが、ちょっと、オチに困ってやして、どうでしょう。こんな女と結婚しても構いやせんかね」
「大丈夫、いい嫁さんになるよ」
「そうっすかねぇ。でも人の頭ン中に火をつけて喜ぶような女ですぜ」
「だからだよ。きっとこの女、家事(火事)が好きだ」

 お後が宜しいようで?

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