50秒小説『圧力』

「言うことを聞かないとこの卵を割ってしまうぞ!床に叩きつけてやる!いいのか?お前の大事な卵が、出汁巻きにもオムレツにもなれずに生ゴミとして廃棄されても?そんなに堅くなるなよ。リラックスしろ。強情なやつめ!もっと柔軟になれ!」
「おい吉田!何してる?」
「あ、はい。3番テーブルの鳥の唐揚げ作ってます」
「何ぶつぶつ言ってたんだ?」
「あ、はい。"ちゃんと圧力掛けろよ"って言われたんで」
「圧力?……バカやろう!"圧力鍋使え"ってことだろ。分かんだろそんくらい!早くしろよ団体客来たから!」
「分かりました。そうか、おかしいと思ったんだよ。しかしこんな便利な鍋があるとはね。さて、じゃあ本気出して行くぜ!おい、いいか?よく聞け!このごっつい鍋で卵を叩き潰されたくなかったら――」

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