見出し画像

3分30秒小説『ミティーング』

「ではこれで商品企画チームのミーティングを終了したいと思います。最後にオブザーバーとして参加して頂きました川辺部長、一言お願いします」
「あー、山村さん、司会進行お疲れさまでした。ミーティングを拝見して、まずはこのチームの結束力と絆の強さを凄く感じました。本当にいいチームだなと思いました。ただ一点だけ気になったのが、ミーティングの時間配分です。冒頭で企画の狙いについてチームリーダーの田崎君が語ってくれたけどあそこがね、ちょっと説明不足だし一方的過ぎるなと感じました。企画の狙いをチームの全員が十分に理解していないと、方向性が狂ってしまいます。冒頭はもっと時間を掛けるべきでしたね。それに対して中盤は長すぎです。分かり切ったことを改めて確認する必要があるのかなと――数字の話は事前に資料を配って頭に入れておくべきじゃないかなと、思いました。せっかくスケジュールを調整してこうやって集まっているのに、本当に中盤の時間の使い方が非効率的でした。あれじゃあミーティングじゃなくてミティーングです」
「え?ミティーング……ですか?」
「そう、つまり、本来はミーテイングと冒頭部分を伸ばすべきなのに、このチームがやっているのは中盤が無駄に長いミティーングだと私は言いたい」
「なるほど」
「田崎君、いつもこんな感じ?」
「――と申しますと?」
「いつもミティーングしているの?」
「はい、すいません」
「俺の言いたいこと分かってる?」
「はい、分かってます。自分たちではミーティングをやっているつもりでも、部長から見ればミティーングにしか見えないと――そういうことですよね?」
「そう、時間配分は非常に大事だよ。どこを伸ばすかで意味が全然変わってしまうからね。例えばチューイングガムだって、最初にガムの味が口の中に広がるからチューイングガムと呼ばれる。あれがもし口に入れても何も味がしないで噛んでいるうちにやっと味がしてくるようじゃあチューイングガムじゃなくなってしまう。分かるな?田崎」
「はい」
「じゃあ何になる?」
「えー、チューイングガムがそのー、最後の方で味がすると名前がどう変わるかってことですよね?」
「そう、答えて」
「チュイングガームでしょうか?」
「田崎っ!ふざけるなっ!何がチュイングガームだ!私を馬鹿にしているのか?」
「すいません」
「まぁ、今のは例え話だ。とにかく、ミーティングでは、狙いを明確にして共有することに十分な時間を掛けることが重要だ。私からの意見はそれに尽きます。最初に言いましたが、チーム力は凄く高いので、企画の狙いと方向性だけは外さないように注意してください。田崎、頼むぞ」
「はいっ!」
「では、本日のミーティング……いや、ミティーングでしょうか部長?」
「はは、そこはミーティングでいいよ。いや、ホントのこというと今日の会は冗長すぎて私に言わせればミティーーーーーング!」
「はい、有難うございます。次回からはちゃんとミーティングになるように、内容と時間配分について田崎リーダと十分な打ち合わせを致します。お疲れさまでした」
「お疲れさまでした」

********************

 山村が、ホワイトボードの文字を消し終え振り向くと、田崎だけが居残って資料を睨んでいる。余白に書かれた文字――。

   チュイングガーム
   チュイングーガム
   チュインーグガム
   チュイーングガム

「四択……どれだったんだ?」
 山村が無言でホワイトボードに――。

   チュイングガム―

「え?それなの?」
「いや、分かんないですけど」   

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?