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転職サイトGreenのアトラエによるアルティーリ千葉の売却を深堀してみた

起業家で元機関投資家・経営企画のあると🎻(Twitter: @alto_va)です。

転職サイトのGreenについて調べていたところ、運営会社のアトラエがプロバスケットチームのアルティーリ千葉(以下、アルティーリ)のオーナーであることに気づき、なぜオーナーなんだろう?シナジーは?と疑問に思って調べたら、なかなか興味深かったのでXにツイートしました。

その内容を一部加筆修正しながらまとめた記事になります。
内容はXにツイートしたものとほとんど同じです。
なお、アトラエはアルティーリ千葉の売却を発表しています。


アトラエの会社概要

アトラエとは転職サイトGreenやビジネスマッチングアプリyentaを運営している会社です。
2003年に現代表の新居佳英さん他が創業し、2016年に東証マザーズに上場しました。

同社決算説明会資料より
以下、出典のない画像は全て同社決算説明会資料からの引用です。

また、プロバスケットボールチーム(Bリーグ)で千葉に本拠地のあるアルティーリ千葉のオーナーでもあります。

保有経緯~バスケチームをゼロから立ち上げ

社会貢献も大事にする会社の価値観

アトラエは会社の価値観として、社員、ユーザー、株主、社会の四方よし(ジョンソン・エンド・ジョンソンのクレドに似ていますね)を大事にしています。
利益を株主に還元するだけでなく、スポーツや芸術を通じた社会貢献も公器となる企業の責務だと考えています。
この思想は決算説明会でも毎回冒頭に触れられています。

その中でメルカリの鹿島アントラーズや同社社長の小泉さんに憧れがあり、2019年にはJ2水戸ホーリーホックと資本業務提携を行いました。

プロバスケットチームへの参入

2021年、千葉にプロバスケットボールチームを作ることは社会貢献も利益創出も両立できると考え、アルティーリ千葉を創設しました。
企業によるプロスポーツチームへの参入は一般的には買収によるものが多いですが、アルティーリについては買収ではなくゼロから立ち上げがなされました。

なお、アルティーリは基本的にはアトラエの主力事業であるGreenやWevoxへの事業シナジーがあるものではなく、それ単体で利益を創出、社会に貢献していくことを目的としていました。

一方で、一定程度、企業の認知度向上やアトラエ社内エンゲージメント向上にはなると考えられていました。

同社2021年9月期 通期決算説明会(書き起こし)より

なお代表の新居さんは元バスケ部ではなく元サッカー部でフォワードだったようです。

業績~立ち上げということもあり先行投資、赤字が続く

アルティーリはほぼ黒字のように見えるが…

アトラエの適時開示によると、アルティーリの業績は2023/6期に売上高12.1億円、営業損失-0.4億円でほぼトントンのようでした。

しかしながら、このトントンには裏があるのでもう少し分析を続けます。

連結子会社の異動(株式譲渡)及び個別決算における特別損失の計上に関するお知らせより

アルティーリが所属しているBリーグの資料を見ると、売上や費用の詳細が開示されておりました。

B.LEAGUE 2022-23シーズン(2022年度) クラブ決算概要より

B2リーグクラブの平均営業収入(売上)は5.3億円に対し、アルティーリは12.1億円と非常に大きい金額になっています。

内訳を見ると、スポンサー収入について、B2クラブは平均3.5億円に対し、アルティーリは10.3億円と非常に大きくなっています

これは、アルティーリとアトラエの間にはスポンサー料の支払(アトラエグループ内の内部取引)があり、アトラエはアルティーリに対し、特別パートナーのような形で多くの広告出稿がなされていたのだと推測されます。
具体的には、アルティーリの業績とアトラエのSports techセグメントの売上の比較から推測すると、アルティーリは7億円程度(2023/6期)の広告費を受け取っていた(アトラエは払っていた)のだと思います。

アトラエからのスポンサー料(内部売上)を除くと、アルティーリの売上は4.6億円となり、B2平均の5.3億円に近付きます
上記で見たほぼトントンの営業利益は、アトラエからの支援がなかった場合、-8億円近くの営業赤字状態だったと考えられます。
なお、この-8億円はアトラエのSports techセグメントの営業損失の-8億円と概ね同じですので、その点からも確からしさが確認できます。
ただし、アトラエのスポンサーがなかった場合、代わりのスポンサーを探していたり、先行投資を抑制したりしていたでしょうから、実際の営業赤字はここまでではなかったことが想定されます。(B2平均は-1億円の営業赤字)

2024/6期の予想

2024/6期は、アルティーリの決算予想は開示されていませんが、アトラエのSports techセグメントは売上高9.5億、費用15.3億で、損失-5.8億円での着地予想が会社から開示されています。

そこから予想をすると、アルティーリは売上高17億(うち内部売上7億円強)、費用15億で、2億程度の黒字になると思われます。
しかしながら、アトラエからのスポンサー収入がなかった場合、やはり-6億円程度の営業赤字が想定されます。

あると作成

アトラエの業績への影響

アトラエは営業利益が2023/6期実績で9.5億円、2024/6期予想が14億円と、10億円前後の規模の会社です。
仮にアルティーリの-6億円~-8億円の赤字がなければ、15億円~20億円程度の営業利益が出ることになりますので、アルティーリの赤字の影響は決して無視できる規模ではありません
ましてや主力事業へのシナジーがあまりないなかで、この状況はアトラエの株主価値を毀損していると言わざるを得ない状況かと思います。

参考情報

なお、アトラエは9月決算ですが、アルティーリは6月決算になっています。アトラエはアルティーリの決算を3か月ズレで取り込んでいることにご注意ください。
また、余談ですが、プロバスケットボールチームの琉球ゴールデンキングスは売上24億円とB1リーグ平均14億円を大きくアウトパフォームしています。この理由は強く、地域密着で、バスケ鑑賞特化の沖縄アリーナで、チケット収入がすごいからだと言われています(詳細は参考資料をご覧ください)。

2024年5月にアルティーリの売却を発表

アトラエは今年5月にアルティーリ株式の売却を発表しました。

連結子会社の異動(株式譲渡)及び個別決算における特別損失の計上に関するお知らせより

株式の86%を5億円で売却し、売却後の持分は14%となり、非連結化となります。

売却先はアトラエ社長&アルティーリ社長の新居さん(いわゆる関連当事者取引ですね)ほか、メルカリ会長で鹿島アントラーズ社長の小泉さん、マイベストCEO吉川さんらです。

連結子会社の異動(株式譲渡)及び個別決算における特別損失の計上に関するお知らせより

所感~状況を考えるとやむを得ないが、またトライしてほしい

高値で売却か=新居さんが責任を取った?

株式の86%を5億円で売却ということは、評価額6億円ということになります。
赤字企業かつプロバスケットボールチームのバリュエーションはよくわからないのですが、過去の事例を調べると、B1リーグで黒字の滋賀レイクスターズをマイネットが2023年に評価額約2億円(マイネット有報よりあると推定)で売却しているため、B2リーグで赤字のチームの評価額としてはかなり高めのように感じました。

アトラエがやや割高な金額で売却する、つまり、やや割高な金額で新居さんらが買い取るということは、新居さんがこれまでの赤字の責任をある程度取った形ではないかと思われます。

アトラエとしては高い金額で売却できてよかったという話になります。

株主価値と社会貢献の狭間で

同社はオーナー企業ではなく上場企業であり多くの株主の期待に応える必要があること、また、アルティーリと既存事業のシナジーはあまりなくアトラエの利益を大きく押し下げており、株主価値を大きく毀損しているということで、今回売却という判断に至ったのでしょう。

実際、株価は5/13の売却発表から6/20現在にかけて、436円から757円と倍近くまで上昇しています。
アトラエ株主や市場はアルティーリからの撤退を求めていたと言わざるをえません。

Googleファイナンスより

個人的にはアトラエの社会貢献への考えは素晴らしいものだと考えています。
もう少し小さい規模で、あるいは会社規模が大きくなってから、再度このような取り組みにぜひトライしてほしいなと思います。

おまけ:アトラエIRの方へ

決算説明会書き起こしのQ&Aで、持分が14%に下がった後は「営業利益段階では100%アルティーリの損失は含まない」「当期純利益段階では14%分の損失を吸収します」とありますが、非連結・非持分法適用になり、今後投資有価証券を減損・売却しない限り益も損も出てこないかと思われますが、いかがでしょうか。

2024年9月期 第2四半期決算説明会(書き起こし)より

参考

・アトラエ 各種IR資料
https://atrae.co.jp/ir/
・IT業界からスポーツ界へ B3・アルティーリ創設の決意 - 新居 佳英 |ONGROUND
https://onground.doda.jp/magazine/2JwuPC6Q
・なぜ、沖縄のプロバスケチームは"日本一"観客を集められるのか(ITmedia ビジネスオンライン) - goo ニュース
https://news.goo.ne.jp/article/itmedia_business/trend/itmedia_business-20240424_026.html
・マイネット 有価証券報告書
https://pdf.irpocket.com/C3928/DZdo/Nlpw/uXIs.pdf
https://pdf.irpocket.com/C3928/PTSX/X9Hz/uPXt.pdf

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なお、本記事は投資判断を提供するものではありません。また、誤りが含まれている可能性があります。

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