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かたい光とやわらかい光の構造について

こんにちは。
noteを始めてから、割と「自分の写真みてみて」な記事ばかり書いてきたので、たまにはきちんと誰かの役に立つかもしれない事を書かなくてはと思い立ち筆を執りました。

今回は写真をやっている方には釈迦に説法だと思うのですが、自然光で撮影をしていてもストロボを使っていてもよく言われる「光が硬い」とか「やわらかい光」について書きたいと思います。

というのも僕、仕事で舞台の照明をデザインしていまして、100台以上のスポットライトを使っていろいろとあれこれしている歴がそこそこあるため、光の硬さ柔らかさという現象について、もしかしたら他の人よりも知っている事が多少あるのではないか、という気がしています。

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(こんなんとか、こんなんとか作ってます)
とはいえ今回書くのは基礎の基礎みたいな部分ですので、大したことではないのですが……。

写真の本やネットの情報を見てみますと、こういうのが柔らかい光だよ、こうやって作るんだよ、という例はいくらでも読めるのですが、では「なぜ」柔らかい光で出来るのか、という理屈について説明されているものはあまりありませんでした。
感覚でわかるので必要ないのだと思います。

でも、理屈がわかっていたら何かと応用が利くと思いませんか?

光の質とは

硬い光と表される光はこんな感じで

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柔らかい光と表される光はこんな感じ

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これは感覚で大体みなさん同意してもらえるのではないかと思います。

被写体は本当は誰かにモデルになってもらう予定だったのですが、このご時世あんまり出歩いたりスタジオの密閉空間に行かない方が良いだろう、という事で自宅の六畳の部屋で一人で例を撮りました。

光の硬い柔らかいは「光の質」なんて言葉で言い表されたりしています。
気にするべきは光り方でもあるし確かに「光の質」と表現するのはわかりやすくて良いと思いますが、実際にはあれは、影の質なのだと僕は思っています。
→ここ読み飛ばしてくれて大丈夫です→(光の質というのがあるとしたら演色性とか偏光とかの事じゃないかなというのが持論です。光の正体が光子という量子でその振動を人間の目やカメラが捉えているだけならば光自体は性質で表されるものではない。ただ影については光みたいに物理的な存在ではなく陰っているという”状態"の事である。状態は変化するため硬い柔らかいなどの性質として言い表すことができるはず……)

とにかく、
硬いのも柔らかいのも実際には影の状態です。

光ってる所と陰ってるところの境目のコントラスト(落差)が大きいと光が硬いと言い表され、その逆でコントラストが小さいと光が柔らかいと言い表される。境目とははまさに影の状態の事です。
ただ、一般的には”光が柔らかい”と呼称されるので、混乱しないように以下は僕も柔らかい光と書いていきます。

最も光が柔らかい状態は空間にまんべんなく光があり、ほとんど影のない状態がそうだと言えます。
曇り空の日中なんかはそうですね。
足元にほんの少ししか影が出来ません。

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柔らかい光のつくり方

ここまでの話は、みなさん「今更そんな事言われるまでもない」って話だと思います(僕が勝手に柔らかいのは影だと言っていること以外は)。何が硬い光か柔らかい光かなんて定義しなくても見ていたらわかります。

写真で硬いor柔らかい光を気にする撮影と言えば、ブツ撮りとポートレートがよくあると思います。
柔らかい光を作るのに、よくストロボの前にソフトボックスをつけたり、窓からの光を薄いカーテンで遮ったりする方法がありますね。

ソフトボックスを使った例

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これが光の前になにも置かずそのまま直射を当てると

ソフトボックスを使わない例

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こんな感じで光と影の明暗差が強くなります。
また、これもよく本に書いてあることなのですが、ソフトボックスを被写体の近くに置けば置くほど光が柔らかくなります。

ソフトボックスを近くに置いた例

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さらにソフトボックスの中心ではなくの端の方を使って被写体に当てると、もう少し光が柔らかくなるというテクニックもあるようです。

ソフトボックスの位置をずらした例

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このソフトボックスを近づける、端を使う、というテクニックはストロボの本によくそう書いてありますし実際に柔らかくなるのですが、その理屈まで書いている本を僕は読んだことがありません。写真学校とかだとさすがにやっているのかな?(行っていないのでわからないけど)。
あと他にも、同じ位置から当ててもソフトボックスが大きくなるほど影が柔らかくなる、という現象もあります。今回はソフトボックスの大きさを変えられなかったので例は用意してありませんが、確かに大きいものほど影が柔らかくなります。

ソフトボックスだけで言うと、ただ使う、近づける、端を使う、大きくする、という柔らかく仕方があります。
その他にもアンブレラを使ったり、レフ板やカポックをを使ったり、壁にバウンスさせたり、ストロボの光を柔らかくする方法は沢山あります。

(素敵なモデルさんが素敵に写っている例だともっとみなさん興味持ってくれたかもしれないのに、ウィスキーの入れ物と脚立ですみません…)

なぜ柔らかい影が出来るのか

この中で今回はソフトボックスを例にとって説明します。
なぜソフトボックスを前に付けると柔らかい影になるのかというと、
ソフトボックスが発光面を増やし光を拡散させているからです。

光が拡散するとどうなるのかというと、光の進む方向が変わり、
これまで影になっていた部分を打ち消す光が出来ます。

光は光源から、基本的に放射状に広がりながら進んでいきます。
↓光が拡散しないイメージ図

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しかし光を拡散させると、放射状の進行方向を変えることが出来ます。
光が拡散して影を打ち消す光が出来るイメージ図

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こういうことです。
光の正体は一体何なのかというのは、僕もあまり分かっていないのですが、光子というすごく小さな素粒子だか量子なのだそうです。
ストロボから発せられる光子の量は小さくそして数えらきれないほどの量になるのでしょうが、わかりやすいようにここではBB弾くらいの大きさで考えてみる事にします。
光子は光源から各方向に出てまっすぐ飛ぶのですが、途中で何かに当たると進路を変えます。

光子が飛ぶけど一部進路を変えているイメージ図

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絵にあるように、進路を変えない光子もあります。というか、基本的には光はまっすぐ飛ぼうとするはずです。ソフトボックスを付けても場合によっては光に芯がある、というのはこういう事です。拡散させても、進行方向真っすぐの光が一番多くなります。
この進路の変わり方や、どれだけの量が変わらず真っすぐ飛ぶのかは、ソフトボックスの全面の布(何か名前があるのだろうけど)の素材で変わってくるのだと思います。
ソフトボックスの布に当たると、光は拡散します。

そしてソフトボックスにはそれぞれ一定の大きさの「面」があり、その面全体でこの拡散が起こっています。

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さらにソフトボックスの中で乱反射すればするほど、拡散する時の角度は様々になります。そして芯が減ります。
下の絵は例えばで2方向に出た光の軌跡のイメージです。

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この様に、ソフトボックスの表の布の面を起点に、ソフトボックスがなかった状態よりも沢山の方向に光が散らばります。

そしてこの拡散して斜めになった光が、直進する光で出来た影を打ち消すのです。

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こうなる。

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当然、ソフトボックスを付けると光があちこちに飛ぶので一か所に当たる光の量は少なくなります。そこはカメラとストロボの設定で補いましょう。

これが光が柔らかくなる理屈です。
柔らかくなっているのは実は光ではなく影だ、とお分かりいただけたのではないでしょうか。

なぜ近づけると光は柔らかくなるのか

ストロボを裸の状態で顔に近づけても光は柔らかくなりません。
むしろ硬くなります。

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ストロボの発光面に対してとても小さな被写体であれば近づけて光が柔らかくなることもあるかと思います。(ガラス面で多少拡散もしているはずですし)
しかし対人物ほどの大きさでは影を打ち消す光が現れないので、ほとんど意味がないでしょう。ただロスが少ない分、当たる光の量は多くなります。

ソフトボックスにしても、近づければ近づけるほど光が強くなるし、光の芯も近くなるため、光の質は硬くなりそうなイメージなのですが、
"なぜか柔らかくなる"と本では書かれています。
柔らかくなる理屈は先ほどと同じです。
拡散した光が影を打ち消すからなのですが、ソフトボックスを近づけると、拡散された光が被写体のに当たる量が増えるからです。

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近づけば近づくほど、影に回り込んでいく拡散光が多くなるのがイメージできるかと思います。
光は柔らかくなるし、同じ光量で当てようと思っても出力が少なくて済むのでとてもよいですね。

ソフトボックスが大きくなればなるほど光が柔らかくなるのも同じ理屈で、拡散光が被写体の影に届く量が増えるからです。ストロボの出力さえあれば被写体に近くて大きなソフトボックスは柔らかい影を作るのに最適な光となります。

もうこれ以上書くことがないくらい説明してしまいました。
拡散されて出来た斜めの光が影を打ち消すから影が柔らかくなる。
というだけの話なのです。

ソフトボックスの端を使うと柔らかくなる理屈

最後に一応このテクニックについても書いておきます。
しかしこれもは、もうお分かりだと思います。
先程と理屈は同じです。

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斜めの拡散光が沢山影を消すからです。
さらに、こうして光の芯を外すことで、被写体に当たる光と拡散して影を打ち消す光のコントラストが減り、より影が柔らかくなるのだと思われます。

最後に

以上、光だか影だかが柔らかくなる理屈を説明しました。
これは理屈なので、実際のソフトボックスの素材や、光の強さ、ちょっとした角度で結果は変わってきます。
またソフトボックスの前にグリッドをつけると光が少し硬くなるのは、斜めに出ている拡散光をグリッドが吸収しているからです。あれは特殊な事をしているわけでもなんでもないので、同じ間隔と太さでちゃんと黒いものであれば、別に手作りでも大体同じ効果が出るはずです。
(グリッドの金額が高いやつはその値段の分の価値あるのかなって思っちゃうけどきっと何かあるんだろう、光の吸収率とか計算されているに違いないと思いたい…)

単純な理屈を長々と書いてきました。

しかしイメージとしてこれを知っていると、ストロボの調整の時の「もう少しこうしてみよう」の精度が上がってくるのではないでしょうか?
自分の完璧なセッティングを持っている方には必要ないかもしれませんが、僕みたいにまだいろいろとストロボを試している人の一助になれば嬉しいです。

他にも何故アンブレラのディープの方が光が拡散するのかとか、どうしてオパライトが適度に光が硬いのとか、壁バウンスとか、そもそもストロボも面光源だとか、色々書きたかったのですが、図解を作るのが大変すぎてこれ以上は無理でした……。
すべて今回のことの応用です。
そのうち「太陽は面光源だ」という記事を書きたいと思っています。

ここまで偉そうに書いてきましたが、僕は写真のプロではないですし、光学者でもないので、すべてが正確ではないと思います。何か間違っていたら、教えていただけましたら僕も知識が広がって嬉しいです。よろしくお願いいたします。

追記・沢山の方に見ていただけてとても嬉しいです。特に間違ってるよという指摘もないし概ねこういう事で理屈は合っているのかと思います。

また、この記事を参考にして何か(YouTubeとか Tweetとかブログとか)を制作される時は、全然構わないのですが、クレジットを入れてくれたりリンクを貼ってたりしてくれたら嬉しいなぁ〜。
フリー音源を作られている方と同じ様な考え方でおります。(こんな下手な絵に対してないと思うけど画像や、写真の転載はだめです)

これはみんなの助けになればいいなという記事なので、全然参照にしてください!

よろしくお願いいたします。

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120cmのオクタのソフトボックスを左側至近距離に置いて撮影した時の写真。ウィスキーの箱よりも効果がわかりやすい。



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描いたけど使わなかった絵
ソフトボックスが離れると光が硬くなっていくのと光の量が落ちていく図
右は拡散ではなく集光をすると光の量があまり落ちないの図。
この図で逆2乗の法則の事もやろうとしたけど大変だったので書きませんでした。


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ちょっと続きみたいな余談はこちら。


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