見出し画像

2020年3月、三鷹駅で気づいてしまった話


僕が気づいてしまった時の話と、その近辺で撮影した写真です。

画像1

3/17か18日のことでした。
お仕事で舞台の稽古を見てきた帰りのことです。
僕は舞台照明の仕事をしているのですが、先ほど稽古を見てきたお芝居で作る光は、なるべくリアルな光にしないと成立しないなと思いながら、帰り道の光を眺めて帰っていました。
このお芝居で一番大切な最終場、ラストシーンは、丁度今の帰りの時間と同じくらいの、日没の90分ほど前の時間の話。
そういう目で帰り道の景色を眺めていると、陽はずいぶんと傾き、道や建物には長い影が出来ていました。

画像2

画像3

舞台上に自分で作るつもりでシミュレーションしながら、現実の光と影を見ていたからでしょうか。目の前の光景に、僕は違和感を感じました。

画像4

そして影のぼやけ方が違うのはなぜ?
と思いついてしまいました。

時間は夕方、とはいえまだ街灯は灯っていません。
光源は太陽ひとつだけです。
生まれてからここまでずっと、何も疑問に思わずに生きてきたけれど、太陽からまっすぐ放射状に延びてきているはずの光が、シャープだったりぼやけていたりするのは、何か、おかしい。

これはなんだ。なぜ影はぼやけるんだろう?
影には影力(かげりょく)があって、伸びるほどにそれが薄くなる?
……はぁ?

いや、ずっと見て来ていて、不自然だとはこれまで思ってこなかったし、これが自然なのはわかる。理解している。
けれど、どうしてどういう理屈でこんな事が起こるのだろうか?

僕は突然わからなくなってしまいました。

この現象の正体は何なのだ。

画像5

もしかしたら建物や大気の反射が影を打ち消しているのかもしれない。
でも周りに建物が少ない場所でもこうなるし、レイリー散乱によって分離された大気の反射(空の青色)は光と影の境目だけではなく影全体に光を投げかけているため、この原因にはあたらないはず云々……
僕は帰り道に舞台のことをそっちのけで、自分の靴をぼやけた影に近づけてみたり、壁の影をさらに手で隠してみたり、光と影の境目を探しては、この現象の解明にのめりこんでいました。
はたから見たら不審な動きだったと思います。

そしてまさに上の写真、三鷹駅のホームでのことです。
ホームの屋根の影はぼやけていて、柱の影はそれに比べてずいぶんとシャープになっていました。
僕は屋根と柱の、それぞれの光と影の境目に顔がかかる位置に立ち、影側と光側に首を振りながら、薄目で太陽を見てみました。

そしてわかりました。

屋根とホームの床とは3Mほどの距離があるため、その間の空間屋根で隠れていない太陽の部分からの光が斜めに回り込み、影のエッジをぼやかしているのでした。
そして柱はホームの床から伸びているため、床とは距離がほとんどない柱の根本の部分の影には太陽の光が斜めに入り込む余地がなくシャープな影になり、そしてより床と離れた(つまり高いところにある)柱の部分の影は、空間に斜めに入り込んだ太陽の光によって少しずつ影がぼやけていくのです。

画像6

ああ。神様僕はきづいてしまった。

太陽は面光源なんだと。

これは
"被写体がソフトボックス(面光源)に近づくほど影が柔らかくなる現象"
とまったく同じなんだと。

僕はニュートンが万有引力を発見した時や、コペルニクスが地球が太陽の周りを回っていることを発見した時もかくやという気持ちで電車を一本逃しました。

画像7

画像8

画像9

画像10

太陽は面光源である、という目で見てみると、日常の光の捉え方の解像度が少し上がった気がしてきます。
電線は地面や壁と距離がるし、細いので、両面から太陽光が回り込み影は消え入りそうなほど薄くなる事があります。そして地面から近いところのものが地面に投げかける影ははっきりしています。
これで僕もついに、地面に落ちている影の境目を見るだけで、その影を作っているものが地面からどのくらい離れているのかわかるようになったのかもしれません。ぜんぜんいらない能力です。

画像11

画像12

画像13

ぼんやり美しい木洩れ日も、脚立に登って葉の真下に漏れる光に手を差し込んでみれば、そこに落ちた影はきっとぼんやりとはしていない。

画像14

画像15

画像16

画像17

美しい影、美しい光、美しい透過光、美しい反射光。
美しい影の濃淡。
what a wonderful world(想像出来る限りの良い発音で)。

画像18

画像19

一通り太陽の光と影を見つめて落ち着いた後、
僕は当初のとおり舞台の照明のプランニングに入りました。

先にも書いたように、ラストシーンは日没の90分ほど前という指定。場所は実在の場所で東西南北もわかっており、日時的には客席方向に太陽が沈んで行っているはずです。
さらに設定では客席側に作りかけの鉄塔があるため、本来であれば西日はその鉄塔の影を舞台になっているエリアに投げかけているのです。僕はその鉄塔の影を実際に舞台上に再現してみようと思いました。

仕込み当日、劇場でセット等と共に照明を設営し、僕はその鉄塔の影を作り舞台上にエッジをぼかした状態で投影してみました。

しかし、なにかがおかしい。
何かが不自然です。

試しにエッジをシャープにしてみました。

とても自然に見えます。
鉄塔は距離があり、鉄骨はそこまで太くないので、その影はやはり太陽光に回り込まれぼやけるはずです。それに実際に現地でもそうなっています。
しかし舞台では不自然。
どうしてでしょうか。もちろん僕の力不足というのはあるでしょう。しかし困ったところで現場で突然表現力は大幅にアップなどしません。

僕こう判断しました。
舞台照明の表現として「リアルだとこうなるはず」よりも、舞台でより違和感なく見れる方を優先する。これは写実ではなく表現だから
ということで、せっかくの発見でしたが、僕はそれを活かすことは出来ず仕舞でした。きっと、もっと写実方向で成立する表現方法はあったはずなので、その力不足を痛感します。

しかし、良いように考えれば、次の研究課題が出来ました。

画像20

画像21

画像22

そうして舞台は進み、
その間に土日の外出自粛要請が出て、
桜が咲き雪が降り、東京都の緊急事態宣言が発令されました。

画像23

画像24

このお芝居が緊急事態宣言前の最後のお仕事になりました。
それ以降まだ、この研究課題について実験することは出来ていません。

画像25

画像26

撮影はすべてLEICA M9 ,Voigtländer ULTORON 28mm

あー、写真も撮りに行きたいなあ。

おわり
2020年5月16日

(♡を押したりマガジン登録していただけると励みになります!)
光が斜めから回り込むとかそういうやつはで解説してます。
ご興味あればぜひ。

光について考察した他の記事です↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?