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スーダンで腕立て伏せをした

エジプトからスーダンに行ったときの話です。約30年前のことなので、今とは事情が異なっていることが多いと思いますが。

当時スーダンに行くには、スーダンの査証と、黄熱病とコレラの予防接種証明書が必要であった。

スーダンの査証はエジプトのカイロで取得した。そして予防接種証明書を取得すべく、カイロにあるクリニックに行き、まずは黄熱病の予防接種をした。

「コレラの予防接種もお願いします」
「何言ってんだ。3週間あけないと次の予防接種はできないぞ」
「えっ!?」

無知な私はそんなことも知らなかったのだ。3週間も待つのはいやだ、一つぐらい書類がなくてもまあなんとかなるだろう。そんないいかげんな準備で、カイロからエジプト南部の街、アスワンまでとりあえず行った。

アスワンからスーダンのワジファルファまで、ナイル川を遡るフェリーが運行している。1泊2日の船旅で、寝ている間にエジプトとスーダンの国境を越える船旅だ。

アスワンで船に乗船する際に、船の中でスーダンの入国審査がある。入国審査官に、スーダン査証取得済みのパスポートを提出する。ガタイのいい、髪の薄いおじさん審査官は、私のパスポートにパラパラと目を通し、そして予防接種証明書を出すように言った。私は黄熱病の予防接種証明書(イエローカード)を渡した。

「コレラの証明書は?」
「ない」
「ない? ないと入国を許可することはできないぞ」

やはりこうなるか。でもフェリーのチケットは購入済みであるし、3週間待つのもいやだし、どうしてもスーダンに行きたい。ダメで元々、引き下がらないぞと決意した私は、審査官の前で超絶スピードの腕立て伏せをした。そして叫んだ。

「おれはタフなんだ。コレラになんか罹らない。ノーコレラ!」

そして腹筋もして、もう一度「ノーコレラ!」と言った。

審査官のおじさんは、笑ってOK、OKとうなずきながら、入国スタンプを押してくれた。

シャレのわかるおじさんでよかった。今はこんなにゆるくはないだろうけど。ちなみにこの入国管理室は、船内の小さな個室で、中にいたのは私とおじさんの2人だけです。

この1泊2日の国境越えの船旅は、なかなか印象深いものであった。それはまた、別の記事で書きたいと思う。

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