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『くるりのえいが』の舞台、伊豆・伊東に遊びに行った

ツイッターでもポストしたけど、かなり充実した旅となったので記録をしたためようと思います。

計画

GWの翌週の月火に有休を取得したので、『くるりのえいが』、ひいてはくるりのアルバム『感覚は道標』のレコーディングの地、伊豆・伊東への旅を決行することにした。当初は宿泊を検討していたのだけれど、大室山近くに見つけたお手頃なペンションが月曜定休だったのと、天候によっては当日に変更中止判断もできる日帰り旅行の方が気が楽だよなと考え直した。
交通ルートを検索すると、私の最寄り駅から始発に乗って伊東駅に着けばバスで大室山リフトに営業開始前に着けることが分かり、そこをスタート地点として徒歩やバスなどで伊豆シャボテン動物公園、伊豆スタジオ、いがいが根を網羅出来るようなので日帰りに決めた。伊豆シャボテン動物公園はくるりと特に関係はないが、私は出先に動物園があったら隙を見て行ってしまうタイプの人間なので大室山のすぐ隣にあるというなら逃す手はない。加えて少し前ツイッターで熱川バナナワニ園の「大福ワニ」というのがバズっており、

それが信じられないほどに可愛いのでいつか絶対食べに行きたいと思っていたし、奇しくもGWのタイミングで園内限定の大福ワニガチャガチャが登場したというのだから居ても立ってもいられなかった。大室山やシャボテン公園の(一応)最寄り駅である「伊豆高原駅」から、「伊豆熱川駅」は伊豆急行線で3つ隣、乗車時間は十数分、バナナワニ園はすぐ駅前ということでこれも予定に組み込んだ。

最終的に旅程はこうなった。
①伊東駅からバスに乗り大室山
②すぐ隣の伊豆シャボテン動物公園
③バスに乗り伊豆高原駅に向かい伊豆急で伊豆熱川駅に移動して熱川バナナワニ園
④また伊豆急で伊豆高原駅に戻り30分くらい歩いて伊豆スタジオ(こっちの方面に出るバスがないみたいなので)
⑤そこからほど近いいがいが根で夕日でも眺め
⑥時間に余裕があれば伊豆高原駅に戻り立ち寄り温泉 伊豆高原の湯で疲れを癒しビールを飲んで帰る

ちなみにタイムリミット(終電)は21時頃である。次の日は朝から仕事なので乗れなかったらアウトだ。
ただ私は基本的に旅慣れていないのと、大体何かしらのミスやドジを踏むことが想定されるのでこれは完全に理想形。当初の目的なので当然だが①大室山 ④伊豆スタジオ ⑤いがいが根 だけは行くと決め、あとは臨機応変にほどほどにすることに決めた。

当日

寝坊することなくきっちり目覚め意気揚々と始発電車に乗る。
道中は前日早く寝ないといけなかったので聴けなかったフラレディのタイムフリーと、もちろんくるりをイヤホンから流して移動。熱海駅から出ている伊東線に乗り継いだらボックス席だったのでびっくりした。座ったらなんか酒臭い気がして、足元を見たら角ハイボールの缶がいた。

ボックス席って感じだ

伊東駅に着いて大室山リフトまで行ってくれる伊豆シャボテン動物公園行きのバスに乗る。このバスが乗車時間35分ほどなのだけれど料金が880円もした。なんかバスってずっと200円台で乗れるものってイメージだったんだけど、ひょっとして30分超えるととんでもなく割増しになるシステムなんだろうか。ド平日のそんなバスに乗るのなんて私しかいないのだろうかと思っていたが、どうも地元の高校を経由するバスだったらしく高校生でパンパンだった。
途中の高校前で9割の乗客を吐き出して身軽になったバスはグネグネと標高の高いところへ向かっていく。以前この伊豆旅行を計画したときこの辺りをレンタサイクルで爆走しようとしていた私はバカだ。勾配のキツさだけでなく、なんというか全体的に道が「車道」であり国道から外れれば道は平気で狭くなる。ただでさえコントロールが困難な急勾配の狭い道路をチャリがウロウロしていたら普通に危険だ。当時そんな無謀な画策を止めて下さったフォロワーさんには感謝しかない。

大室山に着いた

バスからちらりと見えた5月の大室山は野焼きからすっかり緑を取り戻して綺麗な芝生に覆われていた。間近でも遠目でも、視界に入ると「CG?」と思ってしまう不思議な山で、なんだか感動した。

リフトはまだ営業開始前で、道を挟んで反対側がシャボテン動物公園の入場口になるのだが、そちらも営業開始前のため付近には私と清掃員のスタッフさんしかいなかった。そしてすでにちょっと寒かった。リフトでさくっと登れてお鉢まわりも20~30分程度の山なんだよなと嘗めていたが、大室山はリフト乗り場の時点で標高400mくらいあるらしい。すでに私は山の中にいる状態だったことに今さら気付いた。しかし私は生粋の寒がらない屋さんなので大丈夫。短パンのまま威風堂々ウロウロしていたら伊豆高原駅からのバスが来て、二組ほど観光客を下ろして行った。良かった、営業前から大室山リフト待ちするのは私だけじゃなかったんだ…! とちょっと安心したけど近づいたら日本語喋ってなかった。富士山が見えることに気付いて「Oh my God!」ぐらいの勢いで指さして興奮してる時点で「おや?」とは思っていたが。

リフトは改めて見ると結構怖かった。

スタッフさんのテキパキとした誘導に合わせてリフトに一人乗り込む。前に乗っている年配のご夫妻がウフフ…と穏やかに乗っているのに対して、私は時折風か何かでごゆごゆ揺れるリフトと、足をぷらつかせたまま空に向かってぐんぐん運ばれる状態にそこそこビビっていた。なんというかすごく自分の無力さを感じた。例えばこの先が巨大な化け物の口であったり無数に広がる剣山であったり比喩でなくマジの天国だったりしても私はもう自力で引き返すことが出来ないのだと思ったら胸がひんやりしてずっと口が半開きだった。
くるりのポップアップショップの展示に岸田さんと佐藤さんの大室山リフトの記念写真があったのを思い出して、どこで撮るのだろうときょろきょろしていたら、体感8合目あたりになんかちょっとゴキゲンな雰囲気を醸している機械がこっちを向いていて、スピーカーから「良かったら! こっち向いて下さい、写真撮ります!」と声が聴こえてきた。咄嗟にピースをするとストロボが光り「あーっポーズ完璧です、ありがとうございます!」と返ってきてリフトの孤独感が少しだけ和らいだ。
頂上でリフトを降りるとすぐにスタッフさんが駆け込んできて「お写真出来ております! ご覧になりますか!」と声をかけてくれた。「見ます!」と答えると「お姉さん、めっちゃ楽しそうでしたね。良い写真ですよー」と言ってくれて嬉し恥ずかしだったのだが、写真を見た私の頭に浮かんだ初発の感想は「私の顔デカくて丸すぎる」というものだった。「顔面が真ん中に集まっている」「収縮している」「足も太くて短すぎる」だった。ダイエット頑張ろうな。

ゴキゲンである。顔面が真ん中に集まっているのに。

写真を購入したあとは売店でみたらし団子を買い、お鉢まわりを開始した。営業開始とほぼ同時にリフトに乗ったので頂上にはまだ数組しか登って来ておらず、ゆっくり売店や看板付近で過ごされていたので散策路はまだほぼ無人。出来立てのみたらし団子を食べながら歩き始めたら風で髪があおられて何度もみたらしにつきそうになって髪を抑えたり体の向きを何度も変えたりとなんかひとりでジタバタしていた。ただ景色は本当に凄かった。

お鉢の中に降りることも可能。後ろの景色もすごい。

隔てるものも遮るものもなく自分から見える視界の7割が空の状態になるのでこれはなるほど「空中散歩」だなと思った。道が昇り坂になれば空を昇ってるし、道が曲がれば空を曲がっているし、下り坂になれば空に向かって降りていく。景色はとにかくすべてが遠くて大きい。標高580mでこれなのだから富士山なんかとんでもないんだろうなと思うが、大室山の形は富士山に似ているのでこれで登ったことにしてもいいような気がする。

富士山を見るお地蔵さまたち

人も少なく写真も散歩ものんびり出来たのはとても良かったなと思う。ひとまずお鉢を一周出来たし人もちょっと増えてきたし…と早々にリフトを降りてしまったのだが、降りている間も下からひっきりなしにカップルやら外国人観光客やらが登って来ていて、あんなにのんびり歩けたのはタイミングが良かった。

登りより下りの方がちょっと楽しかった派

連休や土日の日中だったら多分こうはいかないと思う。平日の朝、営業開始前待機、オススメです。

伊豆シャボテン動物公園

多分駐車場などがあるのであろうメインゲートではなく、「歩行者ゲート」というまるで裏口みたいなかなりひっそりとした入口から入ると、ほんの数歩ですぐミーアキャットが柵もなく直で現れて声が出た。

こんな感じでそこそこの敷地の中に動物がすぐいる。しかもかなり近くに。伊豆シャボテン動物公園の看板のひとりであろうカピバラも、この歩行者ゲート付近のふれあい広場から敷地の反対側の端にある名物カピバラ温泉に至るまで園内の色んな箇所にいて最高。

ケツたち

マーラもいる。

マーラも本当にそこら中にいる。こいつら大人しくてそこそこの規模の動物公園のふれあい広場に高確率でいるイメージなんだけど、基本的に撫でさせてはくれないのだよな。そっと近寄っても2、3歩トッと離れて背中を向けられる。私はこいつらを「よそよそしい生き物」と読んでいる。可愛い。

動物たちは総じてみな可愛いのだが、このシャボテン動物公園において私には明確な目的があった。ミナミコアリクイだ。SNSで飼育員さんに抱っこされて部屋に戻されたり立ち上がって威嚇したりとどの動物にも似てない独特なシルエットで愛らしい姿を見せてくれる彼らに絶対に会いに行きたいと思っていた。
が、実は伊豆シャボテン動物公園のミナミコアリクイ、サクッと見られるところには展示されていないことをこの日初めて知った。

上記マップ画像の右側あたりにある高原竜という鳥みたいなオブジェの「温室入口」から狭く薄暗い地下道を通り、4つのシャボテン温室を通過しないとミナミコアリクイに辿り着けないのだ。ショートカット手段はない。その間にもナマケモノやフェネックやフクロウなどのこちらを強く引き留める魅力的な動物たちがいる。

名に恥じぬナマケモノぶり
完璧に案内人
正面に回り込むと目を逸らされてしまった
寝姿が「ぺちゃり」で可愛い

ただ「本当にこの道の先にミナミコアリクイはいるのか…!?」という焦りがよぎり、サボテン温室もほとんど早歩きで進んでしまったときには少し胸が痛んだ。
そして軽く汗をかきつつミナミコアリクイに辿り着いた…が…。

ぎちぎちに寝ている!! 暗い部屋で!!!!
SNSで見かける伊豆シャボテン動物公園のミナミコアリクイは外の展示に出て快活な姿を見せてくれていたが、夜行性である彼らにとって恐らく午前中はまだ早すぎてお休み中なのだ。

薄暗い隅にいるミナミコアリクイベイビーを目を凝らして覗く。写真はもう反射がひどすぎて何が何だか分からない。
仕方ない。これが動物たちに可能な限りストレスをかけず出来る限り自然に近い状態で飼育している結果なのだ。一度ここを出てしまえばまたここに来るのに薄暗い地下道と4つの温室を通らなければいけないことを考えるとずっとここに居座ってやろうかとも考えたが、それこそ彼らのストレスになるだろうし私も朝から団子しか食べてないので諦めて退散することにした。今度は午後に来てみるね。

中身がいない外の展示

そのあとは森のどうぶつレストランへ。スタッフさんが案内のときに「カピバラ(のぬいぐるみ)と相席でよろしいですか?」と笑顔で声をかけてくれる。良いに決まっている。私はコンセプトカフェにおひとり様で来たときぬいぐるみに相席してもらうことがずっと夢だったのだ。過去にひつじのショーンカフェに2度ひとりで行ったことがあるが、空席で暇そうにしているぬいぐるみが店内に沢山いるのに相席させてもらったことも連れてきてもらったことも一度もなかったし、南町田クランベリーパークに至っては最初にショーンが描かれたコースターが出てきたのにホットドリンクを頼んだら取り上げられたトラウマまである。オタクはコラボカフェのコースター使わんのよ。未使用で持ち帰るのよ。ホットドリンク頼んだからって「使わんのね」って取り上げないで!!!

そんな悪夢を癒してくれるでっかいでっかいカピバラさんに見守られながらあひるさんのオムライスを食べました。デミグラスソースの味が濃くて少々胃もたれしてしまった。

そのあとは信じられないほど可愛いレッサーパンダがリンゴを食べてるのを見せてもらったり

こんなに? ってくらいいるカピバラベイビーを眺めたり

子ヤギを撫でまわしたり

すごく近いペンギンを見たり

触れるくらい近い(触らないけど)

足早にではあるが一通り園内を回った。

ちなみにここでサボテンをお迎えできるというのは完全に盲点だった。販売専用の温室があり種類も豊富、小さくてとても可愛い。サボテン用の鉢も沢山あって一緒に購入できるのですごく魅力的だった。じっくり選ぶ時間も安全に持ち帰る準備もしていなかったので断念。いつかここでサボテンを買いたい。

あと大室山リフトの乗車券を提示すると伊豆シャボテン動物公園の入場料が割引されるらしい。私はアソビューで事前にチケットを購入していた(100円割引…渋すぎる)のでどのくらい割引してもらえるのかは分からなかった。

熱川バナナワニ園

伊豆シャボテン動物公園の歩行者ゲートを出てすぐのところから、本数はかなり限られているが伊東駅や伊豆高原駅行きのバスが出ている。外国人観光客に埋め尽くされほとんど日本語が聴こえてこないバス車内でイヤホンつけてくるりを流して完全に心を閉ざし軽く仮眠しながらバスに揺られる。
伊東高原駅に着いたら伊東線に乗り伊豆熱川駅へ。「黒船電車」という真っ黒な車体と船内のようなお洒落な内装、海を眺める横向きの座席などがあってとても素敵な電車だった。

伊豆熱川駅を降りて少し歩けば熱川バナナワニ園はすぐそこ!
ぼやっとした記憶で熱川バナナワニ園は「本園」と「分園」に別れていることと、大福ワニは「分園内のパーラーにある」ということだけは覚えていた。上の画像の建物の道を挟んで向かいに一回り小さな建物があり、「アイスのオブジェあるしなんかパーラーっぽいロゴだしきっとここが分園だな」と判断し入場料を払って入館した。

ワニ。ワニがいる。すごく。

ワニ、下から見るか横から見るか

順路に従ってワニを一回りするも、パーラーがどこか分からない。貰った案内の「分園」のマップを見るとここにはレッサーパンダもいるはずなのだが、隅から隅まで回ってみてもワニしかいない。断念して入場口に戻り、窓口でパーラーの場所を訊ねると、「パーラーは分園ですので、ここを出てマイクロバスに乗って分園に行ってください」と言われる。ここは、分園ではない…!? こんなこじんまりとした建物が本園とでも言うのか…!? と戸惑い、思わず「すみません、ではここは…?」と尋ねると「ここはワニ園です」と言われた。ここは、ワ、ワニ園…? 一体何を言っているんだ…。
ともかく職員さんの言うことには従っておけば良い。外に出ると思いっきりマイクロバスが待ち構えていたので乗り込む。バスは私一人を乗せて曲がりくねった坂を上り「分園」とやらに向かう。
結果としてはこういうことだった。

私は上記の地図で言うところの右下の「本園・ワニ園」を「分園」と勘違いしていたのだった。公式サイトのマップではこんなに整頓された図面をしているが実際の地図はこうである。

この距離感を同一施設と思えというのは初見殺しだな。
本園より少し小高い位置にある分園は果樹園メインといった感じで、ほぼ貸し切り状態の温室に入り、ぶりんぶりんに実った果実たちを「ちょっと…実りすぎじゃん…」と呆気に取られながら眺めた。

ようやくパーラーに辿り着き、コーヒーと大福ワニを注文。あんぐりとバナナを口にはめられて禰豆子みたいになってる(なってない)生大福ワニは最高にキュートで感激した。お目目がウインクバージョンなのもめちゃくちゃ可愛い。

バナナを外すと「んが…」と声が聴こえてきそうなほどだ。そしてゆっくりゆっくり口が重みで閉じていくさまもとても可愛かった。これは直接食べに来ないと見ることが出来ない姿だ。

んが…

ただこれをいざ食べるとなると胸が痛む。ひとしきり写真を撮り終えたあと、お目目を外させてもらってずぶりと木のフォークみたいな奴で押しつぶすようにぶつ斬りにする。そのうえ伊豆シャボテン動物公園で食べたオムライスの胃もたれがまだ治まってなかったので、悲壮は増した。でもちゃんと美味しかった。大福部分がちゃんとお餅の味がして嬉しかった。ここもまたもっとゆっくり行きたいなあ。

念願のガチャもやりました。最高。

ちなみにSNSで見かけるつま先立ちだったり列を成したりしてる水中のワニたちをガラス越しに見られるのは、私が最初に入ったこじんまりとした建物の「本園・ワニ園」の方になるようだ。あいにく写真はガラスの反射で自分が思いっきり映り込んでたので上げられないが、つま先立ちの小さめの可愛いワニ、そこにいた。道を挟んだ「本園・植物園」は行く時間がなかったが本当に植物園メインなんだろうし、分園は間違いなく果樹園メインだと思う。今後行きたいと思っている方の参考になれば。

伊豆スタジオ

熱川バナナワニ園を出て、伊豆熱川駅から伊豆線でまた伊豆高原駅に引き返す。伊豆高原駅から伊豆スタジオやいがいが根まで直接バスなどは出ていないようなので30分ほど歩くことになる。私は歩くのが好きなので30分くらいなら全然歩く。そしてこの道中こそ思いっきりイヤホンで『感覚は道標』をたっぷり聴きながら歩いた。平日なのもあって車さえたまにしか通らないし、歩いてる人も30分歩いて私以外では本当に数人しか見かけなかった。緑が豊かというか道挟んで反対側が全部森! みたいな道が続くので、前日が雨だったのもあり空気が山を歩いているみたいにしっとりとしていた。ああ、こんな空気の中で『感覚は道標』の楽曲たちは生まれたんだなとなんだか感慨深くなった。
そして地図アプリを見ながら伊豆スタジオを探していると、角からそれは突然姿を現した。

出、出ーーーーーーーーー!!!!!!!!!

『感覚は道標』は、『くるりのえいが』はここで生まれたんだ。
頭の中で余裕で『In Your Life』が自動再生される。
私はあの映画の終わり方が大好きなんだ。伊豆スタジオの外観の引きになって、『In Your Life』のイントロのギターが流れて、ドラムが入るタイミングで画面は暗転。そして黒味に白字で『くるりのえいが』とタイトルが浮かぶように出てくる。これ、私のオールタイムベスト映画の『God's Own Country』とクレジットの入り方が一緒なんですよ…。主人公たちが寄り添って玄関から「家」に入っていき、扉がバタン! と閉まる音と同時に画面が暗転して黒味に白字でタイトルが浮かぶ。この意図として監督は「あとは彼ら(主人公たち)に任せて、と観客に伝えるため」と仰っていて、つまり「彼らの生活はこれからも続く」「彼らは大丈夫」という余韻を残す意図があったそうなんですね。
『くるりのえいが』もそうじゃないですか。ああ、くるりってなんて素敵で頼もしいんだろうって、これからもくるりの作る音楽が楽しみで仕方がないなあって、あの映画観終わったあとに胸がいっぱいになるじゃないですか。そういうことなんですよ(?)、本当に監督と編集マンさんありがとう!!!!!

森さんが「水バッシャア」なったタイヤ
ミュージック

本当はもっと覗き見たかったが、周辺もひと気がなくとても閑静な雰囲気で、不審者や泥棒だと思われたらどうしようと思ってあまり長居は出来なかった。何より私のこの日の服装が

これである。思いっきりくるりのオタク。この厄介オタクが聖地巡礼だとか抜かしてズカズカ敷地に入ろうものなら伊豆スタジオ関係者や近隣の方に見つかってくるりファン、ひいてはくるりに汚名を着せてしまう可能性がある。許可を取ろうにも中に人がいるかも分からないし、いたとて「中、見せてもらえませんかね…? ヘヘッ…」なんてスタジオを使用するわけでもないのにそんなこと頼むなんて図々しいにもほどがある。入口を覗くと恐らく出入りの業者さんかな…? 作業服を着ている方が一人見えたのだが、姿が分からない程度に遠目で玄関の写真を撮らせて頂いて足早に退散した。でも多分不審者ではある。あれはあれで。

いがいが根

当初の計画でいがいが根は夕日を見に夕刻到着を目標にしていたが、なんだかんだ早め早めに移動をしていたら16時頃にはいがいが根駐車場に到着した。駐車場には一台だけバスがあったが、数人の外国人観光客の乗せてとっとと走り去っていった。そのあとはひと気、ゼロ。風の音と森のざわめきだけが聴こえて一気に心細くなった。

これがいがいが根に続く林道の入口なのだが、「私はこんなところを日没前後に通ろうとしていたのか…?」と自分の思いつきの危機感の無さにびっくりした。もし計画通り夕刻に来ていたらいがいが根は断念せざるを得なかっただろう。

ハイキングコースってほどでもないのだろうが、普通に石がごつごつしてて足場は悪いし石段も傾斜もある。そして林の中なので普通に暗い、明かりもあるわけがない。絶対に一人で夕方以降は入っちゃダメ。5分か10分くらいの道のりなんだけれども、こんな林道を歩くの自体かなり久々でビビってしまったのもあってちょっと息が上がった。すんませんほんと。サバイバル能力皆無の郊外住まいのクソ貧弱ナヨナヨ野郎で。

林を抜けるといがいが根は目の前。看板も立っていて分かりやすい。しかしこれ写真だと分かりづらいのだが意外と開けた場所ではないというか、凹凸の激しい岩肌で見えづらいだけでわりとすぐ谷底だったりするので結構迫力がある。もっと標高の高い大室山よりも「威圧感」があるのは間違いなくこっちだ。
ちなみに私が到着したとき実はこのいがいが根には先客がいて、年配のご夫婦が愛猫と思われる首輪とリードをつけた白い猫ちゃんを高く抱き上げて海を見せてあげていた。もちろん崖から距離をとった足場の安全な根元あたりからだ。私がいがいが根に突入した頃には林道へ戻り帰って行かれたが、わざわざこんなところまで愛猫に景色を見せに来ていたのだと思ったら愛を感じざるを得なかった。

さてと…。

死だが?

いがいが根をエッサホイサと進んで見ると、すぐ横に谷底、海へ真っ逆さまの死がある。何度も頭の中で「マジで?」と思った。

海までは落ちなくてもこういう落とし穴みたいなところもそこら中にある。スマホを落としたらそのスマホとは永久にお別れだし、自分が落ちても足がズル剥けの大負傷をし終わり。助けも呼べずここで孤独に風化するのを待つことになる。(多分明朝になれば釣り人とか散歩客とか来るんだろうが)
そして何となくこういう場所は先端まで行くものなんだろうなと思っていたが、なんか想像以上に先端まで距離があるし、1、2メートルぐらいの岩がど真ん中に鎮座しているところとかもあって、その上を超えるか、崖っぷちを背にしながらその岩の横を通るかみたいな選択をしなくてはいけない場面が何度かある。

先端まで向かう道を振り返った図。

これは本当に先端まで行って良いのだろうか。「順路」とか逆に「危険!」とか看板があればむしろ安心するのだが、ここには岩と岸壁と海と私しかいない。生と死がむきだしになっている無法地帯なのだ。実際そんなことはないし例えばここで人を殺せば普通にお縄なんだけれども、『生存本能』みたいなものが刺激されるくらいの緊張感に包まれて、そう感じてしまうほどに精神が昂っていたのは間違いない。
時折ゴミなどの人工物が落ちてたり、引き返すとき用の道標なのか大きな岩に白いインクで〇マークがついている場所があったりして「つまりここまでは人が来ても良いのだ」と言い聞かせながら岩にしがみついて突き進む。ここマジで長ズボンとスニーカーが安心です。すべって落ちるというより岩がゴリゴリのガリガリなのでここで転んだりしたらめっちゃ痛いと思う。

崖下(死)へ誘うロープ
こんなところで酒盛りをするな、死にてえのか

そんなこんなでどうにか先端に辿り着いた。

これを撮っているとき必死に腕を伸ばしてスマホで写真を撮っているのだが、怖すぎてちょいちょい一人で「オエーッ!」と声に出してえずいてた。私以外人はいないし、後続で人が来たとしてもそう早くここまでたどり着くことは出来ないだろうと分かってはいるんだけれども、万が一フッ軽でロッククライミングや山道がクッソ得意な殺人鬼がずんずんこっちにやって来て先端にいる私を突き飛ばそうとしたら完全に「負け」だし「死」だなと想像してまたオエーッとえずく。

とにかくなんかもうすごいところにいるな…という気持ちでしかなかった。

下手くそパノラマ

帰ろう。もう十分だ。こんなにも「死」を感じることは普通に街で暮らしていたらなかなか味わえないことだし、そんな場所に一人で来られてしまった自分自身も、なんだかちょっと讃えてやりたい気持ちだ。

そういえば上記の写真でお気づきになられた方もおられるだろうが、伊豆半島の東側にあたるいがいが根では、太陽は当たり前だが海の反対側に沈む。なぜ私はここで海に沈む夕日を眺めることを夢想したのだろう。ここには「死」しかないというのに。マジで危ないから絶対日没前後に来ちゃダメだと思います。こんなこと考えるのこの世で私しかいないと思うけど。

立ち寄り温泉 伊豆高原の湯

伊豆高原駅から徒歩5分くらい歩いた場所に立ち寄り温泉があるらしいということで、私はいがいが根を離れまた30分歩いて伊豆高原駅に戻ってきた。
その道中で見つけた看板。

いがいが根はこの城ヶ崎海岸の複数の岬のほんの一つらしい。
この案内図の説明で「男性的な岬」という言葉が出てくるのだが、ひょっとしてちんちんのことだろうか。疲れてきている。

伊豆高原の湯に着いた。この時点で結構ヘトヘトで、温泉に浸かるのは絶好のタイミングだった。
ただ何だろう。旅慣れてないのでつまり温泉慣れもしてないからこういうときいつも困るんだけど、化粧落としとか売ってないのな、こういうとこ。
受付で「タオルお持ちでなければ購入できますよ」と言われたのでお願いしたら小さくてペラいタオル一枚だけ出された。そこでバスタオルはないのか等聞けばよかったのだが、まあ中に進めば色々あるだろ、自販機などに何もかもが…と思ってロビーに進むも、なんかお土産とかばかりでちょっとすぐには見当たらなかった。じゃあ更衣室にあるのかな! と入ってみるが鏡の前はドライヤーオンリー。ええ…これめっちゃ事前に自分で色々持ってこないといけなかったやつ…? 住宅街の銭湯なら分かるけど、「立ち寄り」温泉なのだからフラッと来る奴前提で至れり尽くせりかと思ったのに…そうじゃないんだね…。
そんなことをするのは初めてだったが、ここでは化粧を落とさず首から下のみを洗って温泉に浸かることにした。買ったタオル濡らしちゃったら戻ってきたとき体拭けないなと思って浴場入口に置いて行こうとしたら「浴場内はタオルを持ってお入りください」と貼り出してあって「何だと…?」ともう何が何だかよく分からなかった。お風呂屋さんってただでさえ人前で裸になるから気まずくてまごまごしたくないのに結構初見殺しなとこあるよね…。ヘアゴムだけ貸出があったのは本当に助かった。
体だけを洗って露天風呂に向かう。出てすぐのところにもぬる湯があるのだが、どうやら石段をしばらく登った奥まったところにも露天風呂があるようで、せっかくだから(?)と茂った植木に包まれ葉っぱが散らばる石段を全裸で上って行った。さながら気分は『湖の見知らぬ男』。こういうときはもうちょっと著名な映画を挙げるべきだと思う。でもある? 裸同然で草木の間をねり歩くシーンがある著名な映画。とにかく露天風呂の良いところは合法的にお天道様のもとで全裸になれることだよなと思う。
奥の露天風呂はぬるめで、私にはとてもちょうど良かった。その時その風呂には私しかいなかったので堂々と足を広げて疲れを癒した。ただ残念なことに化粧がヘドロになっていないかが気になりすぎてあまり落ち着かなかった。化粧したまま湯船に浸かったことなんかないので崩れ方などが全然予想がつかない(プールや海水浴も行かないし)。あと湯船に浮く葉っぱとかデカめの蛾の死骸なども気になる。よし出よう。ここまで順調だったのだから十分だ。更衣室に戻りまだ汗で湿っている下着や靴下を着ける。どうしてこんなことをしなくてはいけないんだ。紙パンツくらい買わせてほしい。どこかに売っていたんだろうか。

御託はいいからビールだ!!!!!!!
立ち寄り温泉のすぐ隣に漁師めしの食事処があり、銀河高原ビールみたいなノリで伊豆高原ビールがあったのでそりゃあジョッキで頼みますわな。

あとなんか、美味しいやつ。この頃には疲れと温泉の余韻とビールとでぽわぽわになっていた。ホタテバターも頼んだ気がするけど写真さえ残ってない。でも達成感に満たされていた。まさかここまで順調に旅程を完遂してしまうとは思っても見なかったし、帰りの電車も終電よりだいぶ前倒し出来そうだった。

帰る

店を出てぽわぽわの足取りのまま伊豆高原駅に向かう。まだ20時前なのに駅前の店はほぼ閉まっていて、アルバイトの若者たちが「お疲れ様~」と挨拶をし合っていた。すごい。この町ではもう「今日」が終わろうとしている。
乗り込んだボックス席の電車は見える限り私以外乗っていなくて、当駅始発のため10分近く停車したまま待つことになった。本当に時間の流れが自分の住んでいる街と全然違うと思った。待ち時間が多いし、人もすぐ見当たらなくなる。それがなんとなく心細くて、疲れているのだから寝れば良いのに朦朧としながらツイッターを眺めて過ごした。行きはワクワクとドキドキで乗車時間なんてほとんど気にならなかったけど、帰りはすごく長く感じて、ほんの10分くらいだけ早く最寄り駅に着くだけなのに特急券を買ってしまった。ゆっくり座れるのにそこでもほとんど眠れなかった。ぼんやりとした鬱屈の正体は「明日も朝から仕事」なせいだろう。
ふさけやがって。働きたくない!!! でも今日結構散財した気がする!!! 今だってノリで特急券買っちゃったし!!!! 働かないといけないのがこんなに悲しい!!!!!

楽しかった

最後はへとへとになってしまったけれど総括としては楽しかったです。うーわ1万2千字超えてる。ここまで読んでくださった方も相当疲れたと思うので、総括はこのくらいで。
立ち寄った全場所が楽しかったのでどこもオススメですが、しいて言うなら「いがいが根」が一押しかも。伊東に来られた際は是非立ち寄って頂き、「死」を感じてみてほしいと思います。もちろん安全に、天候が良いときに、太陽が高く昇っているうちに、です。

おしまい。

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