今日、どこかの教室で #6

新型コロナウイルスで休校になった学校を舞台にした創作ストーリーを会話形式で綴っています。2000文字ほどですぐ読めます。

※完全一話完結です。この記事だけでも是非読んでください。

#5はコチラ !!
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勉強したくてもできない学生、教えたくても教えられない先生、困っているひとはたくさんいることでしょう。

3月9日 ■○?高校・1年C組
生徒・星川美音(16)、神田愛美(16)と先生・京極信(75)の場合。

京極「どうしてまた、私に古今和歌集を解説してもらおうと?」

愛美「ちょっと読んでる漫画に出てきて・・・」

京極「それでわざわざこんな時に学校に?」

美音「ネットで調べてもよかったんですけど、京極先生なら色んなこと教えてくれるかなと思って」

愛実「うちらバカだから文章読んだだけじゃわかんないもんね」

美音「いっしょにしないでよ」

京極「感心じゃのう。私も暇してたところじゃ。どれどれ、どんな話なんだい?」

愛実「それは、ええっと・・・」

美音「女子高生が、古今和歌集の時代にタイムスリップしてそこにいる男の人と恋に落ちる物語です!」

京極「ほう、今どきの漫画はいろんなのがあるんだねぇ。流行と古き良き文化の融合、素晴らしい!」

愛実「ふぅ・・・ナイス美音」

美音「素晴らしいんですよ。主人公が恋人の在原業平と一緒に桜の花の下でデートするシーンとか」

京極「主人公は業平と結婚するのか?」

美音「いや、まだ恋愛関係になるかならないかの微妙な時期です」

京極「おかしいのう。当時は男女が結婚前に会うことはなかったはずなんじゃがの」

美音「ギクッ」

愛実「ちょっと美音。こっち来て!」

美音「ごめん」

愛実「うちらがBL漫画の話してるってばれると、余計な説明しなきゃいけないんだから、余計なこと言わないでよ」

美音「気をつける・・・」

京極「まぁ、どうせ創造上じゃからのぅ、気にしないでいいじゃろ」

愛実「そうですよね・・・」

美音「勉強になります・・・」

京極「で、どの歌の解説かな?」

愛実「はい、この歌です」

京極「なるほど、業平の歌じゃね」

美音「起きもせず寝もせで夜を明かしては春のものとてながめくらしつ

京極「まず読んでみてどういう歌だと思った?神田君」

愛実「えっと、起きもしないで寝てもいないで夜が明けちゃっては、春ってそういう感じだと思って暮らしてたってことは、ちょっと気温が上がってきて布団が合わなくなって暑くて眠れなくなったってことかな?」

京極「それだと何の風情もない歌じゃな」

美音「ただダラダラしてるだけの歌」

京極「星川君は?」

美音「えっと、漫画にも和訳がついてて、『起きもしない、寝もしないで夜を明かしては、春のものと思って長雨を眺めつつ物思いにふけって一日を暮らしたことよ』って訳がついてて、『長雨』と『眺め』がかかっていて雨をみてどんよりと過ごしていたんだろうなってのはわかったんですけど」

京極「そうじゃな」

愛実「すごっ、うまいこと言ってる」

美音「前半の『起きもしない、寝もしないで夜を明かして』ってところが何を言ってるのかわからないです」

京極「なるほどな、古今和歌集には詞書といってまえがきのようなものがついていてな、そこにはこれは恋人と夜を過ごした後の歌だと書かれておる」

愛実「夜を過ごす・・・業平と楓が・・・」

京極「つまり『起きもしない、寝もしないで』というのは、夢見心地であったということじゃ。恋人と会えない次の日、どこか物足りない様子でどんよりとした雨をみて過ごしていたという歌じゃな。ダラダラしてるというのは間違いないのじゃが、恋人を思いながら何も手がつかない様子を重ねると、実にいい歌じゃな」

美音「なるほど・・・春の雨の湿っぽい感じと満たされない気持ちが重ねられているんですね・・・」

京極「素晴らしい。その通り」

愛実「さすが美音」

美音「たった三十一文字のでこれだけの世界を表現しているんですね・・・」

京極「それが和歌の醍醐味じゃ」

美音「この歌もいいですか?」

京極「どれどれ?『春ごとに花の盛りはありなめどあひ見むことは命なりけり』

愛実「あ、これ最新巻の最後のやつだ」

美音「いつもはさっきみたいな和訳がついてくるんですけど、これだけついてなくていきなり終わっちゃって」

愛実「そうそう、花をみながら詠んでたから花のことを言ってるのはわかるんですけど」

美音「特にいきなり命とか出てくるのがまったくわからなくて」

京極「これは誰が詠んだことになってるんだい?」

美音「主人公です」

京極「なるほど、詠み人知らずの歌を架空の人物のものとしてあてはめておるのか・・・感心じゃ」

愛実「で、どんな歌なんですか?」

京極「『これからも春のたびに花の盛りはきっとあるだろうが、それを見ることは私の命次第なのだなあ』という歌じゃ」

美音「それって・・・」

愛実「人間いつか死ぬけど、花はずっと咲いていくからそれを永遠に見れないのがつらいなぁという歌?」

京極「そのまま受け取るとそうじゃな」

美音「もう主人公の命は長くないってことじゃ・・・」

京極「そうともとれる」

愛実「うそっ、楓君が!?」

美音「こんだけ印象的な使われ方してるんだから」

愛実「噓だよ!コキコイ終わっちゃうなんてやだよ!」

美音「私たち、知らなかったほうが良かったのかもしれない・・・」

京極「中々興味深い作品じゃのう。漫画というものにはあまり触れてこなかったんじゃが、この暇に乗じてちょっと手を出してみようかのう」

愛実、美音「「それはダメ!!!!」」


ー了ー

※参考文献


生徒たちは登校できませんが、僕は毎日投稿していくつもりです。

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