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今日、どこかの教室で #3

今日は男性二人のお話。これまでにしたことのない対応を迫られて、先生方もいろいろ大変なんだろうなぁと思います。

生徒たちは登校できませんが、僕は毎日投稿していくつもりです。

※完全一話完結です。

#2はコチラ !!
↓↓

3月4日・$△@中学校・1年1組
生徒・西原駆(13)と先生・本多晴樹(30)の場合。

駆「授業してくれないんですか?先生」

本多「だから、休校中は授業なしだって。どうしてもっていう親のために面倒はみるけど、授業はしない」

駆「でもせっかく先生がいるんだから、特別にしてくれたっていいじゃないですか」

本多「どうせまた補習はするし、密室で大きな声でしゃべるのが感染する理由なんだから、授業なんてしたら学校休みにした意味ないだろ」

駆「でも・・・」

本多「なんで、そんなに勉強したいんだよ」

駆「いいじゃないですか、別に」

本多「夢でもあるのか?」

駆「教えませんよ」

本多「いいじゃん。誰にも言わないから」

駆「先生に、なりたいんです・・・」

本多「学校の?」

駆「はい」

本多「へぇ、なんで?俺に憧れてんの?」

駆「違います」

本多「だよねぇ」

駆「むしろ逆です」

本多「え?」

駆「先生みたいな教師を一人でも減らすために僕が先生になるんです」

本多「言うねぇ」

駆「本多先生みたいにやる気のない人がやるくらいなら、僕みたいに熱意にあふれた人が教師になった方が子供たちのためになると思います」

本多「ズバズバだな」

駆「本当のことですから。うちのクラスは大丈夫ですけど、他のクラスでは大小いろんないじめとかあるじゃないですか、それを見て見ぬふりしてる教師たちばっかり。他のクラスだからって助けの手を差し伸べない本多先生だって同罪だ。みんな腐ってる」

本多「うちのクラスだけでも平和なことくらい、ほめてくれてもいいじゃん」

駆「だってそれは・・・」

本多「・・・」

駆「それは、僕が車いすだからじゃないですか」

本多「・・・はぁ」

駆「僕が車いすで大変そうだから、いじめる気にならないだけで、別に先生がすごいわけじゃないと思います」

本多「そういうわけじゃないと思うぞ?」

駆「そうに決まってます」

本多「・・・はぁ。安心しろ、世の中やる気のない先生ばっかりなんてことは全然ないぞ」

駆「そんなこと・・・」

本多「俺だって、はじめは野心に満ち溢れる先生だったよ」

駆「・・・」

本多「教育の現場なんて確かに変えた方がいいことばっかりだよ。だから先生になったばっかりの時はあれこれ問題提起してたよ」

駆「へぇ」

本多「だけどやることが多すぎてそれどころでもなくなってきたし、見えないものは中々変えられない」

駆「見えないもの・・・」

本多「だから身の回りのことだけでも工夫していった。授業のやり方とか、クラスの在り方」

駆「いいじゃないですか」

本多「でもそれも難しい。みんなこういう。『自分が工夫してないように見えるからやめてくれ』と」

駆「そうなんですね・・・」

本多「もうだから今の俺は普通が一番。目の前の普通の人間が、普通に学校生活を送れる、それが俺の理想のクラス」

駆「普通・・・」

本多「そう、普通の人」

駆「その考えでいったら、僕みたいな人がクラスにいるのは面倒くさくないんですか?」

本多「別に。なんか他の人は嫌そうな顔してたけど、俺はそうでもなかったから、いま受けもってる」

駆「そうだったんですね・・・」

本多「良かったよ、結局。なんかまだ人間捨てたもんじゃないと思えるよ、うちのクラス見てたら」

駆「なら良かったですけど」

本多「どう?諦めた?先生になる夢」

駆「いや、全然」

本多「おぉ」

駆「先生にできなかったこと、僕にならできると思って」

本多「というと?」

駆「意外と言うこと聞いてくれるんですよ僕みたいな人なら」

本多「あざといねぇ」

駆「だから頑張ります。今日はありがとうございました」

本多「おぅ」

駆「一つお願いしてもいいですか?」

本多「なんだよ」

駆「ジュース買ってください」

本多「ははっ、確かになんでも聞いちゃうねぇ」


ー了ー


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