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ミムコさん企画 #文学フリマへの道  ノトコレブック📚



創作童話【けんたは忘れんぼう】

「しまった! 算数ドリル学校に忘れちゃった」
 けんたはランドセルをひっくりかえして言った。後ろでお母さんの声がした。
「また忘れもの?」
「宿題あるから学校に行ってとってくる!」
 けんたはそう言いながらかけ出した。
昇降口(しょうこうぐち)で事務(じむ)の先生に会った。
「忘れものかい? もうすぐ閉めるからね!」
 けんたは階段(かいだん)をかけあがった。
いつもは走ってはいけないろうかをビュンビュンにんじゃのように走った。ろうかの真ん中を走るのは気持ちが良かった。
「何だかやけに遠いなぁ」
 やっと教室に着くと、けんたは息をはずませながらいきおいよくドアを開けた。
  ギロロロロー
 そのとたん朝日のような光がけんたの目に飛びこんできた。
「まぶしい!」
 けんたは手をかざして中を見た。たしかにけんたの教室だった。けれどもよく見ると天じょうがとても高いし、机といすはけんたのものだけしかなかった。
「変だなぁ」
 けんたは青いプラスチックの引き出しを引っぱり出した。すると花火がはじけるように中のものがいっせいに飛び出した。
「わー!」
 けんたは引き出しをかかえてしりもちをついた。けんたのまわりには、ドリルのほかにエンピツ、けしゴム、コンパス、ハーモニカ、ハチマキ、おりたたみのかさ、それにクシャクシャのプリントがちらばっていた。けんたはびっくりして言った。
「ぼくの引き出しにこんなに入っていたのかあ」
 すると、ハーモニカがカタコト動き出してプファーと音を出した。その音といっしよにエンピツやコンパスたちが立ち上がって歌い出した。

  ぼくたち みんな 忘れもの
  忘れんぼうは どこにいる
  忘れたことも 忘れてる

 けんたが声も出ないまま見回すと、おりたたみのかさがバッとかさを広げて言った。
「あぁあ、ひさしぶりに伸びができた」
 けんたはそれを見て言った。
「なんだ、かさあったんだ。この前ぬれて帰ってそんしたなぁ」
「引き出しの中、きちんとしていないからだぞ」
 するとエンピツがキャラキャラとぶつかり合いながら、せいぞろいして言った。
「わたしたちだって、きちんとふでばこに入れてもらいたいわ」
「赤エンピツなんて5本もいるぞ」
「もう、しんがポキポキおれてたまらないわ」
 みんなが口ぐちに言うので、けんたはうるさくなって言った。
「わかったよ。持って帰ればいいんだろ。ぼくはこれから算数ドリルの宿題でいそがしいんだ」
 おりたたみのかさが、クルリッと回転して言った。
「おいおい、みんなをこんな目に合わせておいて、ちっともはんせいしてないな」
カスタネットがタカタカ音をたてながら言った。
「そうだそうだ! はんせい! はんせい!」
「じゃあ、どうすればいいんだよ」
 けんたが言うと、ハチマキがピィーンと伸びをして言った。
「ぼくたちと思いっきりあそぼう!」
「そうだそうだ! もうきゅうくつな引き出しはたくさんだ!」
 けしゴムやコンパスもさんせいした。みんなはまた歌い出した。
 
  ぼくたち みんな 忘れもの
  忘れんぼうは どこにいる
  忘れたことも 忘れてる

 けんたはしかたなく言った。
「わかったよ」
 すると、歌がピタリッとやんで、今度はだれが一番最初にけんたと遊ぶかけんかになった。
けしゴムがうれしそうに言った。
「ぼくが一番最初の忘れものだ!」
 するとハチマキが言った。
「わたしの方が先よ。だってクラスが変わった時からここにいるもの」
エンピツも負けずに言った。
「わたしたちが一番多いわ!」
 プリントたちも言った。
「数だったらぼくたちも負けないよ!」
 みんなでワイワイ、ガヤガヤさわぎたてた。
けんたはがまんできなくなって言った。
「うるさーい! あみだで決めてやる!」
 そして黒板にたてぼうとよこぼうをいっぱい書いた。
 一番のくじを引いたのは、エンピツたちだった。エンピツたちは一本一本つながって、あっという間にフラフープになった。エンピツたちが声をそろえて言った。
「けんた! フラフープ回して!」
 けんたはフラフープをそうっと持ち上げた。
エンピツたちはぴったりとくっついてはなれなかった。けんたは、
「行くよー それっ!」
と言って腰(こし)をまわした。エンピツたちが歌い出した。

  まわってまわって フラフープ
  グルルーグルルー グルルルルー
  もくもく雲も けっとばせー

 いつの間にかフラフープは勝手に回り出し、まどから外へ飛び出した。
 けんたは必死(ひっし)にフラフープを両手でつかんだ。
「あれーっ? ぼく空を飛んでる!」
 けんたとエンピツフラフープは、雲をけちらしてヒュンヒュンと飛んでいた。風がふくと、フラフープはヒュワーンとうき上がった。けんたはおもしろくなって、
「たつまきだぞー」
と言いながら、雲の中をグルグルまわってつきすすんだ。そうすると雲がたつまきの形になった。
けんたが空中の雲をかき回したので、空いっぱいにたつまきの形のらくがきができた。
 そこへ鳥たちが飛んできて、フラフープの回りを取りかこんで言った。
「やめてくれよ。目が回るじゃないか」
 けんたはびっくりして
「なんだよー あっちへ行けよ!」
と言って、フラフープをブイッと回して鳥たちをおいはらった。鳥たちはいっせいに飛び立った。
が、少したつと何倍もにふえた鳥たちがやってきて、けんたのフラフープをつっつき始めた。
「ワー! やめろー!」
 けんたは空中で足をバタバタさせた。
エンピツフラフープはバランバランとこわれ始めた。
  ポキポキ スットーン
 けんたがしりもちをついたところは森の中だった。おしりの下は木の葉がびっしりしきつめていてやわらかかった。
 その時後ろで声がした。
「わたしが二番のくじをひいたのよ」
 けんたがふりむくと、コンパスがていねいにおじぎをして言った。
「さあ、ダンスをおどりましょう」
「ぼく、ダンスなんてできないよ」
「だいじょうぶ。わたしのまねをして!」
 すると、じょうぎがあらわれてしきを始めた。
ハーモニカとカスタネットもやってきてえんそうを始めた。

  タカタカ タン
  プファーファファー
  タッカ タッタカ ファンファンファン

 コンパスのダンスに合わせて、けんたは夢中(むちゅう)でおどった。木の葉がカサコソまいあがった。
その木の葉を見ると、コンパスがツンツンさした穴があいていた。けんたは、もうすっかり宿題のことも忘れておどっていた。
  グルルルルルルルー
 コンパスが、かた足をじくにして回ってみせた。どんどんスピードが上がった。
 そのとたん、回りの木の葉がハラハラまい上がり、まるで魚のむれのように空中を泳ぎ始めた。
けんたは、木の葉にまきこまれながらブルルンと飛ばされた。けんたの体に木の葉がたくさんくっついて、鳥のはねのようになった。
「ワー! ぼく飛べるぞー」
 そこへカラスが飛んできて言った。
「なんだ? へんてこりんな鳥だなぁ」
「ぼく、鳥じゃないよ」
「ワッ! 顔は人間だ! 口ばしもないぞ」
 カラスはそう言って、けんたについている木の葉をはがし始めた。
「ワーッ! やめろー!」
 けんたは空中回転をしながら落ちていった。
  ストストスットーン
 けんたが落ちたところは、空にうかんだじゅうたんの上だった。
「ようこそ! ぼくは三番のくじを引いたプリントだよ」
 けんたのおしりの下で声がした。けんたがよく見ると、それは算数のプリント、かんじのプリント、学級だよりのプリント、それらが一枚につながって空飛ぶじゅうたんのようにうかんでいた。
けんたは両手をのばしてバランスをとった。
「まるでサーフィンみたいだぁ」
  
  空飛ぶ サーフィン
  サプサプサプーン
  空気の波に うまくのれ

 プリントたちが歌いながらあばれまわった。けんたはお腹を前へつき出したり、おしりをつき出したりして、必死(ひっし)にバランスをとった。
 ふと下を見ると、海が見えてきた。
  ザザザザー ドップーン
 今度は本当の波がけんたをおそってきた。けんたはさけんだ。
「プリントサーフィンは、ぬれたら大変だー」
 けれどもプリントたちは、おもしろがって波にすれすれのところまでビュインビュインと飛び回った。
 その時、雲から長いひものようなものが落ちてきた。けんたが夢中(むちゅう)でそれをつかむと、ひもはグングンけんたを引っぱって、空中ブランコのようにゆさぶると雲の上へ上がって行った。
 けんたが下を見ると、波につかまったプリントサーフィンはクンニャリとなって海の中にきえて行った。
「あー たすかった」
 けんたがそう言ってひもを見ると、それはクシャクシャのハチマキだった。
「四番のくじはわたしよ。けんた、宿題終わらせないとね!」
 ハチマキはそう言うと歌い出した。

  しわくちゃハチマキ ピンとはれ!
  ピンとはったら もんだいスラリ!
  まきつけまきつけ あたまもキリリ!

「わたしにまかせて!」
 ハチマキはそう言うと、けんたのあたまにキリリッとまきついた。そこへえんぴやけしゴムも算数ドリルといっしょにかけつけた。けんたは算数ドリルを広げて言った。
「雲の上で宿題やるなんて思わなかったよ」
 けんたは、あたまにうかんでくるこたえをどんどん書いていった。
「やったー! こんなに早く終わったの初めてだ」
 けんたは、算数ドリルを持ち上げてバンザイをした。
 その時だった。手からスルリッとぬけた算数ドリルは、フリスビーのように飛んで行った。
「あっ! こら、まてー」
 けんたは雲から下を見下ろした!
「あー! 算数ドリルが落ちて行くー」
 その時、黄色い鳥のようなものが飛んできた。つばさを丸く広げたりとじたりしながら、けんたのあたまの上まで来るとフワフワリーと降りてきた。けんたが見上げると、それはおりたたみのかさだった。
「五番のくじはぼくだよ。けんた、早く算数ドリルをおいかけないと!」
 けんたはかさをギュッとつかんだ。かさはどんどん大きく広がってパラシュートのようになった。けんたはさけんだ。
「がけのむこうに落ちていったよ!」
「それじゃあ行くよ!」
 パラシュートになったおりたたみのかさは、風にのりながら歌い出した。

  風をすいこめ パラシュート
  パラララ シュプーン パララララ
  雲をかわして シュプーン シュプーン

 けんたがさけんだ。
「大変だー! たきが見えてきた!」
  ドドドドドドーッ
 たきの音がだんだん大きくなってきた。
「あっ、算数ドリルがたきの方へ落ちて行くよ!」
 けんたがさけぶと、おりたたみのかさのパラシュートはぐんぐんスピードを上げて、算数ドリルを追いかけた。けんたは、かた方の手をうんとのばして、たきの手前で算数ドリルをキャッチした。
「セーフ!」
 けんたは算数ドリルをしっかりとだきしめた。こんなに算数ドリルをだいじに思ったのは初めてだった。
「宿題がだいなしになるところだったよ。かさくん! やったね!」
 おりたたみのかさは、うれしくなって
「よーし! 空中回転ごっこだー」
と言ってけんたといっしょに宙(ちゅう)がえりをした。それは、さか上がりよりでんぐり返しよりかんたんにできた。
 けんたはおもしろくなって、空中前回りと空中後ろ回りを何回も回った。しまいにけんたは、止まらなくなった。
  グルルン グルルン
「ワー! 目が回るー」
 けんたとおりたたみのかさは、グルグル回りながら落ちて行った。
  ヒュルヒュルヒュル スットーン
落ちたところは、けんたの教室だった。
 開けはなされた窓のカーテンがゆれていた。
もうすぐ日がくれそうだ。けんたはあわててろうかへ飛び出した。
 ふと気がつくと、けんたは校門に立っていた。
事務(じむ)の先生が笑って言った。
「ずいぶんたくさん忘れものをしたんだなあ」
 家につくと、けんたは算数ドリルを開いてみた。
「あっ、ぜんぶやってあるぞ」
 その時お母さんの声がした。
「けんたー 宿題終わったの?」
 けんたはとくいそうに言った。
「学校で終わらせてきちゃったよー」
 けんたはフーッとためいきをついて、算数ドリルをパタンと閉じて言った。
「あっ、またおりたたみのかさを忘れてきちゃった」
               おわり


だいたい600字×9ページです。(5049字ルビ含む)
よろしくお願いします。


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