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きまぐれモンスター【全3話】3/3

 ぼくがそうっとテルモンの口に手をあてると、テルモンはぼくの手のひらに、ピョコンとそれをのせた。  
「ハムスターだ!」
ぼくはびっくりして聞いた。
「テルモン!これを追いかけていたの?」ぼくが振り返ると、テルモンはハムスターの形になっていた。
「もう!いなくなっちゃったのかと思ったよ」 
「何だかわからないけれど、ネコになっていたら急に追いかけたくなったんだ」
テルモンはそう言って、手で顔を洗い始めてハムスターになりきっていた。
テルモンは歯がないからそのハムスターは全然傷ついていなかった。
「これ、じゅんの飼っているハムスターに似ているなぁ。でもどうしよう。家に持って帰れないし…」
ぼくは右手でハムスター、左手にテルモンハムスターを持って歩き始めた。
テルモンはぼくの手の中で
「うまく変身できただろう」
と喜んでいた。

商店街のペットショップの前まで来た時だった。
じゅんのお母さんが中をのぞいていた。
ぼくは声をかけた。
「こんにちは。田舎に行ったのではなかったの?」
「あら、ゆうたくん。こんにちは。今年はじゅんとお兄ちゃんだけで行ったのよ」「じゃあ、じゅんのハムスター連れて行かなかったの?」
「そうなのよ。今朝エサをやろうとしたら逃げ出しちゃって…困ったわ、じゅんが帰ってきたら大さわぎよ」
「これ!このハムスター、じゅんのかなぁ?」 
「え?つかまえてくれたの?」
「ぼくじゃなくて…あ、うん」
「ありがとう。そう、この子だわ!」
じゅんのお母さんはうれしそうに帰っていった。

「ああ、よかった」
ぼくがほっとした時だった。
ぼくのもう片方の手の中でテルモンが動き始めた。
「どうしたんだ?」
ぼくが手のひらを広げると、テルモンはペットショップのウインドウをのぞいていた。     
どうやら見ているのはウサギのようだった。  
そのうちテルモンの耳がどんどん伸びてきて、次のしゅんかん、後ろ足がポーンとぼくの手をけった。
「テルモン!まただっそうだぁ」
ぼくはテルモンを追いかけた。

 商店街の裏に畑があった。
畑の土のくぼみからピョンピョンはねるテルモンウサギの姿が見えた。
ぼくがやっと追いつくと、テルモンはニンジンをなめていた。
「テルモン、ニンジンなんて食べられるの?」 
テルモンは口をモゴモゴ動かしてウサギのまねをしていた。 
ぼくはそれがおかしくてずっと見ていた。テルモンは歯がないくせに、いっしょうけんめいニンジンをかじっていた。
そのうち体の色がオレンジ色になってきた。  
その時、後ろで声がした。
「畑で遊ぶんじゃないぞお!」
なおきのおじいちゃんだった。
「ごめんなさーい」
ぼくとテルモンはかけだした。

畑のすみに木の小屋があった。
「モォ〜」
中をのぞくとウシがいた。
ウシはしっぽをピシッパシッとムチのようにふっていた。
テルモンはじっとウシを見ていたかと思うと、あっという間にウシの形になった。
せいいっぱい大きくふくらんだつもりらしいけれど、やっとぼくのひざの高さくらいだった。  
しかもさっきニンジンを食べていたので、オレンジ色の変なウシだった。
「テルモンは色々なものになりたがるな」
テルモンはモーモー言いながら楽しそうに畑を歩いていた。

 ぼくの夏休みは、毎日こんなふうにしてテルモンと過ごした。
テルモンは時々ひとりでぬけ出したけれど、誰に会ったかすぐにわかった。
その動物の形になっていたからだ。
ぼくはいつもそれをほめてやった。

 夏休みが終わった。
ある日、ぼくはテルモンに言った。
「テルモンは動物に変身するのは上手になったね。でもぼくのまねだけはまだまだだなぁ」  
とつぜん、テルモンは手と足をピコーンピコーンと引っ込めた。
「おこったの?だってテルモンはペットなんだから、人間のまねする必要はないよ」けれどもその日からテルモンの姿が見えなくなった。
ぼくは心配でそこいらじゅうをさがしまわった。
「悪かったよ。テルモンはペットではなくてぼくの友だちだったのに」
でもいくら待ってもテルモンは帰ってこなかった。
そんなある日、じゅんがハムスターを持ってやってきた。
「この前のお礼に一匹あげるよ」
ぼくはちょっと考えてから言った。
「ありがとう。でもぼくはいらない。
ハムスターはじゅんに見せてもらうよ」
ぼくはいつものように引き出しをあけた。やっぱりテルモンは帰っていなかった。
でもいつかきっときまぐれに帰ってくるってぼく信じているんだ。
それまでは、ほかの動物なんてぜったい飼わないからね!

               おわり

最後までお読みいただきありがとうございました。





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