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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

久々のジブリ

はじめに

 どうも、最近熱くなってまいりました。皆さまどうお過ごしでしょうか?私の方はお盆休みに弟と映画に行く機会を得まして、スタジオジブリ制作・宮崎駿監督の作品「君たちはどう生きるか」を見て参りました。今回この記事では、この映画のネタバレあり感想をつらつらと綴っていこうと思います。
 以下ネタバレ注意です。























































まあ、うん。私は良いと思うよ?

 どんなクリエイターにだって自分の内面というか、そういうものを曝け出したい時期はあると思うし、それが老境に差し掛かってもういつ死んでもおかしくねえな!っていうふうに思うのはまあ仕方がないことだと思う。
 でももうちょっと物語として整理して欲しかったなあというのはあったかな……(小声)
 全体的に画が綺麗だったし、ジブリ特有のおいしそうな食べ物はいっぱいあったし、キャラの動きも躍動的だし、ジブリのアニメーション技術の精髄は確かに存在していることが伺えます。
 ただ脚本というかストーリーというかプロットというか設定というかがとっちらかっているのがすっごいモヤモヤしちゃいますね……。
 「言いたいことがある」というのは伝わりますし、それを物語に落とし込もうと努力しているのは伝わるんですが、纏まりがないというのが正直なところでした……。
 同様に「自分の伝えたいメッセージを作品としてお出しする」というやり方は、例えば富野監督が「劇場版Gのレコンギスタ 5部作」で、または庵野監督の「シン・ウルトラマン」等で行っているわけですが、今回の「君たちはどう生きるか」では先に挙げた作品群ほど洗練されていなかった印象が拭えません。邪推するなら、宮崎駿監督は「風立ちぬ」を最後に長らく作品制作を行っていないからというのも考えられます。
 これではメッセージ性の考察をする以前の問題ではないでしょうか。
 いやでも「風立ちぬ」でも観客受け意識しないで好きなモン描き切ってるし、客受け意識するフェーズはとっくの向こうに置いてきたのかも……?
 ただまあストーリー上では、クライマックスでの眞人の「答え」はすごいズシンと来るものがありましたね。「僕は完璧な善の人間ではない。だから世界を継ぐことはできない」というのは、エキセントリックな言動を見せながらも優しさと使命感を持つ彼らしい答えだったと思います。そして君生きバードことアオサギが終盤で見せた活躍も、序盤のクズっぷりを消し去らない程度に爽やかでした。ジブリでは「こいつが一番好きなキャラ」というのはいませんでしたが、今ではアオサギこそフェイバリットキャラクター・オブ・ジブリと断言できます。
 こうして今になって思えば、各キャラクターそのものはしっかりと立っていて印象に残っているのが不思議に思えてきます。ストーリー自体はトトロやりてえのかゲド戦記なのか風立ちぬリベンジなのか千と千尋の神隠しの焼き直しなのかよくわかりませんでしたが、「命あるキャラクター達」というのはしっかり表現できていたように思います。タイトルの問いかけはキャラクター達にこそふさわしいものかもしれませんね。知らんけど。

各キャラクター所感

眞人

 エキセントリック少年ボウイ。主人公でありながら観客の感情移入を許さない割れたガラスのような男の子です。
 ・お母さんが死んでしまって参ってる→わかる
 ・不思議な建物に執拗に近付く→まだわかる
 ・転校先で絡まれた挙句の喧嘩の帰りに自傷→!?
 ・自分を付け狙うアオサギを仕留めるため弓矢制作→?!?!?
 太平洋戦争時代の少年という時代背景を差し引いても滅茶苦茶やべーやつなのではないでしょうか?
 
こいつが主人公らしい活躍をするのは中盤以降ですが、序盤はこのとんでもねえガキの一挙手一投足にハラハラする羽目になります。ジブリ映画とは非日常の描写にハラハラするものですが、令和のジブリ映画は主人公の日常描写にハラハラさせられるようですね。
 そんな眞人君ですが、武器を手放して以降の中盤……謎の異世界での道中では「継母を救い出す」という明確な目的ができたのもあって、弱い者を守ろうとしたり、苦難の道を自ら進もうとしたり、主人公らしく振舞ってくれます。
 先に述べた自傷行為の件も反省し、「これは自分の悪意の証」として、大叔父様から世界を譲ってもらうのに相応しくないと断る場面は、彼の善性を感じられるシーンだと言えます。序盤のままのメンタルで物語を突っ走っていたなら同じ時代を生きた清太以下の野郎になっていたでしょう。

アオサギ

 通称君生きバード。私も弟、そして我々以外の観客も、誰もがポスタービジュアルのキリっとした目つきから「ユパ様のような心身共に男前の高潔キャラ」をイメージしていたでしょう。ところがどっこい、あのポスターで見せたようなイケメンなナリはどこへやら、ジブリ屈指のきったねえおっさんでした。それはもうカスのクズ野郎でした。キミさぁ写真写りいいって言われない?
 主人公の命を狙うわ、泥人形で油断を誘うわ、恩を仇で返そうとするわ、しかもサギはサギでも口先ばっかの詐欺野郎だわと、序盤ではヘイト稼ぎまくり。キリコ婆の「串刺しにしちまってくだせえ!」に頷いた観客も多いのでは? こんな奴の声帯が菅田将暉とは信じられねえ。
 そんな糞鳥な彼でしたが、眞人が敵であった彼のために努力した結果、インコの群れを突破する作戦以降で眞人と協力し始め、苦労人ポジションに収まり、なんだかんだ世話を焼いてくれるようになっていきます。序盤では非日常の象徴だった彼が、クライマックスでは眞人を日常へ帰すためにその全力を発揮する。「じゃあな友達」という最後の台詞も相まって、最後の最後に憎めない奴になってくれました。ジブリで一番好きになっちゃった。

ナツコさん

 眞人の継母。お腹に赤ちゃんがいて酷いつわり持ち。なのに重い荷物を抱えたり、夫の連れ子(姉の子)を守るため弓矢を持ち出す等、エキセントリックなお方。後述の旦那や姉、そして前述の義理の息子といい、この一家は総じてエキセントリック。生まれてくる子供の将来が楽しみ。
 異世界では自分を救いに来た眞人に「あなたなんか大っ嫌い」と叫ぶ場面がありますが、あれは「子供に嘘をついてまで逃がそうとする場面」でもあるとは思うのですが、「大好きな姉、愛する旦那、その両方からの愛を一心に受ける、自分が産んだのではない子」へのコンプレックスの表れにも思えます。ですがその上で眞人君は「ナツコお母さん!」と、初めて母親として呼ぶ。ナツコの方も本心から「逃げて眞人くん」と叫び返す。
 ぎくしゃくしていた二人が真に互いを家族と認め合う、個人的には好きなシーンです。

キリコ

 煙草はほどほどにね。
 キリコというと、眞人のいる世界の「眞人の家の使用人キリコ婆」と「異世界の漁師キリコさん」の二人がいます。
 キリコ婆はまさしく眞人の祖母のように彼の心配をしてくれる序盤のヒロイン的存在です。煙草欲しがり過ぎるのが玉に瑕。
 漁師キリコはまさに女傑、ヒミと並んで安心感のある強い女性でした。でもあの鞭と人形はなんだったんだろう……。

ヒミ

 本作最強戦力にして眞人の母親。母は強し(物理)ペリカンもインコも腕の一振りで焼き払う姿はもはや女エンデヴァー。
 「転生したら火事で死ぬぞ」と言われて「火は好きだ」と返すエキセントリックな女。そら血を引いた息子もエキセントリックになるわ。もしかして自分が起こした火で病院が火事になったんちゃうか?

大叔父様

 おそらく世界観に深く関わっているであろうお人。説明不足が過ぎる。ただまあ「監督の伝えたいメッセージ」の象徴なんだろうな、というのは何となく感じられます。
 だが鳥を異世界へ入れたのは許せん。

ペリカン

 何被害者面してんだよ。絶滅しろ。

インコ

 共食いしてろ。
 本作の鳥はクソだらけ。

わらわら
 
かわいい。モロに輪廻転生を司どる存在ですが、まっくろくろすけから連綿と続くジブリマスコットの系譜でもあります。子供にも描きやすい! これを餌として付け狙うペリカン共はヒミの火で駆逐されてしまえ。

眞人父

 エキセントリック少年ボウイの父親にしてこの人もエキセントリック。息子好きすぎて高級車で学校に乗り付けるし、救出にポン刀持ち出すし、死んだ前妻の妹を娶って連れ子と合わせる前に孕ませるし。血は争えない。

終わりに 私とジブリ

 ジブリと言えばトトロや千と千尋の神隠しのような子供受けのいい長閑な作品のイメージが強いもんですが、私は紅の豚が一番好きで、他の子供向けはしゃらくさいとさえ思っていました。
 でも今なら断言できます。大人向け過ぎてもいけないな、と。無論程度はありますが……。ですがネット上で作品の考察などが盛んなこの時代、これくらい謎めいた作品は、観客の頭の中をかき乱してくれるいい考察材料になるかと思われます。そして、そこから監督のメッセージを読み取る機会にもなるのでしょう。
 賛否両論、しかして宮崎駿の渾身。映画館で見る価値はあったと信じます。


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