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裏DVD⑤/飛ぶやつ

「Nが飛びやがった」
初夏の晴れた昼下がり、ボスが電話口で呟いた。
こういう時のボスって、ブチ切れそうなイメージがあるからなんか意外だった。
電話の後、僕の持ち場にやってきたボスはやっぱり怖い顔だった。
「ったく、あの野郎」
「まあ、そういうことだから悪いけど今日は休憩無しだ」
と僕に伝えた後、電話をしながらどこかに去っていった。
後ろ姿からでも眉間にしわを寄せているのが分かった。

Nさんは、ボスに信用されていたと思う。
一人だけ部屋から現金を別の場所へ移す仕事を任されていた。
この仕事でお金を任されるということは、相当な信用が無いとできないはず。

年齢は知らないが30前後とかそんな感じだった。
「ちゃあんと仕事してまちゅか?」
と遠くから僕を見張りながら赤ちゃん口調で電話をかけてくる、いたづら心の持ち主だった。
たまにゲーセンの前で家出少女をナンパして、かわいがっていた。
変な関西弁を使うから、個人的にはどこか信用できないとは思っていたが、まさか金を持って飛ぶとは。
たしか、10万ずつとかそんな額を運んでいたはず。
これから、Nさんの捜索活動が始まるのかよく分からないが、10万のために背負うリスクではない気がする。
捕まったらどうなるんだろうってずっと思ってた。

それからお金を運ぶ仕事はボスが全部やってた気がする。
Nさん今どこで何してるんだろうか。
この仕事のこと思い出すときにいつも思う。



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