心象風景はいつも曖昧・1(メモのようなもの)

海にて。
日差しは柔らかくあるけれど景色はまばゆい。
打ち寄せる波を避けながら歩く海と陸との境界線。
濡れた砂は足元を湿らせ、乾いた砂は歩みを頼りなくさせる。
海岸線は緩いカーブを描きながら遠い先まで続いており、その端ははっきりはしないがおおよその見当はつく。
行けるところまで歩いてみようかと思い歩き出す。
しかし砂浜の歩きにくさと、復路にも同程度の時間を要するのだと考え立ち止まる。
海の方を向いて大きくひとつ深呼吸。
そしてゆっくりと向きをかえて、来た分だけの距離を戻る。

夜、浜に出る。
薄い月明かり、波の音が耳によく届く。
ゆっくりと足を進めると思いの外波打ち際が近く、足に当たった波がピシャリと跳ねた。
それがまるで波が足首を掴んだように感じられ、思わず後退りすると体がよろけた。
昼に遠くまで見えた海岸線はほんのすぐ先からよく見えない。
確かにそこにあるはずなのに、まるで今は存在しないかのように。
海も間違いなくそこにある。
波の音がひっきりなしに聴こえている。
砂の上に自分はいる。
でも次に気づいたら海の底にいるのでないだろうか。
そんな不安が胸にあふれる。
夜の海は人を呼ぶ。
呼ばれるままその内に入って行ったら…
そんな思いがふっと湧く。
海の方を向いて大きくひとつ深呼吸。
そしてゆっくりと向きをかえて海を後にする。

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