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特許出願のリスクについて考える。

今日のひとこと:バランスって大事。


1.特許出願のリスクとは?

特許出願をした場合、原則発明(技術)内容は公開されることになる。これは特許制度が技術の公開の代償として、その技術に法的な保護を与えるものであるからである、というのは、まさに教科書的な話。
ここで問題になるのは、発明(技術)内容が誰でも見られることになるわけで、公開時点から他社はこの技術のパクり(模倣)が可能になる。すなわち、技術流出を積極的に行うことになってしまう点だ。
「特許を取っているのだから、パクれるはずがなかろう」と思う方もいるだろうけれども、実際の特許権の範囲はあくまでクレームに記載された内容であり、明細書の記載はそれをカバーするように若干広めに書かれるものであるので、すべてがクレームでカバーできるものでもない。
また、クレーム自体が役に立たないケースもありうる。
 
特に技術流出が深刻なのは、ケースは下記3点である。
①    特許のクレーム(請求項)がそもそも侵害立証できないケース
②    特許明細書にノウハウが混入しているケース
③    特許の技術を出願から20年以内に事業化できないケース
 
それぞれのケースを説明していこう。
 

①    特許にクレームがそもそも侵害立証できないケース


非常に代表的なケースは、クレームが「方法」に関するものである。
他者の実施品を入手したものの、どうやって作ったのか?はわからないケースがほとんどであり、なんとなくはわかっても確証を得るには他者の内部資料でも入手しない限りは困難といった場合、訴訟の提起はほぼ困難である。(侵害が発生していることを立証する義務は訴える側にあるため)
この場合、明細書に書かれたことを他者にパクられたとしても、こちらは訴訟ができないので、指を咥えてみているしかない。
 

②     特許明細書にノウハウが混入しているケース


明細書は前述のとおり、クレームよりも詳細に書くわけだが、そこには使いうる材料や製造方法、解析方法などの情報が書かれることが多い。なぜ詳細に書くのかといえば、特許審査の過程で、近い先行技術文献などが見つかり、特許性が疑義が発生することがあり、その際にその詳細な記載からは発明のポイントを説明したり、クレームを修正したりするためである。
ただ、この場合、同業他社がこれを見ると、開発のヒントを与えてしまうケースが非常に多い。
発明者は誠実なつもりで、特許明細書を細かく修正したがるし、その際に本物の図面などを用いて解説をするが、それが意図せず、そこに含まれるノウハウを記載することにつながってしまう。
 

③     特許の技術を出願から20年以内に事業化できないケース


意図せずそうなる点は致し方ないが、これも立派に技術流出だと思う。
かなり先行した基礎研究に関する基本特許が何事もなく20年経過してしまい、後に事業化されてしまうケースがときどき見られるが、これは本当にその時に出願すべき内容だったのかが疑われる。先願主義に踊らされたケースともいえると思う。

2. 特許事務所の弁理士は特許出願のリスクに鈍感?

特許事務所の収益源は言わずもがな特許などの手続きの代理費用である。すなわち、お客様が特許出願をしたいと依頼したものを断っていては商売にならない。
近年でこそ、①特許のクレーム(請求項)がそもそも侵害立証できないケースのようなあからさま場合は、注意喚起くらいはするようになったが、それでもお客様に意思決定をゆだねるわけで、決して特許出願のリスクに敏感であるとはいえないし、その期待をしてはいけない。
ましては、明細書へのノウハウの混入や事業化などは知りえることでもないので、これらのリスクには取り組みようもない。

3.知財部のリスク管理で本当に足りているか?

では知財部は特許出願のリスクに対応できるだろうか?こちらも充分に対応が足りているとは言えない。
そもそも知財部員のKPIにも出願件数が入る知財部が多いなかで、せっかくの出願ネタを積極的に出願せずにおくという選択肢をとれる人は少ないと思う。
ノウハウを出願とは別に管理する規定が導入されている企業は近年増加していると思われるが、防げる技術流出は前述①くらいであって、②や③は防げない。ただ、②や③は、企業内部にいる知財部員しかこれを防ぐことができる立場にはないわけで、今後の対策(しくみ化)に期待したい。

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