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童貞を捨てた話 ~願っていた事が実現したけど、薄ら予想していた通り自らの醜さを知る~(2022J1最終節札幌vs清水@札幌ドーム)

※我欲、妄執に溺れて、「何事にも相手があり、相手には尊重すべき人格があり、相手は決して物ではない」という前提を敢えて忘れてみせ、ただ相手を己の欲望のままに食い散らかしてしまうような話を書くので気分が悪くなる場合はすみません。

済ませてみたら、済ませたという以外の感情がなかった。

2016年にJ2で優勝し、J1に昇格してから早6シーズンを満了しようとしている北海道コンサドーレ札幌であるが、俺の中には「これをやらないと、俺は、俺たちは、真のJ1とは言えないんじゃないか?」と思っている一つの執着があった。それは、
「この手で、目の前の相手の降格を、決定させる」
という事だ。

こう思うに至った経緯としては、2019年のルヴァンカップ決勝で敗れた事がある。
決勝で敗れ、自らの望みを目の前で相手に奪われるに至り、
「勝ち取らなければ、強くなれない」
「しかし決勝に至るだけでも実に大変だ。望んでも至れない事の方が多いだろう」
「もっと何かこう、決定的な、相手から奪う。そういう行為がしたい。経験がしたい」
と、強く思うようになっていたのだ。
いやよく考えたら、よく考えるまでもなく、それ以前から、随分と、そうした悪趣味な経験をしてみたい。なにかこう、相手の絶望を目の前で見る事によって満たされる、或いは何か「呪い」のようなものから解放される、罪が贖われる……いやこちらだって罪を犯してこうなってるという覚えはさらさらないのだけど、ただ歴史的に一方的にJ1から奪われ、弾かれ、苦渋ばかりを舐めさせられてきた札幌というチームの奥底に、いや、チームじゃない、今ではもうチームやクラブからは拭われているのだろうけど、主に老害方向の俺のようなオールドファンの精神の底の方のちょっと凹んだ部分に溜まった『澱』のような、平たく言うと、ルサンチマン、学生の頃に異性と付き合った経験が無い男性は、歪んだ性意識を抱いたり、勝ち得る事のなかった青春の幻の1ページに対して、過剰な憧憬と妄執を抱くという(※民明書房或いはプロレススーパースター列伝におけるアントニオ猪木談的な根拠)。

「それ(澱)」を、いい加減流したい。
俺も、誰かから奪いたい。
グラップラー刃牙によれば、戦場で初めて人を殺す事を、童貞を捨てる的な言い方をすると聞く(ガイア編だったかな)。
ならば、俺も、目の前の相手を降格させたい。

J1で、童貞を、脱したい。

そう、思ったのだ。
奪う事によって、俺の心の澱は浄化され、真人間になれるのだ。
泣いたり、悔しかったり、絶対に忘れねぇと奪われたその時は思ってみるものの、じゃあそんな事思ってたからチームが強くなったかって言ったら多分全然そんなもんは強さには役に立ってなくて、ただただ、飲み会の時に、あの時なぁ、アレはしんどかった。〇〇が暴れてなぁ。厚別の外でさ、話し合いみたいになったけど、日没が近くてさぁとか、そんな思い出による話題の強化だったり、強く辛い事を覚えているが故に、傷ついた経験と心の傷の深さばかりが強化される、そうした何ともどうしようもない効果しかなかった「被害」(※競技上どうしても起こる事を被害と言ってはいけないんだけど、98年末の2シーズン分の勝ち点でJ1参入決定戦やるぞってのは明確な被害だと思う。正式な謝罪がないとこればっかりは絶対に許せない)は、斯様にして、
「俺も目の前の相手を降格させたい。泣いている姿を見てみたい」
と、俺に思わせるようになっていた。のだ。

で、2019年、ルヴァンカップの決勝で川崎に負け、失意の中で抱いた「どっか、目の前で降格決めさせてみてぇ」という望みは、果たして案外すぐに、ホーム磐田戦でその機会を迎える事になる。

結果は、負けっ……!!
(暴れんなよ、暴れんなよと組み伏せようとしたけど、先制はされるし、何とか追いついて見せたもののロスタイムにPK取られて敗北。※札幌の手から逃れた磐田ではあったが、次節敢え無く降格した模様)

いや、負けてんじゃん!って感じで、何とも締まらねぇなぁと情けない思いなんかもあったのだけど、またいつか、こうした機会が訪れたらいいなぁ。いいのにな。とたま~~に冗談めかして思うような、そんな感じでこの年は千載一遇の、多分初めてにして唯一のチャンスを逃した形となった。

あれから3年

あの屈辱の「やり切れなかった」「童貞を、捨てられなかった」という思いから、3年が経ち、あの時取り逃した磐田は降格後改めて昇格をして、そして、前節ガンバとの残留争い直接対決に敗れ、再度の降格が決定。他方、所謂サッカー王国の片割れというか、寧ろ王国を強く自称する清水は、自力残留が無い、札幌に対して勝利を収める事がまずは絶対条件となる「17位」で最終節を迎えていた。

これって、チャンスじゃん……

王国ダブル降格という、ただ語呂がよく、それ以上の意味を持たないどうでもいいアチーブメントもまぁ興味の対象ではあったが、それは結構どうでもよくて、とにもかくにも、
「勝利しか許されない、引き分けでも自動降格、仮に勝っても他が揃わなければ入れ替え戦進出すらない」
という相手が、殺さないでと刃物を振り回しながら札幌に襲い掛かってくる。
そうした相手を、今度こそ、組み伏せられるのか、

僕は、童貞を、捨てる事が、出来るのか。

決戦は、2022/11/5 14時のキックオフ。
当日、ドームに入り、アウェイサポーター側に程近い席に座る。アウェイ応援エリアではないのだが、案の定清水のファンも多数周囲に座っていらっしゃる。

こんな位置でした

ここに来て、気持ちはなかなか冷えてくる。自分は邪な思いを持っているという事がまぁやっぱり想起されてくる。実際持ってるしなぁ。俺の心は汚い。それは本当にそうなんだけど、俺は、奪いたいんだ。でもそれは、相手がある事なのだ。当たり前だけど、それはやっぱりそう。複雑だが、俺はもう汚れるつもりだし、汚れる事は、覚悟してる。
これ、相手との距離が離れていれば、やーいやーいぐらいの罵声は互いに飛んだかも知れない。よくないけど。でも、周りがね、生き延びたいという願いを持って見てる人たちって分かっちゃってたら、そりゃね……うん……

この先起こる事をシラフでは見ていられない。僕は飲酒した。

なるべく抑制的に試合を見る。
清水相手に比較的普通に試合をして、普通に先制し、ハーフタイムで宮澤を封じる手を打ってきた清水にスコスコと逆転を許し、相手を絶望に叩き落す同点ゴールこそ決めて見せたものの、更に勝ち越しを許し、ああこりゃ結構どうにもならんぞって思ってたら、追いつき、その段階で十分相手を絶望に落としているにも関わらず、よりによってロスタイムに、札幌が勝ち越した。(ゴールはすべてビューティフルで、札幌は技術やアイデアが結実したゴールだったし、清水はホントに執念を感じるようなゴールだった。試合自体は凄く面白かった)

裏の方では残留争いの16位京都が磐田と引き分けていたため、実は清水としては勝てば入れ替え戦になる事が出来ていた。と、後で知って驚いた。
(15位のガンバが鹿島に引き分けたため、清水の自動残留の目はなくなってはいた)
ともあれ

童貞は、捨てられた。

決定的に、奪った。
清水の来期J1の目を、なくしてみせた。
2019年の磐田との経験を活かし、まずはこちらがリードを取り、雰囲気を作った(先制した)ものの、そうはいかない清水に暴れられ(※同点に追いつかれ)、逃げられかける(※逆転を許す)も、食いついて(札幌が同点に追いつき)、肘を食らわされた(※でも勝ち越しを許した)が、まったくムードもクソもなく、体力切れまで押さえつけ(同点に追いつき)、降格を決定づけることに、成功した。という、なんともしんどい脱・童貞であった。
こんなしんどい思いをするなら、もう別に、それは正直いいかな。という思いは、あった。

「一回やったら次もまた次も!」
みたいに思うのかなと少しだけ想像していたのであるが、自分はどうもそうした気持ちにはならないし、なんていうか、きっとこれまで数多の降格チームを見送ってきているであろう鹿島や横浜Fマリノスなんていうのは(※全く調べてないので実はそんなでもないかも知れません。ちなみに札幌が過去降格させられたのは98年福岡、02年鹿島、08年柏、12年川崎です。あ、これなぁ、仇を討つ的な概念はあってもいいかも知れない!)いちいち落とした相手の事なんか気にもしてないんだろうなと勝手に想像したりした。けど、実際のところどうなんでしょうね?まぁそれこそ個々人で違うか。

きっとこれから、少なくとも自分は(というか、目の前の相手を降格させてみたい。という黒い感情、身勝手な欲望を持っていた人が俺以外に居たのか?というのは正直疑問だし、みんなそんなの気にしてないんだろうなと思います。テヘリンコ)、もう相手の降格決定がどうとかどうでもいいと思うだろうし、次回に何らかこっちが降格さしめるタイミングがあったとして、こちらが勝つべき一試合という以上には意識しなくなるのかなと思います。ええまったく、相手を考えない、ばっちい感情の、そんな最終節でした。

路傍に咲いている可憐な花を手折った。
手折ってみたくて、手折ってしまった。
可憐に見えた花は、手の中で萎びていった。
手折った花は、その辺の草むらに捨ててきた。

イベントも多く、楽しい最終節でした。また来年。

今年も一年お疲れさまでした。
コロナだ怪我だで本当にしんどいシーズン、現場で戦われたり、支えられてきた皆様に身勝手ながら感謝を申し上げます。

すすきのへ行こうと歌われましたが、この日は大通の燦醸小町で飲みました。

次回、童貞戦記札幌
「いつか初めての相手を落としたいなぁ。
 ~~ッッッ!!鹿島と横浜と鳥栖しか残ってねぇ!!」
お楽しみに!

この項、了


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