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「あなたには向いていない」と伝える勇気

チームづくりをする上での僕の主なスタンスは『背中を押す』だ。具体的には、チームメンバーが何か行動を起こしたとき一番最初にフォロワーとなって、その行動が成功するように付き添う……といった具合だ。場合によっては軌道修正したり別の方向性を示したりするときもあるけれど、基本的には肯定して伴走することが多い。

僕が『背中押すおじさん』になりきれているのは、つまりそのスタイルでチームがちゃんと前進しているのは、チームメンバーが優秀だからなのは間違いない。伴走で事足りるなんて恵まれているよね。
ただそれでも、本気でチームメンバーのキャリアを考えるなら、成長を考えるなら、未来を考えるなら、背中を押す以外にもしなくちゃならないことがあると薄々感じ始めている。それが「あなたには向いていない」と伝えることだ。

「向いていない」と伝えるというのはやや極端な表現だけれど、チームメンバーが新しいことにチャレンジしたときに、その向き不向きについて、言い換えると適正の度合いについて客観的に判断して伝えられるようになりたい。フィードバックの選択肢のひとつとして持っていたい。

「いやいやそんなことわざわざ言わなくても」と何度か言われたことがあるし、自分でもそう思ってきた。だからその気持ちはすごく分かる。
選手生命の短いスポーツ選手じゃあるまいし、ちょっとくらい向いてないことに熱中する期間があったって無駄にはならないよ、エンジニア人生は長いのだから。この主張もわかる。
わざわざ他人が口を出さずとも向き不向きはいつか自覚できるのだから、黙って見守っていればいいじゃない。この主張もわかる。
「あなたには向いていない」などと伝えなくてもいい理由は山ほどあって、きっと全部同意できる。

でも、生きていく上で、自分に「それは向いていないよ」と正直に言ってくれる人はほとんどいなくて、いたらすごくありがたいと思わない?
マネジメントする人として、チームをつくる人として、チームメンバーのキャリアを支援する人として、お給料をもらっている以上、背中を押すだけじゃ物足りないと思わない?
多くの人がどう思うのかは分からないけれど、僕はありがたいと思ったし、物足りないと思った。

だけどこれの実践はすごく難しい。例えば新しいことにチャレンジした人がなかなか成果が出なかったとしても、遅咲きの可能性もあるし、ボタンをかけ違えているだけでほんの少しのきっかけで開花する可能性もある。
僕が伝える『向き不向き』はひとつの意見に過ぎないけれど、それがミスリードになる恐れもある。
とは言っても結局何かを続けたり辞めたりといった決断の良し悪しは、死ぬ間際にでもならないと分からないと思う。だから、リスクや不安要素を払拭するくらい考え抜いた上で向き不向きをフィードバックする勇気が、今の僕には必要なのだ。

それでも僕は、だめなものはだめだと言ってくれる人間が必要だと思っている。
経験のない若い人が自分だけで判断しようとしても、願望が入ってきてしまうために冷静な判断ができないと思うからだ。難しいのは承知のうえで、そういう存在を自分で見つけることの大切さを理解してもらいたいと思う。

『諦める力』

これは僕が新卒の頃に読んだ本にあった言葉で、当時はプレイヤーの目線で受け取ったけれど、今改めて読み返してマネージャーの目線で受け取ると、こういう存在に自分はなれるのだろうかと揺さぶられた。もしかしたら今後また別のスタイルを重視することになるかもしれないけれど、2022年5月時点の僕は、「あなたには向いていない」と伝える勇気を持ち合わせる人になりたいと思う。


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