年末企画

友の会会員が選ぶ「別れと出会いの季節に贈りたい本」DAY.1

くるくる選:山崎ナオコーラ『趣味で腹いっぱい』

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本来なら4月は新しい出会いで期待に満ちているはずだ。しかし今年、2020年4月は新型肺炎の余波でとても新しい出会いを寿ぐ気分ではない。

こんなときは読書だ。少し時間ができた人には「鈍器」と呼ばれる重厚長大な作品をお勧めしたいが、疲れて不安になっている人には簡単に読めて、気分が楽になる本で心を休めてほしい。

ALL REVIEWS 友の会で、トミヤマユキコさんが紹介した山崎ナオコーラ『趣味で腹いっぱい』は、心が温まる本だ。

高卒の銀行員小太郎が茶道サークルの先生に紹介された鞠子と結婚し、鞠子の趣味を支え、ついには自分も鞠子に啓発され小説家となり、父親の教え「働かざるもの、食うべからず」という信条から「働かないものも、どんどんた食べろ」という信条に変わっていく過程を描いている小説。豊崎社長も絶賛していたが、ともかく主人公の小太郎が素晴らしい男性である。働くことの尊さも否定せず、でも、趣味にまい進する妻の鞠子をしっかり支えている。豊崎社長は小太郎を「ドリームな男」と呼んだが、いや、本当、理想の男性でしょ。しかも三冊目はしっかり2万部刷られている設定(あの『蜜蜂と遠雷』の初版が15000部として計算されていたそうだ。そのような出版事情の中でフィクションの出来事とはいえの2万部はすごい!)

そして、この小説は登場人物を誰一人として否定しない。仕事をする小太郎、趣味に生きる鞠子は同等だ。人間、どんな生き方をしていても、社会の中で必要である。鞠子の母、アンナさんは、夫を亡くし、娘と同居するにあたりこう言う。

自立に美しい立ち方があるように、他立にも美しい立ち方があるのかもしれない。それを目指そうかなと。

どんな生き方をしてもよいというこの本は4月という志の高い季節には不適切かもしれない。でも、疲れているとき、自分を肯定してくれる本もとても重要だ。心が軽くなるこの本、もっともっと読まれてもよい。学校の図書館にもおいて欲しい。


【この記事を書いた人】くるくる

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