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【特別対談】楠木建×鹿島茂 『NETFLIX コンテンツ帝国の野望 :GAFAを超える最強IT企業』を語る

1月18日西麻布ノエマスタジオ付近も雪混じりの雨が降りました。
2020年最初の月刊ALL REVIEWSノンフィクション部門イベントはゲストに楠木建さん(一橋大学教授・経営学者)を迎えて、『NETFLIX コンテンツ帝国の野望 :GAFAを超える最強IT企業』(新潮社)について熱く語ります。ホストはいつもの鹿島茂さん。ビジネス書を読み解くのはこのイベント・シリーズでは珍しいのですが、どんな様子だったのか、かいつまんでレポートします。

面白すぎるビジネス書なのだ

お二人による本の紹介から始まった。鹿島さんは、脱サラの創業者二人がインターネットと通販を組み合わせた形の、レンタルDVD会社を始め、後にブロックバスターというゴリアテ的大企業を追い越し、倒すサムソン的な会社にまで、何故なったかを経営学的財政学的にも解き明かす本であると。

楠木さんは、この本は昨年読んだビジネス書のうちで最も面白かったと評価。面白くてしかもためになる本の稀有な例であるとおっしゃる。この本の原著は2012年に出版されたが、翻訳は2019年に出版されている。本文はNETFLIXの創業(1997年)から2011年までの争闘の歴史を書いており、ここが読み応えがある。翻訳が遅れた日本版の序章と題名に、その後のNETFLIX社がストリーミングとサブスクリプションで業界を席巻する姿が簡単に反映されている。本文中には経営のヒントが満載されているとも。

顧客情報解析魔のランドルフとアルゴリズム・オタクのヘイスティングスがNETFLIXビジネスの基礎をつくった

ランドルフと、ヘイスティングス、30代の二人が協力してNETFLIXを創業し、得意分野のビッグ・データとアルゴリズムの力で、激烈な競争社会を勝ち抜く姿がこの本に描かれている、ここが競争戦略に興味がある楠木さんのツボにはまった。
鹿島さんは、ランドルフの得意だったダイレクトマーケティングの顧客情報解析が発想の元となる、好きなビデオを好きなときに観たいというビデオ好きな顧客、その顧客の情報や行動を徹底的に洗い出した、と言う。アルゴリズムフリークのヘイスティングスも映画・ビデオ好き。インターネットを駆使して自分たちの欲求を満たすようなシステムを作ったのだと。

楠木さんは、郵便DVDレンタル会社の世界に彼らのデータとアルゴリズムの考え方を「腰を入れて」持ち込んで経営の軸としたのが、勝因だと述べる。

ブロックバスターとの激烈な闘争

ブロックバスターは、全国に多数あるビデオレンタル店での巨大な収益をもって、映画・テレビ各社の作る高額な新作を買いまくる。一般の顧客はそれを店舗に行って借り出す。返すのを忘れると延滞金も払う。レンタル店の数が減っても、郵便通販で補うことも考える。

新興のNETFLIXは資金力不足なので、新作は十分に揃えられない、そこで倉庫に在庫している旧作ビデオを借りてもらう作戦に出た。ただし、ロングテール商品に目を向けてもらうには、工夫がいる。ここに、顧客情報フリークのランドルフのアイディアが活かせる。顧客の趣味嗜好を知れば、適切な旧作をすすめることができる。Web上での顧客の行動を感知・記録してそのデータから、新たなレコメンデーションをするようなアルゴリズムを考えるのはアルゴリズム・フリークのヘイスティングスの得意技。ここが「今に至るまでNETFLIXの強み」と楠木さん。次第にNETFLIXの顧客数が伸びていき、財政状況も好転していく。

この両社の戦いは、長く続く。2005年には、ブロックバスターは、「トータルアクセス」(店舗とメールオーダーの融合)で強烈に巻き返す。しかし、販売経費がかさみ、バランスシートへの悪影響が進んでいた。

ストリーミングとサブスクリプションの融合という潮流に乗れたのはNETFLIXだった

始まって10年くらいのストリーミングの世界に、NETFLIXが乗り出したのは決して早くはない。技術の成熟を待ち最適のタイミングを捉えたのはヘイスティングスのおかげだろうと、楠木さん。ブロックバスターのない今では、最大の敵はディズニーだろうとおっしゃる。コンテンツの勝負になってきたのだ。

コンテンツに深い思い入れがあるディズニーに対し、NETFLIXにはそれがない。客の満足というゴールでつながれば良いと割り切っている。ランドルフ退社後のヘイスティングスの面目躍如であると、楠木さん。

NETFLIXは今やコンテンツメーカーでもある。データとアルゴリズムを生かして、顧客の喜ぶコンテンツを自主制作していると、鹿島さん。
「後出しジャンケン」ですねと楠木さん。絶対に当たるのだと。

終わりに

このレポートでは、対談のほんの一部しかご紹介していません。他にも、例によって興味深いお話が満載でした。映画情報誌「ぴあ」のアイディアは鹿島さんが出したなどの裏話も含めて、1時間40分はあっという間に過ぎました。

皆さんも、ALL REVIEWS友の会の月刊ALL REVIEWSのビデオ収録に参加しませんか?

筆者はこの対談の後、NETFLIXに加入し連作ビデオを見始めてしまいました。寝不足です(*^^*)

なお、楠木さんが冒頭で言及された、「この本以前の面白いビジネス書」はこれです。『SHOE DOG』

楠木さんによる関連書評:

【記事を書いた人】hiro
https://twitter.com/hfukuchi

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