アップリンク渋谷の閉館

 2021年5月20日をもって、アップリンク渋谷が閉館するそうだ。
 高校生のころから幾度となく通った、奥渋谷の狭いビルの中の映画館。最前列のハンモックみたいな席に座るのが好きで、毎回そこを選んで座っていた。『牯嶺街少年殺人事件』も、『久高オデッセイ』三部作も、あの座り心地の良いハンモック席に包まれながら息をこらして観た。

 COVIDが昨年から猛威を振るい続ける中、映画館の経営はとても大変なことだっただろうと思う。全く知らない人と2時間近く同じ空間を共にする、という何にも代えがたい映画経験そのものが、感染の危険から忌避されるようになったこの病禍では、従来の映画館の上映形態のままでは厳しいというのは間違いないであろう(しかし、この病禍の中で封切られた『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は歴代最高興行収入の397億円を記録【2021年4月19日時点】し、未だにその記録は伸び続けているというのもまた妙な事実ではある)。

 ただ、アップリンクに関しては、閉館はとても悲しい一方で、なんだか手放しでは感情が動かないというか、心に引っかかる問題があるのだ。

 それは社長(及び一部従業員)によるパワーハラスメント問題である。

 従業員に対するパワハラが提訴され、一気に問題化したこの事件は、半年ほどで「和解」という形を以って終結したかのように見えた。おそらく裁判所から弁護人を通じて双方に「和解」が提案されたのであろうが、原告(従業員)側が作ったTwitterアカウントに上げられたその「和解」の内実を読む限り、一般的な意味で用いられる「和解」とはだいぶ違った印象を受けるものだった。

 また会社サイドは社長が「社外取締役を設置する」「アンガーマネジメント講座を受ける」等、いまいち良く分からない弁を述べていたが、いずれにしてもそれ以降、一体どうなっているのか続報のないままこの閉館のお知らせを見た私としては、やはりどうしても従業員のことを考えざるを得ない。

 経営はとても苦しい状況だろうと思うが、それでもまだ、社長は京都と吉祥寺で映画館の経営を続けて行くのであろう。しかし、渋谷の従業員はCOVIDが猛威を振るう中、職場が閉館した後は一体どうすればよいのだろう。吉祥寺と京都に全員が転勤できるならば分からないが、仮にこれが事実上の解雇ということになってしまうのだとしたら、あまりにも不憫すぎる結末ではないだろうか。

 アップリンクにはこうした大きな問題を起こした以上、他の劇場以上に従業員に対して配慮すべき責務があると私は思う。

 このパワハラ問題のほとぼりの冷めない中で渋谷が閉館するという事に、私はどうしてもモヤモヤとした気持ちを拭い去ることができないままでいる。

 劇場運営の内実は私は何も知らない。提訴した従業員の方々は、もう劇場を離れてしまっているのかも知れないし、いま渋谷で働いている人々も既に次の仕事は決まっているかも知れず、ちゃんと円満な終わり方をしている可能性もあって、またそうであって欲しいと願うが、何も知らない外野として、ここに、閉館の寂しさと悲しさ、そしてパワハラ問題からつながる違和感をメモしておきたいと思う。


 結びに、愚策「withコロナ」を標榜した結果、こうした経営難を作り出した元凶、日本政府と東京都に対し、今からでも各業種・各個人に対する充分な補償と、出来うる限りの感染対策を取って新規感染者をゼロに減らし、既に感染した方々へは手厚く治療支援をすることで、ゼロコロナとしていく方針へすぐに転換するよう、怒りを込めて要請する。

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