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あまりはっきりとした道筋のないプロジェクトであることをお知らせします。

企画者の佃です。「翻訳するディスタンス」公募を始めて数日経ちました。
いくつかご質問を受けることがあったため、HAPS沢田さんと徐々に企画説明に補足をしていこうと思います。

ちなみに、HAPSウェブサイトの方の企画ページも、ありがたくも日々少しずつHAPS沢田さんにより内容に手が加えられ、この企画がいかにじりじり探りながら進んでいるかがよくわかります。

HAPS沢田さんにした説明とはまた違いますが、この企画を始めた理由は今日の考えでは大まかに四つ。

1.作家が「翻訳する」や「テキストを書く」ことを試みる機会を作ってみたい。
2.作家の制作への考えが、「作品を制作しない人」にとってどのように受け取られるものなのか、互いにどういう影響が出るのか(出ないのか)を知りたい。
3.「英語」の立ち位置ってなんぞや。
4.STUDIO VOICEのVOL.415を読んでこんなコレクティブは作れないと思ったけど、人と話したい。

以下補足します。

1について。
日頃、作家(私のわかる美術の作家の場合)がテキストを書く時というのは、かなり追い詰められているときが多い。レジデンスや公募展、助成金申請などの各種申請の締切直前。もしくは展覧会直前(又は開始直後)など。とにかく締切が近い。

私はこれまでアーティスト・イン・レジデンスに応募する機会がわりと多かったので、そのたび、締切間近の深夜に、過去の自分の作品の説明を日本語でも英語でも書き直し、書き直し、書き直し続けながら、この作品はそういうことをしたかったのか、とその時々の言葉で書き直してきました。

過去の作品を、今の自分の目線で捉え直してみる。そういう機会は、締め切りに追われているときでなくてもあっていい。あったらどうなるのか。

特に、言語を変えようとするときに、今までの自分の日本語の使い方すら振り返る機会は多い。「この言葉の幅で本当に今の自分の制作は当てはまっているのか」「どこまで言語化したいのか」と日本語でも、英語でも、スペイン語でも、いつも振り返ります。

2について。
私は、美術の分野外の友人と話をするときに、自分の制作に関しての説明を、相手によっていろいろ変えてみています。それは大体の作家が、というより誰もがしていることだと思います。ここにも「翻訳」は生じます。

では、どの「言語」を使って制作を説明するのか、その都度どうやって決めるのか、それは、自分の投げかけた一言に対して相手がどう反応するかを見て選びます。

自分なりの美術の制作への言葉が、話相手の分野の哲学だったり、学生とのやりとりだったり、酒場でのルールだったり、はまる漫画の傾向だったり、OLさんの趣味だったり、お母さんとしての役割だったり、別の分野の文脈に読みかえられて受け取られ、変化したり、かえってわかりやすくなったり、気づいたことのない考え方になって返ってきます。返ってこないこともあります。

私が美術の制作について話しているときに、相手はどう私の話を変換してくれているかはわかりませんが、「佃はよくわからないことをごちゃごちゃ考えていたなあ」が、相手の日常の仕事や生活で何かにうまく変換されるかもしれないし、少なくとも次にアートを見るときに、「この作家はなんでここを緑色のぎざぎざにしたんだろう」と一歩作品に深入りして想像してくれるかもしれません。

3について。
芸術は、少なくとも私の知る美術分野には、英語圏のルールが大きく強くあります。ただ、日本国内で制作しているときには、良くも悪くも気にしなくても作ることができます。

英語圏の芸術に参入したいなら、もちろん英語は必要です。西洋の美術の歴史も英語にまつわる文化も全部勉強が必要です。大変です。ただ、それはちょっと置いといて、英語ってもっと自分に、日本語にとって便利なように使う方法を探してみてもよいのでは?英語にまつわる芸術のすべてと向き合うか向き合わないか決める前に、「恥知らずにでも使ってみる」道具としての英語、まずは持ってみてもいいんじゃないか?と思っています。(ほんまの恥知らずでずっといるのは危ないですが。)

また、興味を持てる他の言語や国や文化があるなら、英語じゃなくてもいいのでは?でもそういうときも英語を間にはさんで便利に使えることもあります。

じゃあ津軽弁にするなら?スワヒリ語の手話にするなら?台湾の奥地のおばあちゃんの言葉にするなら?今度生まれてくる甥っ子か姪っ子のための言葉にするなら?そういう制作をするには、英語は直接いらないかもしれないけれど、この企画で人と話していたら、英語と一緒に見ないようにしていたものに興味を持てるようになるかもしれない。

私は、「英語」の立ち位置について話したいことがたくさんあります。他のいい付き合いのできる言語でもいい。もう古くなってきたクールジャパンとかでなく、いま日本で制作する人たちの強みが見つかるような話をしたい。

4について。
そんなときにSTUDIO VOICEのVOL.415の中のインドネシア・ジョグジャカルタのコレクティブ(あの次のドクメンタのディレクターのruangrupaなど)の特集を読んでいました。他の特集もおもしろいですよ。

日本では、ジョグジャカルタのように、安い家賃の誰かのシェアハウスになんとなく寄り集まって目的なく話し始められるコレクティブを作ることはとても難しいです。家賃が高くて、人が生活費を稼ぐのに忙しいから。

私もそんな家賃の安いシェアハウスは持っていないのですが、人より時間の融通がきくので、コレクティブを作ろうとする代わりに、企画・プロジェクトというかたちで、一時的に人がうっすらとした目的で集まったり同じテーマについて話したりする機会、というのを作ってみることにしました。

この機会が、それぞれの作家の中で、次にやってみたい制作や展示やプロジェクトにつながっていけばおもしろい、と思っているので、私には作りたい「ALLNIGHT HAPSの展覧会」のアイディアはありません。展示自体は必ずしも「翻訳」と絡めなければいけないとも思いません。みなさんの、今ひとりでスタジオにこもるだけだとちょっとできない「やりたい」のうち、この「翻訳」の機会に進められる考えがあるなら話したい。

あまりはっきりとした道筋のないプロジェクトであることをお知らせします。

展覧会づくりに至るまでに、参加する作家とも翻訳の協力者とも興味を持ってくれるいろんな方と、仮の集まりとはいえ、たくさん話をできればいいなと思います。

ご応募たくさんお待ちしております。

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